トゥレット症候群に対する最適な視床刺激部位はどこか

公開日:

2021年9月21日  

最終更新日:

2021年9月22日

Neuroanatomical considerations for optimizing thalamic deep brain stimulation in Tourette syndrome

Author:

Morishita T, Sakai Y (co-first)  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Fukuoka University Faculty of Medicine, Fukuoka, Japan and ATR Brain Information Communication Research Laboratory Group, Kyoto, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:34359039]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

トゥレット症候群は,小児期に発症し,音声チックと運動チックが持続する精神神経疾患であり,発症率は1万人に5人前後とされている.通常はハロペリドールなどの薬物療法や行動療法が行われる.重症例には深部脳刺激(DBS)が行われることがあるが(文献1,2,3),副作用もあり,その有効性の評価は一定していない.福岡大学のMorishitaらは,効果や副作用の発現が刺激される視床核ならびにそれらと関連する脳内ネットワークに左右されている可能性を考慮して,自験の8例を基に刺激の効果と副作用から刺激される脳領域(VTA)の三次元的な位置関係を検討した.何れの患者もDBS前に3種類以上の薬物投与が行われていた.

【結論】

治療前に比較してDBS開始後平均11ヵ月時点で,Yaleチック重症度スケールなど3種の評価スケールの全てで有意の症状改善が認められた.治療効果が得られた刺激ではVTAは標準脳(MNIスペース)上の視床内側中心(CM)核と外側腹側(VL)核をカバーしており標準脳ネットワークにおける運動ネットワークに関連していた.副作用のしびれ感は視床腹尾側(VC)核の刺激,めまい感は赤核(RN)の刺激と関連していた.うつ感情の出現は視床背内側(MD)核ならびに辺縁系ネットワークと関連していた.
良好な治療効果の為には、上記の機能解剖学的位置関係を考慮した正確なDBS電極の挿入と細かいプログラミングが必要である.

【評価】

多様な運動チックと1つ以上の音声チックを有して,何らかのチックを認める期間が1年以上に及ぶ場合に,トゥレット障害と診断される.強迫性障害(obsessive-compulsive disorder:OCD)及び注意欠陥・多動性障害(ADHD)など様々な精神神経疾患を併発する.4~11歳頃に発症することが多く,10~15歳頃に最悪時を迎えるが,成人期初めまでに消失や軽快に転じる場合が多い.皮質-線条体-視床-皮質回路(cortico-striato-thalamo-cortical circuit:CSTC回路),特にドーパミン系の異常が想定されている.治療には薬物療法,認知行動療法が用いられる(以上,脳科学辞典,トゥレット障害より引用,文献4).
トゥレット症候群の発症率は1~30人/1万人,米国では6-17歳児における有病率は3人/1,000人くらいと推定されているので(文献5),脳外科医の多くが取り組んでいる脳腫瘍などよりはるかにありふれた疾患である.一部の患者では,成人後も激しいチックが続き,それに伴う怪我や社会参加の制限のために生活の質(QOL)が強く障害される.薬物療法としては,ハロペリドール,リスペリドン,クロニジンなどが試みられているが,すべての患者に有効なわけではない.このため,難治性のトゥレット症候群に対しては視床CM-Pf核や淡蒼球内節をターゲットとしたDBSが試みられてきたが(文献1,2,3),まだいずれも少数例であり,その効果に対する評価も様々で,刺激によるしびれ,めまい,うつ,エネルギーの低下感などの副作用も報告されている.
Morishitaらの本報告ではDBS開始前に比較して,DBS開始後平均11ヵ月時点での3個の評価スケール(YGTSS,YBOCS,HAM-D)はいずれも改善を示しており,トゥレット症候群に対するDBSの有用性を示唆している.
治療効果は刺激範囲が視床内側中心(CM)核と外側腹側(VL)核をカバーした時に得られた. 副作用のしびれ感は視床腹尾側(VC)核,めまい感は赤核(RN)の刺激範囲と関連し,うつ感情の出現は視床背内側(MD)核の刺激範囲ならびに辺縁系ネットワークと関連していたことを示した.
著者らはこの知見を考慮して,刺激電極はVL核とCM核の前縁を貫くように挿入されるべきであると結論している.さらに,副作用も含めた症状の変化を詳細にモニタリングしながら刺激強度やコンタクトの選択を行うことを推奨している.
著者らも述べているように,本研究には対象患者8例中4例が18歳以下で自然経過での改善が起こり得る年齢であること,患者自身のDWIデータに基づくコネクトームではなく標準脳コネクトームを用いていること,対照を置かない研究であることなどの問題もある.今後,より大規模なRCTでかつ個人別の脳内ネットワークを基盤とする解析が実施されることを期待したい.

<著者コメント>
トゥレット症候群に対する視床内側中心核のDBSに関する報告は散見されていたものの,神経核内のどの部位をターゲットとすべきか文献中に詳細に明示されておらず,本手術を行うためには,曖昧な記載を頼りに手探りで手法を模索するか,治療経験を有する外科医から直接手ほどきを受ける他なかった.これからトゥレット症候群に対するDBSを学ぶ外科医達にとって,有益な治療指針となることを願い,本研究論文を執筆した.
DBSが効果を発揮しない原因の一つに,不適切な位置への電極留置が挙げられる.即時的に効果が確認できるパーキンソン病や振戦と違い,トゥレット症候群では効果発現までに時間がかかる上,通常の診断用MRIシークエンスによる視床内側中心核の同定は困難である.そのため,トゥレット症候群治療において電極位置が適切かどうか判断することは非常に困難で,過去の文献で報告されているDBS不応例ではトラブルシューティングが十分に行われなかった可能性がある.
脳の形状や神経核の位置には個人差があるため,脳アトラスを基準にした座標のみに頼るのではなく,特殊な画像シークエンスを用いて視床核群を詳細に描出してターゲットを同定することは極めて重要である.また,術後に術前プランニングと電極留置部位との誤差を評価することは必須であり,標準脳を用いた電極留置部位評価も術後刺激調整の際には有益な情報となる.これらを駆使して治療精度を高める努力がDBSを行う専門医には必要と考える.
本研究で特記すべき点は,電気刺激フィールド(VTA)の関与するネットワーク解析により,我々の治療法が理にかなっていることを示せたことである.標準脳コネクトームの精度は,対象被験者個人の脳画像解析に劣らぬ高いものであり,信頼性の高い結果が得られたものと考えられる.標準脳コネクトームをはじめとした画像解析は,共同研究者の所属する京都のATR数理知能研究室に依頼したが,同様の研究を発展させる上で,臨床医と専門的な解析技術を有する基礎医学研究者達との繋がりは今後益々重要になると考えられる.
最後に,今回の研究成果は海外の研究者達にも高く評価され,TwitterなどのSNSでも話題に取り上げられた.日本の定位・機能外科領域のプレゼンスを世界に示す,重要な報告になったのではないかと思う.
(福岡大学脳神経外科 森下登史)

<コメント>
精神神経疾患であるトゥレット症候群に対しDBSを行い,その効果ならびに刺激閾値を上げて起こる副作用症状と関連する刺激領域とネットワークを解析した研究である.Lead-DBS,MNI spaceを用い,VTAマッピングから規範的な構造的コネクトームに照らし合わせた結果から,最適な刺激電極の留置部位を求めている.その結果,刺激電極はVLを貫き刺激部位はCMの前縁ボーダーが最も効果的であると述べている.
CM核は辺縁系との関連が深いと考えられ,精神神経疾患治療においては十分に注意して刺激すべき部位であると考える.ディレクショナルリードを使用することで副作用の回避ができるかもしれない.
(たかの橋中央病院ガンマナイフセンター 秋光知英)

執筆者: 

有田和徳