高齢者に対するてんかんの手術が遅すぎることはない:Mayoクリニックの73例

公開日:

2021年11月8日  

Outcomes of epilepsy surgery in the older population: not too old, not too late

Author:

Kerezoudis P  et al.

Affiliation:

Department of Neurologic Surgery, Mayo Clinic, Rochester, Minnesota, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34624847]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Oct
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

高齢者のてんかん有病率は増えているが(文献1,2),その手術適用については充分に明らかにはなっていない.Mayoクリニックのチームは過去17年間に切除手術が実施された50歳以上の高齢者73例(1群50~59歳,2群60~69歳,3群70歳以上)を対象にその成績を検討した.年齢中央値は63歳,66%が女性で,73%で側頭葉切除が施行された.病理診断は内側側頭葉硬化が最多で52%,続いて非特異的グリオーシス19%であった.追跡期間中央値24ヵ月でてんかん消失は全体で73%,年齢1群63%,2群77%,3群70%であった.
既報の15本474例に本シリーズ73例を加えた547例のメタ解析も実施した.

【結論】

547例の患者個別データのプール解析(平均追跡期間39ヵ月)では,てんかん消失は65%(95%CI 59~72%)であった.多変量メタ解析では高齢であること(係数2.1,CI 1.1~3.1,p<.001)と内側側頭葉硬化の存在(係数0.3,CI 0.1~0.6,p=.015)がてんかん消失の最も強い予測因子であった.
米国Vizient社の入院患者情報データベースによれば,米国における高齢者てんかん手術において,死亡率は1群,2群,3群で0.5,1.1,9.6%,合併症率は7.1,10.1,17.3%,平均入院費用は約3.2,3.5,4.0万ドルであった.

【評価】

本研究では,50歳以上の高齢者73例におけるてんかん手術(切除手術)の結果,てんかん消失(ILAEクラス 1~2)の頻度は73%で,有意ではないが60-69歳群が最も高く77%であった.また,547例のメタアナリシスでは術後てんかん消失は65%の頻度であった.
高齢者に対する開頭手術なので合併症の発生が気になるところであるが,このMayoのシリーズでは手術による死亡はなく,視野障害以外の恒久的神経症状は7%で生じ,創感染は1.4%,再手術を要する血腫形成は6.8%であった.米国の臨床現場の医療統計(Vizient社の入院患者情報データベース)では合併症率は7.1~17.3%であった.
著者らはこれらの手術効果あるいは合併症率は若年者のそれに匹敵するものであり(文献3,4,5),てんかん外科手術は高齢者でも比較的安全かつ有効な治療法であることを示しているという.ちなみに本シリーズでは視野障害は19%で生じており,これも最近の推定値と同様である(文献6).
興味深いのは多変量メタ解析では海馬硬化と並んで高年齢がてんかん消失の予測因子であったことで,著者らはこの理由を明らかにしてはいないが,少なくとも高齢(例えば70歳以上)を理由にてんかん外科手術の対象から排除することは出来ないことが示唆される.
高齢者への開頭手術では高次脳機能への影響が危惧されるところであるが,著者らのシリーズでは75%は認知機能は維持か改善していたという.しかし,系統的で詳細な神経心理学的検査を行なっていないので,高次脳機能への影響は今後の課題として残されている.
本研究では,費用効果の検討も行われている.対象の高齢者では手術と入院にかかる費用は,1~3群の平均が3.2,3.5,4.0万ドルであり,18~49歳の患者群の3.1万ドルに比較して,1千ドル~1万ドルほど高いが,これは若年者群に比較して入院期間が長いことがその理由と考えられている(平均在院日数,18~49歳で5.3日,70歳以上で12日).
米国における難治性側頭葉てんかんの手術に関する増分費用効果比(ICER)はヘルスケアで3.2万ドル,社会面で6.1万ドル,併せて9.3万ドルと算出されているので(文献7),手術でてんかんが消失すれば3年で費用効果を達成することになる.
これらの研究結果は,高齢者に対するてんかん手術の有望さを示すものであるが,今後その有効性に関しては若年者同様にRCTで証明される必要性がある(文献3).質の高いエビデンスが得られれば,てんかん外科手術は増加しつつある高齢者の難治性てんかんに対する有力な武器として定着する可能性が高い.
なおJNS同一日オンライン掲載論文にはドイツ・ボン大学からの同じテーマで “Outcome after resective epilepsy surgery in the elderly” があるが(文献8),これによれば,年齢60歳以上でてんかん手術を受けた20例における手術後1年でのエンゲルクラスI+IIの頻度は1年後75%,最終追跡時65%とMayoシリーズと同様に高いが,性・病理所見・切除側をマッチさせた20-40歳の患者60例の方が良い傾向であった(90%と87%,p=.092とp=.032).

<コメント>
十分な評価の上で切除手術の適応になるような患者では,高齢者でも術後転機は非高齢者群と比してあまり劣らないことが知られている.特に側頭葉てんかんでは,長期罹患に伴う対側海馬の興奮性獲得が懸念されるが,てんかん焦点が両側にある患者は,そもそも切除手術の適応とはなっていないため,この良好な術後転機は当然とも言える.
一方で,薬剤抵抗性てんかんをもつ高齢者,特に内側側頭葉てんかん(mTLE)患者では,手術にあたって,認知機能への影響が懸念材料となる.Mayoクリニックの手術対象は,認知機能の詳細な評価がなされていないものの,術後に大きな問題はなかったとのことである.一方で,Bonn大学からの同一テーマでの報告では(文献8),神経心理学的および行動学的評価で術前にかなりの障害を伴い,術後には特に高齢者で言語能力,記憶力(p<0.05),気分がさらに悪化したとある.これは,Mayoのシリーズは発症年齢が中央値で40歳,70歳以上の患者では発症年齢が53歳とかなり遅い一方,Bonnのシリーズは発症年齢が平均26歳,手術時年齢が平均66歳となっており,罹患年数の違いが影響していることが考えられる.既報でも神経心理への影響は報告によって異なっており,罹患年数や発症時年齢,手術時年齢などの違いが影響することが推測される.
また,大変な労作であるが,考察から結論にかけての力わざ的記載が気になる.特に,Mayoのシリーズで,高齢者では特に配慮が必要な神経心理検査が行われておらず,また,副次評価項目にあげた神経心理への影響は結果に記載されていないにもかかわらず,メタアナリシスで用いた症例を考察で引用して,高齢者で特に影響はなかったと結論づけている.さらに,視野狭窄を伴う例は19%と既報と比べて著しく低く,最近の成績として引用した論文は内側側頭葉てんかんに対するlaser ablationでの報告であった.本論文でいう視野狭窄の発生率とは,視野検査上の異常ではなく,自覚症状をきたした頻度ではないかと疑われる.
これらのことを考慮すれば,本論文のエッセンスは,十分な術前検査により単一焦点が同定され,罹患年数が20年程度の高齢者であればてんかん手術の術後転機は良好で,神経心理への影響は比較的少ないと捉えるのが穏当ではないだろうか.(鹿児島大学病院てんかんセンター 花谷亮典)

執筆者: 

有田和徳