難治性てんかんを示す限局性皮質異形成に対する手術成績を左右する因子:355例の検討から

公開日:

2021年10月20日  

最終更新日:

2021年10月20日

Predictors of surgical outcome in focal cortical dysplasia and its subtypes

Author:

Jayalakshmi S  et al.

Affiliation:

Departments of Neurology, Krishna Institute of Medical Sciences, Secunderabad, India

⇒ PubMedで読む[PMID:34330093]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Jul
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

限局性皮質異形成(FCD)は,難治性てんかんの重要な原因の1つであるが,摘出術後のてんかんコントロールに寄与する因子は十分にわかっていない(文献1,2).インドのクリシュナ医科大学のチームは,自験のFCDに伴った難治性てんかん患者の手術症例355例(手術時平均年齢20歳)を後方視的に解析し,手術後のてんかん発作消失に関連する因子を検討した(追跡期間2~13年).40%が連日の発作を呈し,25%が複数の発作タイプを呈した.病理学的にはFCDタイプI:27%,タイプII:28%,タイプIII:43%であった.42%に海馬扁桃体を含む前部側頭葉切除が,40%に焦点切除が施行された.

【結論】

最終追跡時72%がILAEクラス1(てんかん発作消失),12%は無投薬でのクラス1であった.クラス1の頻度はFCDタイプIII:89%,タイプII:69%,タイプI:51%であった.
多変量解析では複数の発作タイプ,術後早期の発作,タイプIが術後発作持続の予測因子であった.タイプIIIはクラス1の最も強い予測因子であった.タイプIは連日の発作,前頭葉あるいは多葉への分布,MRI所見の不明瞭,不完全切除,術後発作持続と相関した.タイプIIとIIIは,MRIでの辺縁明瞭,脳波異常の限局,発作時SPECT異常の限局,完全切除,クラス1と相関した.タイプIIIは側頭葉内が90%であった.

【評価】

本研究は自験の355例を解析して,ILAEによる分類に基づくFCDタイプIとFCDタイプII/IIIでは,発作頻度,術前脳波所見,MRI,SPECT所見,病変切除率,発作転帰(ILAEクラス1)が大きく異なることを明らかにした.
術前検査としては全例が3T-MRI,長期ビデオ脳波検査(最低2回の発作解析),構造的神経心理学的評価,発達評価を受けている.これに加えて,73%(262例)がFDG-PET(MRI融合画像),44%(157例)が発作時SPECT検査を受けている.手術はMRI,FDG-PET,発作時SPECTの2つ以上が一致した時に実施されている.手術方法には局所切除(病変切除/脳葉切除),多葉切除,前部側頭葉切除(ATL-AH),後方離断が含まれていた.また,術中のECoGは全例で,必要に応じて術前MRIとFDG-PETデータを基にしたneuronavigation,eloquent areaでは皮質電気刺激も行っている.
従って,経済的な理由によってMEGと頭蓋内脳波が利用出来ていないことを除けば,高いレベルのワークアップの下で行われている術前評価と手術と考えられる.
本シリーズでは,手術後追跡期間2~13年で発作無し(ILAEクラス1)の頻度は72%で,従来の報告に基づくメタアナリシスでの55.8 ± 16.2(SD)%と比較して遜色のない結果となっている.本研究でも従来の報告(文献3)と同様にFCD病変の完全摘出が手術後の発作消失と強く相関することを示している.辺縁不明瞭で多葉にわたる病変が多いFCDタイプIでは辺縁明瞭で側頭葉に限局する病変が多いタイプIIIに対して病変完全摘出の割合が低下しており(49.5 vs 96.5%,p<.05),このことがタイプIで術後ILAEクラス1が少ない理由となっている(50.5 vs 88.8%,p<.05).
ここで取り挙げられているILAEによるFCDの分類ではタイプIが皮質構築の乱れのみ,タイプIIaが皮質構築の乱れに加えてdysmorphic neuronを含むもの,タイプIIbは皮質構築の乱れに加えてdysmorphic neuronとballoon cellを含むもの,タイプIIIは何らかの器質的病変に伴って認められる皮質構築の乱れとなっている(文献4).
興味深いのは,本シリーズのみならず既報でも,病理学的によりシンプルなタイプIの方が,より複雑なタイプIIやタイプIIIよりも,手術成績が悪いことで,大規模な多施設コホートでも手術によるタイプIのけいれん消失は50%に過ぎない(文献5).この事は,タイプIの方がMRIでの病変を超えたより広範なてんかん原性ネットワークを伴っていることを示唆しているのかも知れない.
本研究の結果からは,連日のてんかん発作,側方性の乏しい発作,発作間欠期脳波異常や発作起始時脳波異常の全般化所見を有し,MRIで辺縁不明瞭な病変ではFCDタイプIであることを考慮して,より詳細な術前評価,可能であれば頭蓋内脳波検査も実施する必要があるという実践的な指針が引き出せるのかも知れない.

<コメント>
本研究は,侵襲的検査を行わず,非侵襲的検査(MRI,PET,発作時SPECTが主体)のみで診断し,切除手術に至ったFCDの相当数を解析した研究である.術後追跡期間も2〜13年(平均値も中央値も記載はないが)と申し分ない.
しかし,本研究の最大の問題点は,FCDタイプI/IIとタイプIIIを,同列に評価している点である.ILAE分類のFCDタイプI/IIは組織学的異常により分類され,病変そのものがてんかん原性をもつ,すなわち内因性てんかん原性を有する病変である.一方,タイプIIIは,海馬硬化や腫瘍,血管奇形,外傷,瘢痕病変などを主病変とし,それに伴って認められる細胞配列異常であり,前者が形態学的な分類であるのに対し,後者は病因による分類となっており,異なる指標に基づく分類である.
著者らの先行論文(AJNR,文献6)ではタイプIIIは除外されていたのに,本研究では含まれている.また,本研究でも用いられているMRIにおけるclear-cut FCDという所見は,先行論文においても明確には定義されていない.果たして,“clear-cut FCD”という所見が,タイプIIIにおいても明確に認識可能かどうか,コンセンサスが得られているとは思えない.
本論文では,タイプIIIが最も強い発作予後良好因子で,側頭葉局在と関連していたとしている.しかし本シリーズの病理内訳を見ると,海馬硬化に伴うタイプIIIaが355例中116例(32.6%)と最も多く,タイプIIIの中でもタイプIIIaは152例中の116例(76%)と大多数を占めており,本シリーズのタイプIIIの良好な治療成績は海馬硬化に伴うMTLEに対する手術効果が色濃く反映された結果と言わざるを得ない.確かに,海馬硬化に伴うMTLE症例の側頭葉外側皮質には皮髄境界が不明瞭な所見を認めることがある.これをもってFCDとし,MTLEに対する前側頭葉切除を行ってFCDを完全切除したということが,ETLEにおけるFCDタイプ I/IIを完全切除したということと同義に語られて良いのであろうか.このような報告が出てくるのは,以前から疑問視されているILAE分類の問題点そのものに起因する可能性がある.
先行論文は侵襲的検査抜きで,非侵襲的検査のみで治療した多数のFCD症例をまとめたとする,まだ容認できる論文であったが,本論文はその水増し論文であり,かつ悪い方向に水増しされたものと思えてならない.(西新潟中央病院機能脳神経外科 白水洋史)

執筆者: 

有田和徳