癌の髄膜播種に対するシャント手術は有効か:Sloan Kettering癌センターにおける190例

公開日:

2021年10月20日  

最終更新日:

2021年10月30日

Cerebrospinal fluid diversion for leptomeningeal metastasis: palliative, procedural and oncologic outcomes

Author:

Bander ED  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery and Brain Metastasis Center, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34406564]

ジャーナル名:J Neurooncol.
発行年月:2021 Sep
巻数:154(3)
開始ページ:301

【背景】

髄膜播種は固形癌の3~5%に認められ(文献1),水頭症や頭蓋内圧亢進をもたらす.癌の終末的病態であるため,これに対するシャント手術の臨床的な意義や問題点についてはあまり議論されることがなかった.Sloan Kettering癌センターのチームは癌の髄膜播種のため最近10年間にシャント手術が行われた自験の患者190例を後方視的に解析してこれらの問題を検討した.原発巣は非小細胞肺癌41%,乳癌34%などであった.髄膜播種の診断は腰椎穿刺単独20%,MRI単独19.5%,両者併用59.5%.髄膜播種診断時の症状は頭痛(31%),歩行障害(16%),意識変容(15%),嘔吐(13%)などであった.

【結論】

OSは髄膜播種診断後で4.1ヵ月(CI:3.29~4.70),シャント後で2.4ヵ月(CI:2.01~3.09)であった.シャント時のKPSとOS(HR=0.66;CI[0.51~0.86],p=.002),髄膜播種診断時の脳転移の数とOSとは相関した(転移巣10個についてHR=1.40;CI[1.01~1.93],p=.04).83%の患者はシャント手術後に症状改善を自覚し,79%は自宅かリハビリ施設に退院した.シャント後に56%で追加的全身的治療(化学療法,免疫治療など)が行われるか全脳照射が開始あるいは完遂された.シャント後の腹腔播種は認められなかった.

【評価】

髄膜播種は一般に癌の終末的病態であり,高頻度に合併する水頭症の症状改善のためにシャント手術を必要とすることが多い.従来の報告では癌の髄膜播種の生存期間は2~5ヵ月であるが(文献2,3,4),本シリーズの全生存期間も髄膜播種診断後4.1ヵ月であり,差はない.すなわち,直近10年間にSloan Kettering癌センターという世界最高レベルの医療機関で治療・ケアを受けても,シャント手術を必要とするような髄膜播種を示す患者に関しては,癌治療学の急速な進歩の恩恵はもたらされていないことになる.
しかし,シャント手術直後あるいは初回外来受診までに83%の患者で自覚的な症状改善が得られ,71%が自宅への退院が可能になっており,56%で追加治療の開始あるいは中止されていた治療の再開が可能になっている.
このシリーズでは1例の脳室胸腔シャントを除いて他の189例で脳室腹腔シャントが行われており,172例(91%)で前角穿刺が採用されている.シャント手術の合併症としては硬膜下水腫/血腫13%,感染症5%,シャント機能不全5%などが認められており,通常の水頭症に対するシャント手術のそれと大きく異なるものではないようだ.
本報告で重要な発見は,小児の頭蓋内原発腫瘍で報告されているようなシャント後の腹腔への播種(文献5,6)が認められなかった点で,従来,臨床家が漠然と抱いていた危惧が,少なくとも固形癌の髄膜播種に関する限りでは,杞憂に過ぎないことが判った.もちろんこれには,対象患者の生命予後が短いことが影響している可能性が高い.
本研究ではKPS≧60の患者ではシャント後のOSは3.63ヵ月,少ない転移巣(<8)の患者ではシャント後のOSは2.89ヵ月であり,この2つは多変量解析でそれぞれ独立した良好なOSの予測因子であった.逆にシャント手術後のOSは,KPS<60では1.95ヵ月,転移巣8個以上では1.04ヵ月に過ぎず,質の良い生存期間は極めて限られていることになる.特に,これらの症例に対するシャント手術の実施に当たっては,終末期における患者/介護者の状態とニーズに充分に配慮すべき事が示唆される.

執筆者: 

有田和徳