80歳以上の高齢者に対する頭部外傷手術の意義:米国外傷データバンク127,129例の解析から

公開日:

2021年12月29日  

The Morbidity and Mortality of Surgery for Traumatic Brain Injury in Geriatric Patients: A Study of Over 100 000 Patient Cases

Author:

Haddad AF  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of California, San Francisco, San Francisco, California, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34624082]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2021 Nov
巻数:89(6)
開始ページ:1062

【背景】

高齢者は転倒・転落しやすく外傷性脳損傷(TBI)のリスクは高くなるが,その手術療法の意義については議論の余地が大きい.本稿は,米国外傷データバンクから抽出した80歳以上の高齢者(女性55%,平均84歳)のTBI 127,129例の解析である.受傷原因は転倒65.1%,自動車事故6.1%,歩行者事故1.2%等であった.チャールソン併存疾患指数は平均4.8,外傷重症度スコア(ISS)は平均14.1であった.全体の4.7%が手術を受けた.手術群は非手術群に比して男性が多く,救急外来でのGCS(ED GCS)が低く(12.4 vs 13.7),ISSが高かった(いずれもp<.001).

【結論】

多変量解析では,手術実施は合併症の発生率(OR:1.91),在院日数(β:5.25日),ICU在室日数(β:3.19日),人工呼吸器装着日数(β:1.57日),自宅退院の減少(OR:0.434)の独立した相関因子であった(いずれもp<.001).
単変量解析では手術と死亡との間に関連が認められた(23.9 vs 10.0%,p<.001)が,多変量解析では手術実施は死亡の独立した相関因子ではなかった(OR:1.03,p=.423).再帰分割分析(RPA)ではED GCS(≦12)とISS(>21)が手術実施患者群における死亡の予後規定因子であった.

【評価】

従来,高齢者の頭部外傷に対する手術療法はその有用性を示すものがある一方(文献1,2),手術実施患者群における予後の悪化を報告するものもあった(文献3,4).
本稿は米国外傷データバンクに2003年から2015年までに登録された頭部外傷患者10万例以上の患者を扱った過去最大のビッグデータに基づく,高齢(≧80)頭部外傷患者に対する手術の意義の解析結果である.
その結果,高齢者頭部外傷に対する手術は高い合併症率,長い在院日数,長いICU在室日数,長い人工呼吸器装着日数,自宅退院率減少の独立した相関因子であった.また,手術群では非手術群に比較して死亡率は倍以上高かった.しかし,併存疾患,神経学的重症度,外傷の重症度を計算に入れると,手術は死亡の独立した相関因子とはならなかったというのが,本論文の主旨である.
この研究はベーシックな診療情報からなる全国的データバンクの後方視的な解析であるので,頭蓋内圧,画像所見,手術の適応,手術のタイミング,手術の種類,機能予後などの情報が欠落しており,直接に臨床的な意義を求めることは困難である.しかし,少なくとも高齢(≧80)頭部外傷患者に対する手術が死亡の独立した相関因子でないことが判った事は重要で,今後,よく計画された前向き研究によって,高齢(≧80)頭部外傷患者に対する手術の適応が明らかにされることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳