EVT単独はtPA+EVTに対して優越性も非劣性も示さず:ヨーロッパにおける539例のRCT(MR CLEAN–NO IV)

公開日:

2021年11月22日  

最終更新日:

2021年11月22日

A Randomized Trial of Intravenous Alteplase before Endovascular Treatment for Stroke

Author:

LeCouffe NE  et al.

Affiliation:

Neurology, Amsterdam UMC, University of Amsterdam, Amsterdam, The Netherland

⇒ PubMedで読む[PMID:34758251]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2021 Nov
巻数:385(20)
開始ページ:1833

【背景】

先行する中国の2個のRCTでは,脳主幹動脈閉塞に対するtPA投与をスキップした血管内血栓除去(EVT)がtPA+EVTに対して非劣性であることを証明している(文献1,2).本論文はオランダなどのヨーロッパ3ヵ国20施設で行われたRCTの報告である.対象は急性の前方循環主幹動脈閉塞のうち発症後4.5時間以内でtPA投与が可能な539例で,EVT単独とtPA+EVTが1対1で割り当てられた.1次評価項目は発症90日目におけるmRSで,EVT単独のtPA+EVTに対する優越性と非劣性(マージン:0.8)を検討した.

【結論】

90日目のmRSはEVT単独群で中央値3(IQR:2~5),tPA+EVT群で中央値2(IQR:2~5)であった.調整共通オッズ比は0.84(95%CI,0.62~1.15;p=.28)で,EVT単独はtPA+EVTに対して優越性も非劣性も示さなかった.90日間死亡率はEVT単独群20.5%,tPA+EVT群15.8%で調整オッズ比1.39(95%CI,0.84~2.30),症候性頭蓋内出血の発生は5.9%と5.3%であり調整オッズ比1.30(95%CI,0.60~2.81)といずれも2群間に差はなかった.

【評価】

世界中で急性期脳梗塞に対する血管内血栓除去治療(EVT,MT)が普及しつつある.現在は,tPA静注療法に追加して機械的血栓除去を開始することが勧められている(文献3,4).MistryらのメタアナリシスではtPA+EVTがEVT単独に比較して良好な結果と相関していることが報告されている(文献5).
しかし,2016年のGoyalらのメタアナリシスによれば,tPA投与の有無でEVTの結果に差はなかった(文献6).また,最近発表された中国での2つのRCT(DIRECT-MTとDEVT)の結果も,EVT単独がtPA+EVTに対して非劣性であることを明らかにした.
一方,2021年発表の日本のSKIP-RCTは一次評価項目である良好機能予後(mRS:0~2)はEVT単独群が59.4%でtPA+EVT群の57.3%をわずかに上回った.しかし,tPA+EVT群に対するEVT単独群のオッズ比は1.09(95%CI,0.63 − ∞)で97.5%片側信頼区間の下限値(0.63)が事前設定マージンの0.74を下回ったために,非劣性を証明出来なかった(文献7).これには症例数が少なかったことと2群とも良好機能予後の割合が予測よりも大きかったことがその原因として推測されている.
本論文は非アジア圏におけるEVT単独に関する最初のRCTで注目されていたが,1次評価項目である90日目mRSにおいて,EVT単独はtPA+EVTに対して優越性も非劣性も示さなかった.2次評価項目の梗塞巣の最終体積,mRSを任意スコアで分割したとき(例,mRS:0~2対mRS:3~6)の割合,NIHSS,Barthelインデックス,再開通率などでも有意差がなかった.
本RCTでは,近位側M2閉塞が約15%含まれていたこと,EVT単独群で再開通が得られなかった19症例にレスキューtPAが投与されていたことなど既報の3つのRCTと異なる点があることに注意が必要である.また,対象の全ての患者は最初からEVTが実施できる施設に収容されており,EVTが実施出来ない施設からの転院搬送患者は含まれていないことにも留意すべきであろう.
ではどうすれば良いのと少し混乱しそうな状況である.本論文に対してNEJMの同一号に,イタリアのCiccone AのEditorial “Alteplase and Thrombectomy — Not a Bridge to Dismantle” が掲載されている(文献8).これによれば,本RCT(MR CLEAN–NO IV)の結果が既報の3つのRCTと異なったのは,①mRSの任意のスコアで区切らずにmRSのシフトで効果を評価するデザインであったため,治験担当医が発症前のmRSスコアが高い患者も排除せずに登録している可能性,②着院-tPA投与時間が中央値31分とかなり短かったため,tPAの効果が既報のそれより高かった可能性,③頭蓋内主幹動脈の狭窄を有していることが多いアジア人を含まなかったことを挙げている.その上で,まだ多くの患者がEVTを受けるために初療医療機関から転院搬送されているという臨床現場の実態,脳主幹動脈閉塞は脳梗塞の1/4に過ぎないことなどを考慮すれば,現段階では脳主幹動脈閉塞に対するEVTに向けたtPA投与という “架橋” は未だはずす段階ではないと結んでいる.

<コメント>
脳主幹動脈閉塞急性期における機械的血栓回収術の有用性は論を待たないが,tPA併用に対する血栓回収療法単独の有効性,安全性については, これまで本研究を含めて4つのRCTの結果が報告された(DIRECT-MT,DEVT,SKIP,MR. CLEAN-NO IV).残念ながら機械的血栓回収術単独療法の非劣性については統一した見解が得られておらず,今後のメタ解析の結果が待たれるところである.近年,機械的血栓回収療法の進歩とともに,抗血栓剤の進歩もまた目を見張るものがある.アルテプラーゼの次世代のtPAであるテネクテプラーゼは血栓親和性が前者より高く,再開通率や転帰が良好であることが報告されている.また治療後の出血を抑える薬剤の開発も進んでいる.世界中がテネクテプラーゼに置き換わる潮流の中,血栓回収療法単独の有効性,安全性は当分結論を見いだせないものと予測される.(広島大学脳神経外科 堀江信貴)

執筆者: 

有田和徳

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