トルソー症候群の臨床像, 検査所見, 画像所見:一般的な脳梗塞との比較

公開日:

2021年9月28日  

Trousseau Syndrome Related Cerebral Infarction: Clinical Manifestations, Laboratory Findings and Radiological Features

Author:

Bao L  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, The Affiliated Hospital of Xuzhou Medical University, Xuzhou, Jiangsu, China

⇒ PubMedで読む[PMID:32807409]

ジャーナル名:J Stroke Cerebrovasc Dis.
発行年月:2020 Sep
巻数:29(9)
開始ページ:104891

【背景】

Trousseau症候群(TS)は悪性腫瘍による凝固能亢進状態から血栓症を生じる病態である(文献1).悪性腫瘍患者の15%が血栓塞栓性脳血管傷害に罹患し,その半数は症候性である(文献2,3).徐州医科大学Baoらは過去4年間に経験したTSによる脳梗塞患者31例を抽出し,性・年齢を一致させた大血管動脈硬化性80例,心原性塞栓性40例,小動脈閉塞性40例の脳梗塞を対照として,その臨床像,画像所見の特徴を求めた.TSの悪性腫瘍は胃癌29%,肺癌23%,以下卵巣癌,大腸癌などであった.男女ほぼ同数.平均年齢68歳(46-86).9例が既知の癌の治療中で,22例は脳梗塞発症後に癌が発見された.

【結論】

TS群の初発症状は片麻痺39%,めまい19%,意識レベル低下16%,構音障害13%などであった.TS群ではCEA,CA 125,CA 199レベルが上昇していた.Dダイマーのレベルは94%(29/31)で上昇していた.発症時の臨床的重症度(NIHSS,人工呼吸器必要患者数)はTS群が他の3群より高かった.TS群はDWIにおける複数の主幹動脈領域にわたる複数梗塞巣が最も多く(87%),1個の主幹動脈領域内での散在性梗塞巣(10%),単一梗塞巣(3%)が続いた.入院中死亡はTS群で29%と他の3群(0~8%)より高かった.発症30日目のmRSはTS群で平均3.7で,他の3群より高かった.

【評価】

Trousseau症候群は悪性腫瘍による凝固能亢進状態から血栓症を生じる病態で,最初は悪性腫瘍患者における遊走性血栓性静脈炎として報告されたが,その後心筋梗塞,脳梗塞も伴いやすいことが判ってきた.脳梗塞の成因としては過凝固を背景とする非細菌性血栓性心内膜炎による心原性脳塞栓症,大血管内で形成された微小血栓・塞栓が脳に到達する動脈原性塞栓症,深部静脈血栓が開存卵円孔を介して脳に到達する奇異性塞栓症,DICによる微小血栓・塞栓症,さらには脱水・過粘稠症候群による脳低灌流状態など複数の病態あるいはその複合などが考えられている.
すべての脳卒中入院患者の10%は癌を有しているという報告があるが(文献4),本シリーズでは31例中22例(71%)で,悪性腫瘍は入院後に発見されている.人口の高齢化とともに担癌患者は急速に増加するので,この疾患の可能性を考慮してスクリーニングを行えば,Trousseau症候群による脳梗塞の発見頻度は今後さらに増加する可能性が高い.特に腺癌は他の組織型の癌に比較して,脳梗塞を合併しやすいことが知られており(文献5),本シリーズ31例のすべてで腺癌の組織診断が得られている.また,Trousseau症候群では原発の悪性腫瘍が進行しているものが多く,かつ梗塞巣が複数であることから予後は不良であり,本シリーズでも既報と同様,他の脳卒中型に比較して神経学的重症度が高く,死亡率も高かった.
この研究の結果を受けて,複数の脳主幹動脈領域にわたる原因不明の脳梗塞にDダイマーや腺癌関連抗原の高値が伴っていれば,Trousseau症候群を疑って,全身CTを実施すべきであるというのが著者らの結論である.複数の脳主幹動脈領域にわたるというのはやや曖昧な表現であるが,2016年にFinelliらは,両側前方循環と後方循環の3領域梗塞患者(3-territory)ではその22%が悪性腫瘍関連であることを報告している(文献6).Dダイマー高値を伴う3領域梗塞で,明かな心原性塞栓が否定できれば,積極的にTrousseau症候群の検索を行うべきであろう.
治療としては,同時に出血を合併していなければ, 急性期に未分画ヘパリン静注,低分子ヘパリン静注,ヘパリンカルシウム皮下注が用いられている(文献7).再発予防におけるDOACの有効性に関してはエビデンスはないとされているが,実際の臨床現場では使用されていることも多く,疾患数の増加を考慮すれば,早く結論を出してほしいというのは現場の切実な希望であろう.

執筆者: 

有田和徳