脳腫瘍放射線治療後のSMART症候群:Mayoクリニックの25例

公開日:

2021年12月29日  

最終更新日:

2022年1月6日

SMART syndrome: retrospective review of a rare delayed complication of radiation

Author:

Singh TD  et al.

Affiliation:

Department of Radiology, Mayo Clinic, Rochester, MN, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:33159349]

ジャーナル名:Eur J Neurol.
発行年月:2021 Apr
巻数:28(4)
開始ページ:1316

【背景】

放射線療法後脳卒中様片頭痛発作(SMART)症候群は,頭部照射後数年以上を経た患者における局所神経症状を伴う片頭痛が単回あるいは再発性に起こる極めて稀な合併症であり,その病態は充分に明らかではない.メイヨークリニック脳外科は,過去24年間に経験した自験の成人SMART25例(31エピソード,男性6割)を後方視的に解析して病態解明を試みた.原疾患はグリオーマ13例,リンパ腫2例,髄芽腫2例などで,原疾患診断時年齢中央値は24歳(IQR 14~39),SMART発症時年齢中央値は46歳(IQR 43~55),頭部照射後期間中央値21.6年であった.初回SMARTエピソード後の観察期間は中央値10週.

【結論】

MRIでは全例で脳回の浮腫と造影効果を示し,罹患脳葉は側頭葉(81%)と頭頂葉(74%)が多かった.症状は局所神経症状94%,片麻痺81%,片頭痛様頭痛71%,視覚性の前兆71%が多かった.同時に発生する梗塞は14%で認められた.27回のエピソードで脳波検査が実施され,うち14例で異常放電が,8例でけいれん性脳波活動が認められた.単変量解析ではSMARTエピソードの再発に関係した因子は女性(OR 8.1),初回エピソード時のけいれん性脳波活動の不在(OR 7.4)であった.自己免疫脳炎抗体は検出できなかった.10週までの回復不完全と関連する因子は高齢,側頭葉罹患,MRI上の拡散制限であった.

【評価】

1995年Shuper A(文献1)によってはじめて報告されたStroke-like migraine attacks after radiation therapy(SMART)は,頭蓋内悪性腫瘍に対する放射線照射後数年以上経過した患者で,片頭痛様頭痛とともに視野障害,混迷,失語,一側感覚障害,一側運動障害,けいれんなどの神経症状を一過性かつ再発性に示す稀な病態である(文献2,3,4,5).片頭痛様頭痛は特徴的であるが,診断に必須なわけではない.MRI上は腫瘍の再発はなく,かつての照射部位に含まれる大脳皮質のFLAIR高信号と造影効果が認められ,一般に13-35日で改善する(文献5,6).通常,深部白質病変は冒されない.多くの神経症状は回復するが,恒久的障害を残すものもある(文献5,6).悪性腫瘍の再発とは異なり,MRI灌流画像では血流増加は認められない.FDG-PETでは一過性の代謝亢進が報告されている.
発症機序として放射線照射による血管内皮障害,三叉神経血管系の障害,神経過剰興奮性,PRESに類似した脳血流自己調節障害,大脳皮質拡延性抑制(cortical spreading depression)の関与などが推定されているが,確立されたものはない.同時に進行するてんかん性放電も症状出現に関与していると考えられている.鑑別すべき病態としては,悪性腫瘍の再発,髄膜癌腫症,髄膜脳炎,PRES,CADASIL,片麻痺性片頭痛,HaNDLなどがある.
治療としてはステロイド,抗けいれん薬,抗血小板薬,降圧薬,片頭痛予防薬/頓挫薬,カルシウムチャンネルブロッカーなどが用いられている.
本稿は,この極めて稀なSMARTの一施設での経験25例をまとめた貴重な報告である.従来の報告と同様,初回SMARTエピソードは頭部照射後中央値21.6年という長期,いわば原病そのものは治癒と考えられるぐらいの期間をおいて発現している.本報告がユニークな点は脳波検査が27エピソード(87.1%)で実施され,そのうち8エピソード(29.6%)では持続脳波モニタリングが実施されていることで,このうち約半数で異常放電,約3割でけいれん性の脳波活動が認められている.治療には片頭痛予防薬97%,抗血小板薬84%,ステロイド50%,ベラパミル52%,レベチラセタム59%,バルプロ酸32%などが使用されている.中央値10週の追跡期間中に58%の患者で全ての症状は完全に消失している.32%の患者では神経症状が残り,このうち38%で失語,23%では片麻痺,15%では認知機能障害を示した.また25例中5例の献体(血清あるいは髄液)を用いて,SMART発症に関与しているかも知れない自己免疫機序をスクリーニングするため,メイヨークリニックの自己免疫脳炎パネル(https://www.mayocliniclabs.com/test-catalog/Overview/92116)で検索したが,いずれも陰性であった.
著者らは,SMARTエピソードの再発(6件)と関連する因子を検討し,女性と初回エピソード時のけいれん性脳波活動の不在を予測因子としてあげているが,単変量解析であり,症例数も少ないため,今後の検証が必要である.
本稿を読むとSMARTは病因,頻度,臨床像,適切な治療法,予後のいずれもが未だ不明な疾患であることがわかる.1つは極めてまれな病態ということが影響していると思われる.是非,息の長い多施設前向き研究でその病態を明らかにして欲しいと思う.

<コメント>
放射線療法後脳卒中様片頭痛発作(SMART)症候群は,①放射線治療後,②放射線治療後数年以上経過してから頭痛発作,片頭痛様頭痛,脳の局所症状などを起こし,③放射線照射野内の局所症状に対応する皮質部位にガドリニウム造影効果を認め,④別の病因に起因しない,と定義されている.画像の特徴としては,皮質の浮腫(腫大)も伴う.拡散強調画像にて拡散制限を伴う場合があることも報告されている.再発との鑑別が重要で,画像変化により再発と勘違いされ,場合によっては侵襲的な検査をされるリスクがあることに対しての注意喚起がなされている.
本病態は,脳腫瘍の長期経過観察を行なっている場合,稀に経験する病態である.放射線治療が原因となって血液脳関門の機能が低下していることが病態の主因であると考察する報告が多い.本病態はposterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)と画像・臨床所見上の共通点が多く,鑑別のポイントとしては,PRESは両側性,SMART症候群は片側のみであるとされる.一方,SMART症候群は局所の高線量放射線照射後の発生が多いことを鑑みると,放射線照射部の血液脳関門機能の低下により,軽症のPRESが部分的に起こった病態と理解すると,本病態をイメージしやすい.グリオーマの発生頻度が前頭葉に比べて低いにも関わらず頭頂葉や後頭葉にSMART症候群が多いことと後頭頭頂葉にPRESが起こりやすいことは,SMART症候群とPRESの類似点として重要で,この部位のBBBが他の部位よりも影響されやすい(または脆弱な)ことと関連しているかもしれない.
他の鑑別疾患としては,部分的な痙攣重積があるが,過去の報告では脳波検査を行っていないものも少なくなく,SMART症候群の一症候として痙攣を含める報告も多く,本病態の本質がまとまりにくいことの一因となっていると予想される.また,灌流画像で高血流の報告が大部分を占めるものの,低血流を示した報告もあり,このこともSMART症候群としての過去の報告,疾患概念が統一されていないことを示唆する.SMART症候群発症後の検査のタイミングも本病態を明らかにすることを難しくしていると考えられるが,これはPRESのように血液脳関門が強く障害されるのではなく,軽度に障害された状態がある程度長期間持続して起こり,部位によっては症状がわかりにくいことに起因しているかもしれない.
さて,本稿は比較的多数例を対象とした後方視的研究の報告である.しかし,大きな問題点としてSMART症候群の「寛解」と「再発」が,症状の消失/再発を基に判断されている点が挙げられる.診断基準に画像所見を含めているデザインであるのに,画像上の変化ではなく症状のみでの改善または再発を定義することに大きな違和感を感じる.しかし,アメリカの保険医療事情では,MRを繰り返し撮像することは難しく,これが本研究の大きなlimitationとなっている.またSMART症候群の病態解析のためには欠くことのできない重要なデータである「照射線量」に関するデータがないことも,本研究で明確な結論が得られなかったことに繋がっている.今後の研究でこれらの課題を克服して,SMARTと言う複合的な病態の整理が行われていくことを期待したい.(広島大学脳神経外科 山崎文之)

執筆者: 

有田和徳