髄膜腫の好発部位はどこか:602例の半自動化セグメンテーションに基づく3次元ヒートマップ・アトラスで判ったこと

公開日:

2021年12月9日  

最終更新日:

2021年12月29日

Are there predilection sites for intracranial meningioma? A population-based atlas

Author:

Hosainey SAM  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Bristol Royal Hospital for Children, Bristol, UK

⇒ PubMedで読む[PMID:34674099]

ジャーナル名:Neurosurg Rev.
発行年月:2021 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

髄膜腫は円蓋部,傍矢状洞部などに好発するとされているが(文献1),その三次元的な分布の詳細な解析はない.本稿はノルウェーの聖オラヴ大学病院で過去10年間に診断された602例の髄膜腫を対象に,造影MRI画像の半自動化セグメンテーションによって腫瘍を標準脳(MNI-152)上に投影して,3次元ヒートマップとして解析したものである.同病院はトロンハイム市など周辺75万人の人口で唯一の脳外科センターである.
対象の602例中84.4%は天幕上,15.4%は天幕下,12.1%は正中部の発生であった.女性が2/3以上を占め,多発例は女性で多かった(p<.01).男性例は天幕上の頻度が高かった(p<.01).

【結論】

従来の分類法に基づけば,最も多いのは円蓋部(24.7%)で,最も少ないのは脳室内で0.2%であった.
しかし,ヒートマップでは髄膜腫の空間分布は一様ではなく,頭蓋内前方部に多く,後方に向かうと少なくなり,後頭蓋窩,大孔周囲に向けてさらに少なくなった.前方部の中では傍矢状洞部,大脳鎌部,前頭蓋窩,中頭蓋窩で密度が高かった.
天幕上の髄膜腫は天幕下に比較して腫瘍体積は大きかった(6.4 vs. 3.9 cm3,p<.001).男性では女性よりも腫瘍体積が大きかった(p<.01).腫瘍の存在部位は年齢やWHOグレードとは相関しなかった.

【評価】

興味深い解析である.研究が行われた聖オラヴ大学病院は住民約75万人の管轄地域で唯一の脳神経外科センターである.また対象の602例の髄膜腫の中には261例の手術症例以外に341例の経過観察例を含んでいる.したがって,本研究は住民ベース研究に近似した包括的な疫学研究と考えることが出来る.
従来,われわれ脳外科医は髄膜腫の好発部位を円蓋部,傍矢状洞部と覚えてきた(文献1).また本シリーズでも従来の分類に従えば,1位円蓋部24.7%,2位傍矢状洞部16.4%である.しかし,もしかするとこれは,グリオーマが前頭葉に発生しやすいという事実と同様に,好発 “部位” が有する面積の大きさを反映しているだけなのかも知れない.
本研究では602例の髄膜腫をセグメント化し標準脳に投影して3次元ヒートマップを作成した.この結果,髄膜腫は前頭部硬膜,前頭蓋底,中頭蓋底で密度が高いことが明らかになった.実際のヒートマップを見ると前頭部でも特に前頭蓋底部で密度が高い.
従来,髄膜腫は硬膜内に陥入しているくも膜顆粒先端部のくも膜帽細胞(arachnoid cap cell)に由来すると信じられてきた(文献2,3).このくも膜顆粒は大きな脳静脈や静脈洞周囲(parasagittal)に多く,髄液の吸収に関係していると想定されている(文献4).
大きな静脈は主として脳の後半部で上矢状静脈洞に流入すること,大脳鎌の幅は前方で狭く後方で広いこと,頭蓋後方には小脳天幕という広い硬膜組織が存在することを考慮すれば髄膜腫は頭蓋の後半部に多いはずである.しかし,実際の3次元ヒートマップでは腫瘍の密度は頭蓋内前方部,前頭蓋底,中頭蓋底で高く,大きな静脈との関係もなかった.
これは何を意味しているのだろうか.髄膜腫の源起となるべき細胞の分布の違いなのか,髄膜に対する血流支配の違いなのか.いずれにしても興味深い発見である.まずは他施設のコホートで検証すべきであろう.
気になるのは,前頭蓋底,中頭蓋底には嗅神経,視神経などの脳神経が存在するので,他の部位に比較して症状が現れやすく,他部位に比較して発見されやすい可能性があることである.このことが,これらの部位で髄膜腫の密度が相対的に高いことと関係しているのかも知れない.したがって,本当に髄膜腫の好発部位を求めるのであれば,臨床例ではなく一般人口を対象とした脳ドック検診などでその3次元分布を求める方が正確である.この点は日本での多施設研究のテーマになるかも知れない.

<コメント>
この研究では,髄膜腫の発生が前頭部とくに傍矢状洞部,大脳鎌前部,前頭蓋底,中頭蓋底に多いということがヒートマップ表示によって視覚的,直感的にわかる.特に,前頭蓋底から鞍結節部にかけて密度が濃くなっている.これらの結果は実臨床での感覚と一致するような気がする.
近年,髄膜腫において既知の遺伝子であるNF2以外の新規ドライバー遺伝子変異が複数同定されている.NF2遺伝子変異のある髄膜腫は円蓋部や小脳硬膜から発生しやすいとされている.一方,東大からの最近の報告によれば,NF2以外の4種の遺伝子変異を有する髄膜腫の大部分が頭蓋底で認められている(文献5).その中でもAKT1変異型は前方,中心部,KLF4変異型は中心部,SMO変異型は前方,POLR2A変異型は中心部に多いという.
一方,髄膜は発生学的にneural crest,paraxial mesoderm,dorsal mesodermの3つの原基に由来しているが,部位によってその原基が異なっており,このことが遺伝子形毎の髄膜腫の好発部位に影響している可能性もある.今回のヒートマップ表示を病理診断,遺伝子変異,硬膜の発生起源等とリンクさせると興味深い知見が得られるのではないかと思う.(鳥取大学脳神経外科 黒﨑雅道)

頭蓋内髄膜腫の発生部位についての解析である.前方の正中部や前頭蓋に多く,後方や大後頭孔部へと行くにつれて発生頻度が少なくなっていくことがヒートマップで提示されている.静脈系と重ねることにより,発生母地とされているarachnoid cap cellsが存在するくも膜顆粒の密度とは相関がないことが示されている.また,大脳鎌の面積とも関係ないので,筆者らも考察しているように,幹細胞,遣伝子,ホルモン因子などとの関連が今後明らかにされることを期待する.非頭蓋底部では大脳鎌と円蓋部硬膜,頭蓋底部では大脳鎌と前頭蓋,小脳テントと中・後頭蓋など,硬膜が立体的に交わる部分に髄膜腫が好発していることが視覚的に示されており,大変興味深い.逆に大脳鎌と小脳テントが交わり,深部静脈が集積する部位にはほとんど発生しないのは不思議である.(大阪医科薬科大学脳神経外科 鰐渕昌彦)

執筆者: 

有田和徳