モバイルストロークユニットの有用性に関する前向き多施設コントロール試験(米国BEST-MSU)

公開日:

2021年9月29日  

Prospective, Multicenter, Controlled Trial of Mobile Stroke Units

Author:

Grotta JC  et al.

Affiliation:

Mobile Stroke Unit, Memorial Hermann Hospital-Texas Medical Center, Houston, TX, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34496173]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2021 Sep
巻数:385(11)
開始ページ:971

【背景】

急性期脳梗塞に対してはできるだけ早いtPA投与が推奨されている(文献1,2).CTスキャンが搭載された移動式ストロークユニット(MSU)内で急性期脳梗塞の診断と同時にtPAが投与できれば,tPAの効果は上がると期待されているが(文献3,4,5),エビデンスは充分ではない.本研究は米国7都市で実施された前向き登録試験である.脳卒中救急コールに対して救急車(EMS)を派遣させる週とMSUを派遣させる週を隔週毎に割り当てた.
急性期脳卒中1,515例(MSU群886例,EMS群629例)が登録され,このうち1,047例(MSU群617例,EMS群430例)がtPA投与適格と判断された.

【結論】

tPA適格症例のうちMSU群の97%,EMS群の80%にtPAが投与された.発症からtPA投与までの平均時間はMSU群がEMS群より短かった(72 vs 108分).90日目機能予後はMSU群が良好で,主要評価項目である実用性加重修正ランキンスケール(以下UW-MRS:0~1)の平均値はMSU群ではEMS群より高く(0.72 vs 0.66),UW-MRSが0.91以上である調整オッズ比は2.43(p<.001)であった.機能予後良好例(mRS<2)はMSU群ではEMS群より多かった(55 vs 44%).
全登録症例でも退院時のUW-MRSはMSU群で良好であった(0.57 vs 0.51).

【評価】

従来からMSUの現場派遣が急性期脳梗塞患者に対するtPAの投与開始を早めることが報告されてきたが(文献3,4,5),本報告は米国7都市での前向き登録試験の結果を解析したものである.EMS(emergency medical service,救急車両)単独の派遣に対してMSU派遣(実際にはEMSも同時に派遣される)では,tPA投与までの時間は短く,発症90日目のmRSは良好であった.
EMS派遣とMSU派遣の対象患者の背景因子の差を減らすために,本試験では,各都市ごとにEMS派遣の週とMSU派遣の週を一週毎に切り替えた.実際,患者年齢,性,人種,発症前mRS,NIHSSなどの患者背景には2群間で差はなかった.
この研究で一次評価項目とされたのは,先行するDAWN試験(文献6)のために定義された実用性加重修正ランキンスケール(Utility-weighted mRS)で,mRSの0~6点をそれぞれ1.0,0.91,0.74,0.65,0.19,0.003,0に置き換えたものである.例えばmRSでは,重度の障害(寝たきり,失禁状態,常に介護と見守りを必要とする)はmRS 5で,死亡のmRS 6に対して1/6高い評価だが,実用性加重修正ランキンスケールでは0.03/10しか上がっておらず,いわば “死んだも同然” の評価である.まさしくヒトが “実用” であるかどうかを評価したドライな指標となっている.
この実用性加重修正ランキンスケールは,1,047例のtPA投与適格症例において,発症後90日目でMSU群がEMS群より高く(平均値0.72 vs 0.66),また脳出血を含む急性期脳卒中1,515例の退院時においてもMSU群がEMS群より高かった(平均値0.57 vs 0.51).すなわちMSU派遣が急性期脳卒中患者全体の機能予後を向上させることを示している.
tPAの投与は発症1時間以内が最も効果が高いことは判っているが,実際には米国でも1時間以内に投与された患者の割合は1.3%に過ぎない(文献7).本研究の対象患者でもEMS群では2.6%であったが,MSU群では32.9%に達している.こうした早期のtPA投与が機能予後の改善につながったことは容易に想像は出来る.
一方,血管内血栓除去術(EVT)はMSUで23.7%,EMS群で27.0%に施行されているが,EVTの成功率(TICIグレード)が明らかにされていないので,MSU派遣がEVTの成功率に与える影響は判らない.
問題は,1,047例のtPA適格症例をピックアップするために10,443回のMSUあるいはEMSの派遣が実施されていることである.このうち約半数がMSUの派遣であったと思われる.MSU運営によって得られる健康寿命の獲得がMSUの価格,維持費,人件費を含めた医療資源の支出に見合うのか,増分費用効果比(ICER)と国別のWTP(willing to pay)を用いた費用対効果の検討も忘れてはならない.また著者らも認めているように,本研究の問題点として,症例の77%はヒューストン市の症例で,基本的には大都市圏におけるMSUの運用効果ということが出来る.MSUがどのくらいの人口の都市圏で,どのくらいの広さ(現場到着所要時間)をカバーするのが効率的であるのかという検討もこれからの課題である.

執筆者: 

有田和徳