橋の海綿状血管腫にどこからアプローチするか

公開日:

2021年10月11日  

最終更新日:

2021年10月12日

Optimal access route for pontine cavernous malformation resection with preservation of abducens and facial nerve function

Author:

Bertalanffy H  et al.

Affiliation:

International Neuroscience Institute, Hannover, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:33307526]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2020 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

橋の海綿状血管腫の最適な摘出ルートはどこか.ハノーファーINIのBertalanffyらは自験の135例の解析を通じてこの問題を検討した.まずこの135症例をMRI所見を基に最も適切な手術ルートに基づいて4つのタイプに分けた.タイプA:13例,腫瘍は正中から離れ,橋外側面に接しているため橋の外側面からの後外側アプローチの適応,タイプB:30例,腫瘍は第四脳室底に充分近いか第四脳室内に突出しているため第四脳室底からの後内側アプローチの適応,タイプC:77例,後外側アプローチでも後内側アプローチでも利用出来る腫瘍,タイプD:15例,腫瘍は橋の前方に位置するため前外側アプローチの適応.

【結論】

タイプC77例で実際に採用されたアプローチは後外側アプローチ54例,後内側アプローチ23例であった.後外側アプローチ群では術後の恒久的外転神経麻痺と顔面神経麻痺は後内側アプローチ群より少なかった(3.7% vs 21.7%と1.9% vs 21.7%).
全135例中2例を除いて全摘出が確認できた.最終追跡時のmRSは手術前に比較して改善していた(1.6 ± 1.1から1.0 ± 1.1,p=.0001).最終追跡時の外転あるいは顔面神経麻痺は5.9%と5.2%であった.
このように良好な外転神経と顔面神経の温存率は,著者らがtype Cにおいて,後外側アプローチを好んで採用しためであろう.

【評価】

このシリーズでは,タイプA13例は橋の外側面からの後外側アプローチ,タイプB30例は第四脳室底からの後内側アプローチ,タイプD15例は前外側アプローチと,橋内での海綿状血管腫の解剖学的位置関係に基づいてほぼ自動的に最も適切なアプローチが選択されていた.
一方,後外側アプローチあるいは後内側アプローチいずれでも選択可能なタイプC77例では,いわば伝統的とも言える第四脳室底を経由する後内側アプローチよりも橋の外側面からの後外側アプローチを多用していた.実際にはタイプC77例中54例(70%)で後外側アプローチが採用され,23例(30%)では後内側アプローチが採用されていた.
以前から推奨されている腫瘍の中心と脳表に最も近い点を結んだ線上からアプローチすべきというtwo-point methodによれば(文献1),多くのタイプC腫瘍は後内側アプローチの適応になる.しかし著者らは,一見腫瘍によって薄く引き延ばされ機能が失われたかに見える橋背面(第四脳室底)には重要な神経核や線維が無傷で存在している可能性が高く,安易に後内側アプローチを選択すべきではないと述べている.
一方,橋内病変への後外側アプローチは経橋腕アプローチ(transbrachium pontis approach)とも呼ばれ,他の方法に比較して重要な神経構造の障害の可能性が低いアプローチとして最近注目されているが(文献2,3,4),著者らは腫瘍が橋の外側表面に接していないケースでもこのアプローチを頻用している.さらに,far-lateral paracondylarかtranscondylar開頭を用いることによって,充分な外側そして下方からの観察を可能としている.この結果,橋海綿状血管腫全体では50%(67/135)で後外側アプローチが採用され,高い全摘出率と従来の報告(文献5,6,7)よりも良好な,外転神経,顔面神経の温存を達成出来ている.
かたや,全体の39%(53/135)で後頭内側アプローチが採用されているが,顔面神経丘や外転神経核の局在が症例毎にかなり異なっているので(文献8),術中の電気生理学的モニターが重要であることも強調されている.このアプローチの適応は腫瘍が十分に第四脳室底に接近しているということが条件になるが,その見極めが難しい腫瘍もありそうである.この点に関しては,今後より客観的な判断基準が示されることを期待したい.
一方,橋に対してほぼ外側からアプローチする経錐体アプローチに関しては,この骨のおれるアプローチの利益は限られていると推奨していない.
本稿は,筆頭著者のBertalanffyの最も得意とする脳幹部海綿状血管腫のうち橋に存在するものに対する適切なアプローチとそれに伴う手技上のニュアンスを余すところなく紹介しており,著者らの自信もうかがえる.
これからこの部位の腫瘍に対する手術にチャレンジする世代にとって必読の論文となっている.

<コメント>
脳幹部海綿状血管腫の第一人者であるProf. Bertalanffyは常々, 外転神経と顔面神経の機能温存のためには正中からの後内側アプローチよりも後外側アプローチを優先した方が良いと考えていたので,のことを立証した論文が世に出たことを共著者として大変嬉しく思う(川崎中央クリニック 市村 真也).

執筆者: 

有田和徳