てんかん性脳波異常を伴うアルツハイマー病患者に対する低用量レベチラセタム投与は空間記憶と遂行機能を改善するかも知れない:二重盲2a相RCT(LEV-AD試験)

公開日:

2021年11月25日  

最終更新日:

2021年11月25日

Effect of Levetiracetam on Cognition in Patients With Alzheimer Disease With and Without Epileptiform Activity: A Randomized Clinical Trial

Author:

Vossel K  et al.

Affiliation:

Mary S. Easton Center for Alzheimer's Disease Research, Department of Neurology, University of California, Los Angeles, CA, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34570177]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2021 Nov
巻数:78(11)
開始ページ:1345

【背景】

脳内ネットワークの過剰興奮がアルツハイマー病の認知機能障害の少なくとも一部に関与しているとみられており,抗けいれん剤によるコントロールが症状改善をもたらす可能性がある.本稿は,UCSFとミネソタ大学で実施された,アルツハイマー病患者34例に対するレベチラセタム(LEV)と偽薬によるクロスオーバー二重盲RCT(2a相)である.13例(38.2%)は脳波上のてんかん性波形を示した.グループA17例には偽薬を4週間投与し,4週間の休薬期間をおいて,LEV125 mg×2錠/日を4週間投与した.グループB17例には,その逆の順番で投薬した.一次評価項目はNIH-EXAMINER複合スコアとした.

【結論】

有害事象による脱落者はなかった.全対象患者ではLEV4週間の投与は主要評価項目での改善を示さなかった(p=.55).また二次評価項目である認知症状(Stroop-干渉呼名尺度とADAS-認知機能下位尺度)と機能障害のいずれでも有意の改善を示さなかった.
ただし脳波上てんかん性波形を有していた患者においてはLEV投与によって,Stroop干渉呼名尺度(9例,純改善度7.4点,p=.046)とVRLT仮想経路学習テスト(5例,t=2.36,p=.02)における成績が改善した.すなわちLEVは脳波上てんかん性波形を有していたアルツハイマー病患者では遂行機能と空間記憶を改善した.

【評価】

アルツハイマー病患者の10~22%が非誘発性けいれんを伴い(文献1,2),22~54%が脳波上のてんかん波形を示すことが知られている(文献3).また,アルツハイマー病患者の中でもけいれんや脳波上のてんかん波形を伴う患者群では,より早期に認知機能の低下が進むことも知られている(文献3).さらにアルツハイマー病のマウスモデルではレベチラセタムの投与が海馬ネットワークの慢性的過剰興奮性を抑制し,行動の改善をもたらすことが報告されている(文献4).ただしこれまでのところ,ヒトのアルツハイマー病におけるレベチラセタムの有効性については確認されていない.
本RCTはけいれんや脳波上のてんかん性波形を伴う13例を含む34例のアルツハイマー病患者を対象に実施された二重盲クロスオーバーRCTである.その結果,全34症例では,レベチラセタムは当初設定していた主要評価項目,二次評価項目のいずれでもその効果を示すことはなかった.ただし事前指定探索評価項目であった脳波上てんかん性波形を有していた患者におけるStroop干渉呼名とVRLT仮想経路学習テストでは,レベチラセタム投与後にポイントは上昇し,空間記憶と遂行機能で有意の改善を示した.
本試験における主要評価では脳波上てんかん性波形を示さない症例6割を含んでいたため抗けいれん剤のレベチラセタムの効果は示されず,これに対して脳波異常があった群を対象にした探索的評価では何らかの効果が認められたことは当然の結果と思われる.
また,興味深いのは,本研究では若年発症(発症年齢<65歳)アルツハイマー病患者でもレベチラセタム投与後にStroop干渉呼名尺度の改善が認められた点である(9例,純改善度4.0点,p=.049).若年発症アルツハイマー病患者では明らかなてんかん活動を示さないにもかかわらず海馬を含む脳内ネットワークの過剰興奮性が存在することが知られている.
今後,脳波上のてんかん活動を有する患者と若年発症者に焦点をあてたRCTが実施されることに期待したい.その結果,もしかするとアルツハイマー病患者では種々の薬物をトライする前に長期脳波モニタリングが必須となる時代が来るのかも知れない.
一方,現在,アルツハイマー病に対するレベチラセタムの有効性に関しては,4個のトライアルが進行中であり(文献5~8),それらの結果も楽しみにしたい.

<コメント>
レベチラセタムは1980年代にピラセタムを基にして,認知症や脳血管障害後の機能改善のためNootropic agent(向知性薬)の開発を目的とした化合物探索で発見され,治験が行われたが,当時の治験で向知性薬としての効果を示すことができずに開発は頓挫した経緯がある.今回の臨床試験はこれを踏襲したもののようであるが,結果に相違がでたのは患者の層別化によるものと思われる.Secondary outcomeにあるように,epileptiform activityのある患者において,レベチラセタム投与によって一部の記憶・実行機能が向上していた.また考察では言及されていないが,epileptiform dischargeの局在は左側頭部に多かった.これらのことを考慮すれば,AD進行に関与しうるepileptiform activityの有無と局在性などを明らかにすることを通じて,AD患者の中からレベチラセタムの有用性が期待しうる患者群を抽出することが可能になるかも知れない.一方本結果を踏まえると,日常のてんかん診療においても,てんかん発作抑制を主目的とする現在の薬物治療のパラダイムを超えて,さらに発作間欠期のてんかん性異常波の正常化まで目指すという新たな目標も出てきそうである.(広島大学脳神経外科 広島大学てんかんセンター 飯田幸治)

執筆者: 

有田和徳