腫瘍溶解性アデノウイルス感染神経幹細胞の局所投与による膠芽腫の治療:第1相試験

公開日:

2021年9月28日  

最終更新日:

2021年9月28日

Neural stem cell delivery of an oncolytic adenovirus in newly diagnosed malignant glioma: a first-in-human, phase 1, dose-escalation trial

Author:

Fares J  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, Northwestern University, Feinberg School of Medicine, Chicago, IL, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34214495]

ジャーナル名:Lancet Oncol.
発行年月:2021 Aug
巻数:22(8)
開始ページ:1103

【背景】

本稿は,シカゴ・ノースウェスタン大学のチームによるグリオーマ細胞をターゲットとした腫瘍溶解性アデノウイルスCRAd-S-pk7(文献1)を感染させた神経幹細胞(NSC-CRAd-S-pk7)を用いた初発膠芽腫に対する補助療法の第1相試験の結果である.対象は12例で1例の退形成性星細胞腫(WHOグレード3)を除いてすべて膠芽腫であった.腫瘍摘出後,3種類の用量のNSC-CRAd-S-pk7が最大10ヵ所に分けて腫瘍摘出壁に注入された.その後,標準的なテモゾロミドによる化学療法と放射線治療が開始された.追跡期間は18ヵ月(IQR 14~22).

【結論】

1例で感染神経幹細胞の脳室内誤注入によってウイルス性髄膜炎が生じたが,治療の安全性に問題はなく,治療関連死はなかった.用量制限的毒性には達しなかった.したがって,今後の2/3相試験では,今回使用した3種類の用量のうち最大用量が推奨されることになる.
12症例全体ではPFS中央値は9.1ヵ月,OS中央値は18.4ヵ月であり,Stuppらの既報(6.9ヵ月,14.6ヵ月)を上回っていた(文献2).またMGMTプロモーター非メチル化9症例では,PFS中央値は8.8ヵ月,OS中央値は18.0ヵ月であり,Hegiらの既報(5.3ヵ月,12.7ヵ月)を上回っていた(文献3).

【評価】

腫瘍溶解性ウイルスとは,癌細胞に感染してこれを細胞死させるウイルスである.感染した癌細胞は融解し,感染性を持つ新たなウイルス粒子を放出して他の癌細胞に感染する.腫瘍溶解性ウイルスは腫瘍細胞を直接死に至らしめるのみならず,宿主の抗腫瘍免疫活性を上昇させる(以上,Wikipedia “腫瘍溶解性ウイルス” より引用).
腫瘍溶解性アデノウイルス治療は悪性グリオーマに対する直接的な抗腫瘍効果と免疫反応誘導をもたらし,今後発展が期待し得る有望な治療法と考えられる(文献4,5).しかし,これまでの悪性グリオーマに対する腫瘍溶解性アデノウイルス治療では,腫瘍内でのウイルス拡散や腫瘍界域を越えての脳内浸透には制限があり,血液脳関門を効果的に越えることも出来ないという問題があった.
神経幹細胞は神経系の多能性前駆細胞であり,血液脳関門を越える能力を有している.前臨床試験では神経幹細胞は悪性グリオーマの腫瘍床のみならず腫瘍-脳境界域まで分布し,脳実質内を遊走して浸潤したグリオーマ細胞にまで至る可能性が示唆されている(文献6).またその腫瘍指向性は悪性グリオーマにおける治療用分子の理想的な運搬体となる可能性を示している(文献7).
著者らは既に動物実験で,彼らが開発した腫瘍溶解性アデノウイルスCRAd-S-pk7(文献1)を感染させたヒト神経幹細胞(NSC-CRAd-S-pk7)の投与が,腫瘍溶解性アデノウイルスだけの投与に比較して生存期間中央値を50%延長させたことを報告している(文献8).
本研究は,同じコンセプトで実施された悪性グリオーマ(WHOグレード3:1例,グレード4:11例)を対象とした第1相臨床試験である(NCT03072134).その結果,安全性に大きな問題はなく,数値上は既報の標準治療のPFS,OSを超えていた.
著者らは, 本研究の結果は,より大規模コホートを対象としたコントロールスタディー(2/3相試験)の基盤を提供しており,経頭蓋カテーテルを通した反復投与や免疫チェックポイント阻害剤との併用が抗腫瘍効果をさらに高めるかも知れないと結んでいる.
今後の臨床試験の進展に注目したい.

執筆者: 

有田和徳