脊髄くも膜Webとは何か? 病態・自然史・治療・転帰

公開日:

2021年11月8日  

Spinal Arachnoid Webs: Presentation, Natural History, and Outcomes in 38 Patients

Author:

Laxpati N  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Emory University School of Medicine, Atlanta, Georgia, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34432878]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2021 Oct
巻数:89(5)
開始ページ:917

【背景】

脊髄くも膜webは胸髄背側の肥厚したくも膜の帯で,これにより脊髄圧迫症状が起こることがあるが,稀な疾患でありその病態は明らかではない.エモリー大学脳外科は,過去最大の38例(女性24例,平均年齢55歳,平均病悩期間4.6年)を対象としてその臨床像を解析した.MRI所見はScalpel(メスの刃)サイン95%,脊髄空洞32%,脊髄信号の変化53%であった.中枢神経損傷を伴う外傷の既往は8%に認められた.81%が肥満(BMI>25),21%が喫煙者で,31%が糖尿病と診断されていた.病変は全例T2とT8の間にあった.39%がくも膜webの診断以前に見当違いの手術を受けており不首尾に終わっていた.

【結論】

症状は脊髄症68%,局在性胸背部痛68%,身体不安定58%,腱反射亢進50%,下肢筋力低下45%,下肢根性疼痛42%,上肢根性疼痛37%,胸部感覚障害26%,上肢筋力低下24%などであった.
68%(26例)はくも膜webの診断の下,病変切除が行われた.手術後脊髄症は改善する傾向であったが,局在性胸背部痛は不変で,上肢や胸部感覚の鈍さや異常感覚の訴えはむしろ増加した(ともに<.01).手術を受けた患者の86%(19/22)は,手術結果を受けて,同じ病気にかかれば再び同じ手術を受けるだろうと答えた.術後長期に持続する合併症はなかった.手術を受けなかった12例では症状は不変か悪化した.

【評価】

脊髄くも膜webは胸髄背側の肥厚したくも膜の帯(band)で胸髄が圧迫されて起こる病態で(文献1,2,3),これまで50例弱の報告があるがその多くがケースレポートで病態は不明であった.このエモリー大学のシリーズは過去最大のもので,MRIで高率にScalpelサインが認められること,胸背部痛,胸髄レベルの脊髄症,下肢の症状を示すものが多いことを明らかにしている.しかし,2~3割では上肢の症状を示しているので診断にあたっては注意が必要であろう.
患者の病歴の中で,中枢神経に及ぶ外傷は8%と少ないので,このくも膜webは外傷性のくも膜損傷に起因するものではなさそうである.
2019年の43例のシステマティック・レビューの結果と同様(文献2),本シリーズでも椎弓切除によるwebの顕微鏡下切除は症状を安定あるいは改善させることを明らかにしている.一方,本シリーズでは手術後に上肢や胸部の感覚の鈍さや異常感覚の訴えが増加している.これをどのように解釈すべきかは不明であるが,著者らは本研究が後方視的な追跡研究であるので,手術前の症状が過小評価されている可能性があるという.
また2019年のシステマティック・レビューでは男性が72%と女性より多く,67%で脊髄空洞を伴っており(文献2),エモリー大学の男性37%,脊髄空洞の合併32%とは大分異なった数値になっている.その理由については明らかにされていないが,何れのシリーズもまだ少数なので,どちらに落ち着くのかはわからない.
本シリーズを含めても脊髄くも膜webの報告数はまだ100例に満たない.
しかし,この病態と特徴的なMRI所見に対する認識が拡がれば,原因の究明,病像の理解,適切な治療法の開発が発展する可能性がある.今後の前向き研究に期待したい.

<コメント>
Arachnoid webは最近報告が増えている比較的新しい疾患概念である.文献によってはdorsal arachnoid web(DAW)という呼称を用いており,このdorsal(脊髄の背側にある),arachnoid(くも膜の),web(水かき)という名前の方が病変を良く表していると思う.つまり,脊髄背側のくも膜が水かき状に肥厚して髄液の流れをブロックし,そこで髄液がうっ滞し,髄液拍動によるwater hammer効果が加わってweb近傍の脊髄内部に浮腫,空洞などの変化を来すのだ.5例程度の自験例でも本論文に示されているようにscalpel signが診断のきっかけとなった.T2 sagittal imageではscalpelつまり円刃刀の刃が脊髄を背側から圧迫しているように見え,刃先が示す方向(刃先が頭側を向いていれば,脊髄圧迫部位より吻側に)に髄内浮腫と空洞形成を来すのが典型的画像である.このweb状のくも膜を切除して脊髄背側の髄液交通を再建することが手術の目的となる.アウトカムについても本シリーズと同様の印象で,症状の劇的改善はあまり得られず,現実的には症状,脊髄変性の悪化,進行の防止,症状の安定化が目標となることを患者へ説明している.疾患概念の周知によって報告症例が増えてはいるが,過去にはくも膜嚢胞,癒着性くも膜炎,特発性脊髄空洞症などの類縁疾患としてカウントされていた可能性が高く,極端に稀な病変ではなさそうである.因みに,くも膜嚢胞は全周性にくも膜で囲まれた限局性嚢胞病変を意味するが,DAWは丁度,川(髄液流)の流れをせき止めるように置かれた傘,水かきのような形状である.真の嚢胞形状でないことがくも膜嚢胞との相違点である.(University of Iowa 脳神経外科 山口智)

執筆者: 

有田和徳