心房細動に対するアピキサバンはリバーロキサバンよりも有効かつ安全:米国のメディケア・データ58万人の解析より

公開日:

2022年1月6日  

最終更新日:

2022年1月6日

Association of Rivaroxaban vs Apixaban With Major Ischemic or Hemorrhagic Events in Patients With Atrial Fibrillation

Author:

Ray WA  et al.

Affiliation:

Department of Health Policy, Vanderbilt University School of Medicine, Nashville, TN, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34932078]

ジャーナル名:JAMA.
発行年月:2021 Dec
巻数:326(23)
開始ページ:2395

【背景】

リバーロキサバンとアピキサバンは,心房細動に対して塞栓症の予防目的で,米国で最も多く使用されているDOACである.ではどちらの効果が高いのか?本稿は米国メディケア請求データを用いた後方視的解析である.対象は2013~2018年に心房細動のために2剤のどちらかが開始された65歳以上(平均77歳)の58万人(リバーロキサバン23万人,アピキサバン35万人).23%は減量投与がなされた.経過観察期間は最長4年間(中央値176日)で,一次アウトカムは主要虚血イベント(脳梗塞+全身的な塞栓症)と主要出血イベントの複合とした.年齢,併存疾患などの交絡因子の影響は傾向スコアに基づくIPTW法で調整した.

【結論】

調整後の一次アウトカムの頻度はリバーロキサバン群がアピキサバン群に比較して有意に高かった(16.1/1,000人・年 vs 13.4/1,000人・年,HR:1.18[95%CI,1.12-1.24]).
一次アウトカム構成要素の主要な虚血イベント,出血イベント,虚血性脳卒中ともリバーロキサバン群が有意に高頻度であった(HR:1.12[1.04~1.20],1.26[1.16~1.36],1.12[1.05~1.21]).
標準用量群でも減量群でも調整後の一次アウトカムはリバーロキサバン群が有意に高頻度であった(HR:1.28[1.16~1.40],1.13[1.06~1.21]).

【評価】

本稿は,DOACで最も多用されている2種類(文献1)のどちらが有効で出血性副作用が少ないのかという素朴な疑問に対する解答を求めたものである.スクリーニングしたのは米国メディケア・データベースで,2013年以降に2剤のうちどちらかが開始された65歳以上の約208万症例である.この中から長期ケア/終末期ケア,認可されていない用量使用,心房細動の診断がない,可逆性の心房細動,過去30日以内の脳卒中,入院を要する出血などの患者を除外した約58万症例を解析対象としている.交絡因子の影響は,傾向スコアに基づく逆確率重み付け(IPTW法)で208個の共変量を調整することによって,その排除を試みた.その結果,標準用量群,減量投与群(高齢や低体重で血中濃度が高くなるおそれなどのために減量)ともに,一次複合アウトカム(脳梗塞+全身的な塞栓症+出血性イベント)とその構成要素のうち5項目,死亡を含む二次アウトカム5項目において,アピキサバン群の方がリバーロキサバン群より頻度が少なかった.
著者らがlimitationで言うように,この研究は前向き研究ではないため,患者や担当医の好みの影響など調整の対象となっていない交絡因子の影響を排除出来ない.しかし,調整前において共変量の差は小さく,大部分の共変量の標準化差は0.1以下であり,こうした因子が薬剤選択につながった可能性は少ないという.一方,CHA2DS2-VAScスコアはリバーロキサバン群で低く(平均4.2 vs 4.4),実際の調整前死亡率も同群で低かった(39.2/1,000人・年 vs 45.3/1,000人・年).このため,検討対象外の共変量もリバーロキサバン群での追加リスクを低下させていた可能性は否定出来ない.その他,服薬アドヒアランス,退院時主傷病データを用いることによる脳梗塞診断精度の低下,入院しなかったためにアウトカムイベントとして捕捉されていない可能性,早期に内服を中断した患者での効果の差などが本研究結果に影響を与えた可能性も残っている.
本稿では2剤の効果の差の原因を明らかにしてはいないが,2剤はいずれも活性化第X因子の阻害剤であり,薬剤の作用機序の違いによるものではなさそうである.可能性が高いのはアピキサバンが通常一日2回の内服で処方されるのに対してリバーロキサバンの内服は一日1回となっている.このため,リバーロキサバンでは頂値-底値の変動が大きく(文献2,3,4),これによる出血リスクの上昇と効果低下が危惧されている.また,リバーロキサバンの方がbioavailability(生物学的利用能)が食事の影響を受けやすいことも報告されている(文献5).
本稿の発表によって少なくとも米国ではアピキサバンの処方が増えることが予想される.しかし,心房細動患者に高齢者が多く服薬アドヒアランスが悪いことを考慮すれば,一気に一日2回内服のアピキサバンへ移行することはないのかも知れない.
一方,日本では第一三共株式会社が創製したエドキサバンの処方量も多いが,今後エドキサバン vs アピキサバン/リバーロキサバンの大規模コホートによる比較も必要である.

<コメント,脳神経内科の立場から>
治験レベルでは,過去にリバーロキサバン(ROCKET AF,日本のみJ-ROCKET AF)とアピキサバン(ARISTOTLE)双方でワルファリンとの比較試験が行われている.それらによれば,有効性(脳塞栓症/全身性塞栓症の予防効果),安全性(出血性合併症の頻度)ともにリバーロキサバンがワルファリンとほぼ同等であったのに対し,アピキサバンのそれは有意に優れていた.これらの治験結果を考慮すると今回の比較試験の結果は納得のいくものであるかも知れない.
ただし,本研究はいわゆるガチンコの比較研究ではあるが,我々が日本の臨床現場でそのまま適用するにはいくつか問題点がある.まず当研究は後ろ向きであって多くのバイアスを含む可能性が否定出来ない.また本研究はあくまでも投与した2群間全体の比較結果であり,年齢別,腎機能別,さらには人種による差など,より詳細な解析が欲しいところである.さらにリバーロキサバンは日本(J-ROCKET AF)と海外(ROCKET AF)では別用量で治験が行われており,アメリカのデータをそのまま日本国内に適用しアピキサバンの方が優れているとは言い切れないように思われる.自分自身は過去の治験結果と長い経験に基づいてアピキサバンを多用してはいるが,それが間違いのない選択であると確信するには,アジア人を対象とした前向き試験で,年齢,併存症,腎機能などのカテゴリー別のサブ解析でもエビデンスが欲しいところである.(慈愛会今村総合病院脳神経内科 神田直昭)

<コメント,循環器内科の立場から>
日本人を含むアジア人では非アジア人と比べワルファリンによる頭蓋内出血発生率が高いことが解っている.DOACにおいても同様の結果であり(文献6),一次予防として抗凝固療法を開始することが多い循環器内科医の立場では,出血リスクに対する配慮を優先して薬剤選択を行うことが多い.各DOACの第Ⅲ相大規模臨床試験において,ワルファリンと比較した大出血発生率がアピキサバン(HR:0.69,95%CI:0.60~0.80)(文献7),ダビガトラン(HR:0.80,95%CI:0.70~0.93),エドキサバン(HR:0.80,95%CI:0.71~0.91)で有意に少なくなっており,日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドラインの不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版)では出血リスクの高い患者に対して上記3剤のいずれかを用いることが推奨されている(推奨クラスⅡa,エビデンスレベルA).ダビガトランに関してはRe-LY試験においてワルファリンに比べ消化管出血を50%増加させることが報告されており敬遠される理由の一つとなっている.以上のことから私見ではあるが日本ではエドキサバンとアピキサバンの使用が多くなっていると考えられる.特にエドキサバンは一日1回服用で減量基準がシンプルであることも処方数増加の要因と考えられる.本研究でアピキサバンの実臨床における有効性及び安全性が再確認されたが,あくまでリバーロキサバンとの比較試験であること,日本においてはリバーロキサバンの用量設定が海外と異なることなどから直ちに処方行動の変容につながるとは考えにくい.(出水郡医師会広域医療センター循環器内科 小瀬戸一平)

執筆者: 

有田和徳