CYP2C19遺伝子変異を有する患者ではクロピドグレルよりチカグレロルが有用:中国でのCHANCE-2試験

公開日:

2021年12月9日  

最終更新日:

2021年12月10日

Ticagrelor versus Clopidogrel in CYP2C19 Loss-of-Function Carriers with Stroke or TIA

Author:

Wang Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Beijing Tiantan Hospital, Capital Medical University, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:34708996]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2021 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

クロピドグレルはCYP2C19で代謝されて活性型になるため,CYP2C19遺伝子の機能喪失型変異を有する患者での抗血小板作用の低下が問題となる(文献1,2).一方,チカグレロルは代謝を経ることなく抗血小板作用を発揮するため,同変異の影響を受けることがない.本試験は北京天壇病院など202の施設で実施されたCYP2C19の機能喪失型変異を有する軽症脳梗塞(NIHSS:1~3)かTIAの患者6,412例を対象としたクロピドグレル対チカグレロルの二重盲RCTである.全員が発症1日目から21日間のアスピリン投与を受けた.半数にチカグレロルが,半数にクロピドグレルが90日間投与された.

【結論】

一次効果アウトカムである90日目までの脳卒中の発生は,チカグレロル群6.0%,クロピドグレル群7.6%であった(HR 0.77;CI:0.64~0.94;p=.008).二次効果アウトカムである30日目までの脳卒中の発生,90日目までの全血管イベントの発生,90日目までの虚血性脳卒中の発生はいずれもチカグレロル群で低かった(HR 0.75,0.77,0.79).一次安全性アウトカムである重症あるいは中等症出血はともに0.3%で差はなかった.全ての出血を併せた頻度はチカグレロル群がクロピドグレル群より有意に高かった(5.3 vs 2.5%,HR 2.18,CI:1.66~2.85).

【評価】

血小板ADP受容体(P2Y12)拮抗薬であるチエノピリジン系薬剤にはクロピドグレル,プラスグレル,チカグレロルがある.このうち2021年12月段階で,脳梗塞再発予防目的で日本で承認されているのはクロピドグレルのみである.クロピドグレルはプロドラッグであり,肝臓でCYP2C19で代謝されて活性型になるため,白人の25%,アジア人の60%で認められるCYP2C19遺伝子の機能喪失型アレル保有者(文献1,2)では抗血小板作用が低下する.これに対して,プラスグレル,チカグレロルはCYP2C19による活性化を必要としないため,CYP2C19機能喪失型アレル保有者においても早期からの血小板凝集阻害作用が期待出来る.
既に脳梗塞再発予防に関しては,TIAならびに軽症脳梗塞の患者において,アスピリンとクロピドグレルの併用投与(DAPT)が単剤投与に対して90日までの主要な虚血性イベントを減少させることが報告されている(中国のCHANCE試験,ヨーロッパ,オーストラリアなど10ヵ国が参加したPOINT試験)(文献3,4).
また本論文の著者らは,2019年に発表したオープンラベル2相試験(PRINCE)で,軽症脳梗塞かTIAの患者675例を対象として,既報のCHANCE試験と同様アスピリン21日間投与をベースに, クロピドグレル対チカグレロルを90日間投与した結果,全脳卒中の発生がチカグレロル群で低いことを示している(文献5).本CHANCE-2試験は,CYP2C19遺伝子多形を有する患者のみを対象としたより大規模な二重盲RCTであるが,一次効果アウトカムの全脳卒中の発生はチカグレロル群で有意に低いことを明らかにした.重症,中等症の出血に関しては2群間で差はなかった.
なお,CYP2C19遺伝子の機能喪失型アレル保有者のうち単1アレル変異患者はIntermediate metabolizer(IM,中間代謝群),2アレル変異患者はpoor metabolizer(PM,低代謝群)と呼ばれる.本研究では,全部で11,255人がCYP2C19遺伝子多形のスクリーニングを受け,4,572人(約40%)が同変異を有していなかったということであるから,約60%はCYP2C19遺伝子の機能喪失型アレルの所有者と判定されたことになる.このうち78.0%はIMで,22.0%はPMであった.これらの頻度は既報の日本人での解析結果とほぼ一致している(文献6).
この研究ではCYP2C19変異検出キットによる迅速検査が前提になっており(日本ではSRL,BML等の外注検査),第一線診療レベルには敷居の高いプロトコールである.しかし,東アジアではIMも含めればCYP2C19遺伝子多形を有する患者が約半数を占めることを考慮すれば,CYP2C19変異の有無とは関係なくチカグレロルがクロピドグレルに対して脳卒中発症抑制効果が高いことが想像される.既に心血管領域では,チカグレロル(商品名ブリリンタ,アストラゼネカ社)は日本でも陳旧性心筋梗塞患者や急性冠症候群などへの適応を獲得している.
チカグレロルと同様にCYP2C19による活性化を必要としないプラスグレルについては,日本でのクロピドグレルとのRCT(PRASTRO-I)では,約100週間の観察期間内の虚血性脳心血管イベントはプラスグレル群, クロピドグレル群ともに4%であった(RR 1.05,CI 0.76~1.44).しかし, あらかじめ設定された非劣性マージン(1.35)をわずかに超えたため統計学的には非劣性を証明できなかった(文献7).その後に行われた脳梗塞再発のリスク因子(脳梗塞の既往,高血圧,糖尿病など)を有する血栓性脳梗塞患者を対象としたPRASTRO-III試験では,虚血性脳心血管イベントは,プラスグレル群で6.8%,クロピドグレル群で7.1%発生し,RRは0.97(CI:0.36~2.58)であったという(未だ正式論文として公開はされていない,文献8).これらの結果を受けて,第一三共社はプラスグレル(エフィエント)について,虚血性脳血管障害後の再発抑制(脳梗塞発症リスクが高い場合に限る)の効能・効果追加を申請している(2021年11月現在審議中).

執筆者: 

有田和徳