側頭葉てんかんに対する前部側頭葉切除術が夢の内容に与える影響

公開日:

2021年10月11日  

A prospective controlled study on the impact of anterior temporal lobectomy on dream content

Author:

Joswig H  et al.

Affiliation:

HMU Health and Medical University Potsdam, Ernst von Bergmann Hospital, Department of Neurosurgery, Potsdam, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:34507280]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Sep
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

扁桃体とREM睡眠期における恐怖感覚や異様な感覚との関係は以前から指摘されている(文献1,2,3).それでは,扁桃体が切除範囲に含まれる前部側頭葉切除(ATL)を受けた側頭葉てんかん患者において夢の内容はどのように変容するのか.ウェスタン・オンタリオ大学脳外科チームは前向きコントロール試験を行った.対象はATLを受けた6症例,対照はこの内の3例を含め,ステレオ脳波測定SEEG電極設置手術(全麻下)を受けた18例.患者はMost Recent Dream formに従って夢の内容を記載するよう求められた.ATL症例では術前30個,術後21個,SEEG症例で術前55個,術後60個の夢が解析された.

【結論】

夢の内容はHall/Van de Castleのコ-ディングに従って分類された.
手術前の夢は,SEEG電極設置手術患者で室内のセッティングの夢が多かったが,その他のコードに関しては,SEEG電極設置手術患者でもATL手術患者でも過去に報告された正常の夢のパターンと比較して(文献4)差はなかった.
ATLは右側4例で左側2例であった.手術成績はエンゲルクラスI:3例,クラスII:2例であった.ATL手術後,すべての分類の中で身体的攻撃(暴力)に関する夢の頻度のみが手術前の約25%から0%と有意に減少していた(p<.01).
SEEGでは,全ての夢の分類において手術前後で変化はなかった.

【評価】

この結果を受けて著者らは,扁桃体を含む側頭葉は夢における感情統合装置として,攻撃的な夢の生成に関わっている可能性があると推測している.また,難治性てんかん患者やその他の神経疾患のケアに関わる医師は,夢の内容を通してアクセス可能な患者の内面的生活と治療を調和させる必要があると結論している.
扁桃体は不安や恐怖といった感情と深く関連していることが推測されており,側頭葉てんかんの前兆としての漠然とした不安や恐怖は良く知られている.最近では,扁桃体がPTSDと深く関係していること,その治療ターゲットとなり得ることも示唆されている(文献5).
日頃あまり気にする事のない難治性てんかん患者の夢の内容であるが,患者にとってはQOLを左右する睡眠の質に関わる重要な要素なのかも知れない.今後,注目すべき課題と思われる.
また夢の内容と睡眠中のSEEG所見との関係,他の神経心理学的な評価との相関,手術方法との関係など検討すべきテーマも山積している.

<コメント>
ATLによって身体的攻撃に関する夢が有意に減少したとのことであるが,扁桃体の切除範囲との関連については明らかにされていない.ATLで扁桃体を完全に切除するのは結構難しくて,どうしても深部は残すことが多いが,扁桃体を多く残すと術後に前兆が残るような印象を持っている.また従来報告されているPTSDと扁桃体との関係においても扁桃体の中のどの固有核が関与しているかは明らかではなく,今後追求すべきテーマであると思われる.(広島大学病院てんかんセンター 飯田幸治)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

花谷亮典