孤発性の視路/視床下部神経膠腫では早期陽子線照射が視機能を温存する:テキサス小児癌センターの38例

公開日:

2021年11月22日  

最終更新日:

2021年11月22日

Cauda equina ependymomas: surgical treatment and long-term outcomes in a series of 125 patients

Author:

Hanania AN  et al.

Affiliation:

Department of Radiation Oncology, Dan L. Duncan Cancer Center, Baylor College of Medicine, Houston, TX, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34653993]

ジャーナル名:J Neurosurg Spine.
発行年月:2021 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

視路/視床下部神経膠腫に対しては幼児脳への放射線照射を避けるために,初期治療としては化学療法を行うことが多い(文献1,2,3).しかし,化学療法を受けている患者の6割以上が視機能を温存出来ず救済治療(手術や放射線)を要しているという報告もある(文献4,5).視機能を温存するために,どのタイミングで照射を行うかの判断は重大な臨床課題である.テキサス小児癌センターなどのチームは自験の38例の幼児(中央値3歳)の孤発性視神経膠腫を対象に,治療方法が,OSではなく全盲(両眼盲:LogMAR≧0.8)の回避期間(BFS:blindness-free survival)に及ぼす影響を検討した.

【結論】

初診段階で1例以外の全例で腫瘍が視交叉後方まで達していた.32例が初期治療として化学療法を受けた.
初期治療として6例,初回化学療法後の救済治療として5例,併せて11例が早期(診断後中央値2.5年)に陽子線治療を受けた.一方,8例は2回以上の化学療法後の急速な視力低下に対する救済治療として後期(中央値5年)に陽子線治療を受けた.
追跡期間中央値8.5年で全例が生存.最初から実用視力が無かった6例を除いた32例中,早期陽子線治療群10例では後期陽子線治療+放射線照射を受けなかった22例と比較して5年と8年のFBS率は有意に高かった(100%,100% vs 81%,60%;p=.017).

【評価】

視神経膠腫の多くは毛様細胞性星細胞腫か毛様粘液性星細胞腫で,現在は初期治療としては化学療法を行うことが多く,その結果,5年生存率は90~100%と高い.本シリーズでも最初から陽子線治療が選択された6例を除いて32例で初期治療として化学療法が行われており,その主体はVincristine + carboplatin(100%),Vinblastine(59%),Temozolomide(44%),MEK阻害剤(22%)などであった.しかし,腫瘍が進行して全盲となると,たとえ生存しても患者のADL・QOLに甚大な影響を与える.この観点から,本研究では患者のADL/QOLを左右する視力に注目し,主要評価項目をOSやPFSではなく全盲回避期間すなわちBFS(blind free survival,実用視力有り生存と言い換えても良いかも知れない)とした.全盲の定義は,両眼がLogMAR≧0.8か≦20/125(少数視力≦0.16相当)とした.このために初診後3~6ヵ月おきに定期的視力測定を行っている.
この結果,本シリーズでは,初期治療としてあるいは初回化学療法後の救済で陽子線(中央値50.4 GyRBE)を照射された患者群10例では,最終追跡段階8年後でも実用視力が残っていた.これに対して,放射線照射を受けなかった14例と2回以上の化学療法を受けた上での視力低下後に陽子線を照射された8例併せて22例の群では8年後には4割が実用視力を失っていたというのが本論文の主旨である.
陽子線照射に期待されるのは,ブラッグピーク効果による腫瘍への高い線量の集中と同時に正常脳組織や血管への放射線障害の軽減である.本シリーズでは,陽子線照射に伴う合併症と考えられるものとして,19例中11例(58%)で下垂体機能低下によるホルモン補充を要した.また3例がグレード3の毒性を示し,このうち1例は強い眼窩浮腫を,2例はもやもや血管を呈した.
本報告と同様にメンフィスのセントジュード小児研究病院からも視路の神経膠腫に対して化学療法が先行された小児では放射線照射(原体照射)が先行された小児よりも視機能低下が多いことが報告されている(文献6,7).
著者らはこれらの結果を受け,また発達段階の脳と脳血管への放射線障害を考慮して,少なくとも年長児(≧5歳)で視力がかなり低下(LogMAR≧0.2,少数視力≦0.63相当)している患児に対する早期放射線照射の有用性を示唆している.
一方で,最近世界で導入されつつあるBRAF V600変異陽性の腫瘍に対するMEK阻害剤やBRAF阻害剤を用いた分子標的療法における放射線照射の位置付けについては今後の課題としている.
気になるのは陽子線の成績を,他の光子線照射治療(IMRT,ガンマナイフ,サイバーナイフなど)に適応して良いかであるが,この点に関しての言及はない.
なお,著者らの施設(MD Anderson Cancer Center)では2006年に陽子線治療センターが設置され,これ以降,小児脳腫瘍に対する陽子線治療の実績を重ねている.既に,このセンターからは2017年に小児上衣腫79例に対する陽子線照射の成績が発表されており,これによれば,照射後3年間の無増悪生存率(PFS)はIMRT群38例で60%,陽子線照射群41例で82%であったという(p=.031)(文献8).

<コメント>
本論文は,孤発性のoptic pathway gliomaに対して,早期の放射線照射が視機能維持のみならず,無増悪生存期間も延長させるという内容で,MD Andersonのradiation oncologyからの報告である.2000年から2018年の18年間に治療した,NF1を除外した18歳以下の孤発性のoptic pathway gliomaの患者38人に対して行った後方視的観察研究であり,放射線としては陽子線治療を用いている.早期に放射線治療を行った11例と化学療法を2コース行った後に放射線治療を行った8例+照射を行わなかった19例併せて27例を比較している.しかしながら,この2つのグループの患者内訳を見てみると,早期に放射線治療を行った11例はすべて6歳以上の症例であり,機能予後が不良と言われている5歳以下の症例は全く含まれておらず明らかにバイアスがかかっている.また,本論文には腫瘍のサイズや部位が全く記載されておらず,陽子線治療の有無だけを予後と関連づけるのは乱暴な議論と考える.また本シリーズの経過観察期間中央値は8.5年であるが,放射線照射の晩期合併症を議論するには,10~20年の長期経過観察が必要というのが現在のコンセンサスである.(九州大学脳神経外科 鹿児島大学脳神経外科 吉本幸司)

執筆者: 

有田和徳