髄膜腫の遺伝子変異と組織型は髄膜の胎生原基(発生部位)によって異なっている

公開日:

2021年12月29日  

最終更新日:

2021年12月30日

Associations of pathological diagnosis and genetic abnormalities in meningiomas with the embryological origins of the meninges

Author:

Okano A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Faculty of Medicine, The University of Tokyo, Tokyo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:33772057]

ジャーナル名:Sci Rep.
発行年月:2021 Mar
巻数:11(1)
開始ページ:6987

【背景】

従来,髄膜腫の発生部位とWHOグレードには相関があり,非頭蓋底部にはよりアグレッシブな髄膜腫が発生すると言われているが(文献1,2,3),遺伝子形との関係は充分には解明されていない.東京大学Okanoらは自験の髄膜腫269例を対象として,WHOグレーディング(I~III),遺伝子形(SMO,AKT1,KLF4,POLR2A,NF2,22q欠失),髄膜の胎生原基(神経堤[冠状縫合より前方の円蓋部,前・中頭蓋底,大脳鎌,小脳天幕],傍軸中胚葉[冠状縫合より後方の円蓋部,前頭蓋底-トルコ鞍周囲,斜台],背側中胚葉[後頭蓋窩]),ならびに腫瘍発生部位との関係について解析した.

【結論】

異なった胎生原基に由来する硬膜に発生した髄膜腫は,異なった組織診断と遺伝子異常のパターンを示した.たとえば,AKT1,KLF4,SMO,POLR2A遺伝子変異を示す髄膜腫の多くは傍軸中胚葉起源の硬膜(頭蓋底硬膜)から発生していた(p<.001).NF2関連遺伝子異常を示す髄膜腫の多くは神経堤起源の硬膜由来であった(p<.001).グレードII髄膜腫は傍軸中胚葉起源の髄膜よりも神経堤起源の髄膜で有意に多かった(p<.001).POLR2A変異は再発のリスク因子であった(HR 4.08,p=.017).
髄膜腫が発生する髄膜の胎生期原基の解析は,髄膜腫発生の機序について新規の洞察をもたらす可能性がある.

【評価】

本研究で示された髄膜腫の発生部位と組織診断,ドライバー遺伝子異常との関係は従来の報告とほぼ一致するものである(文献4,5,6).本研究はそれに加えて,髄膜の胎生原基である神経堤(neural crest),傍軸中胚葉(paraxial neural crest),背側中胚葉(dorsal mesoderm)ごとに特徴的な遺伝子異常と,組織診断の関係を明らかにした点でユニークである.これによればAKT1,KLF4,SMO,POLR2Aといったドライバー遺伝子変異を示す髄膜腫の多くは傍軸中胚葉起源の髄膜(頭蓋底硬膜)由来で,その多くはmeningothelial meningiomaであった.その中でもAKT1変異は前方,中心部,KLF4変異は中心部,SMO変異は前方,POLR2A変異は中心部に多く認められたという.最近の報告では遺伝子変異に対する髄膜の感受性はその胎生原基ごとに異なることが示されているらしいが,本研究ではそのことが改めて示されたことになる.
一方,NF2機能欠失型変異を伴う髄膜腫の多くは神経堤由来の硬膜に発生し,fibrous meningiomaとWHOグレードIIの割合が他のドライバー遺伝子変異群より多かったという.
さらにPOLR2A変異が再発のリスク因子であることを明らかにした事も本研究のユニークな点である.
著者らも述べているが,本研究の対象は269例と未だ不十分で,髄膜発生原基あるいは遺伝子変異群毎に分けると統計パワー不足も想像される.さらにTRAF7,hTERT,SMARCB1,SUFU,PIK3CAなどのやはり髄膜腫の発生に関わるとされる遺伝子異常が検討の対象となっていない点も問題である.今後,症例数を増やし,これらの遺伝子異常を取り入れた包括的な遺伝子発現プロファイルとDNAメチル化パターンも含めた解析で髄膜腫の発生部位,遺伝子異常,グレード,組織型,臨床像,予後の関係が明らかになることを期待したい.

<著者コメント>
従来よりNF2機能欠失型変異が髄膜腫の発生の原因となることや,頭蓋底髄膜腫よりも円蓋部髄膜腫において悪性髄膜腫の発生が多いことなどが知られていた.次世代シークエンサの普及に伴い,2013年よりNF2遺伝子変異や22q loss以外の髄膜腫発生に関連する遺伝子変異(driver genetic mutations)が報告され始め,その中で遺伝子変異と髄膜腫発生部位の関連性や,遺伝子変異と病理組織診断の関連性も部分的に報告されたが,今まで包括的な報告は無かった.そこで我々は自験例269例に関して髄膜腫の発生部位,病理組織診断,遺伝子変異の3つの要素に関して包括的に解析し,本論文で報告した.また,その部位依存性の要因が,ヒトの髄膜(硬膜,くも膜,軟膜)の発生起源の違いからくるものであるという仮説に基づき,髄膜腫発生部位を分類し,その分類に基づいて解析を行い,遺伝子変異や病理組織診断との関連性の特徴を明らかにした.さらにはその中でPOLR2A変異が再発のリスク因子となり得ることを報告した.これら3点が本論文の強みであると考えている.一方で本研究のlimitationとして,driver genetic mutationsとして報告されているTRAF7,SMARCB1,SUFU,PIK3CAなどの遺伝子異常を網羅して解析できていないことがある.また昨今,遺伝子異常のみではなく,染色体欠失やDNAのメチル化パターンが髄膜腫の発生,病理,予後などにも大きく関連することが知られてきており,これらも評価できていない.これらの点が今後の髄膜腫における遺伝子解析研究の課題である.またヒトの髄膜の発生に関しての仮説もあくまでも臨床的な側面からの解析であり,生物学的な裏付けはまだ不十分であり,ヒト髄膜の発生そのものも未だ未解明な点が多い.POLR2A変異が髄膜腫の予後を不良にする生物学的な意味も現時点では不明であり,更なる症例の蓄積,詳細な解析を行い今後これらの点を明らかにしていきたい. (東京大学脳神経外科 宮脇哲, 岡野淳)

執筆者: 

有田和徳