多発性脳動脈瘤の特徴と背景因子:血液型や血液像も関係している

公開日:

2022年4月11日  

Development of multiple intracranial aneurysms: beyond the common risk factors

Author:

Dinger TF  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery and Spine Surgery, University Hospital, University of Duisburg-Essen, Essen, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:35120308]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Feb
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

2018年の約9万症例のメタ解析によれば,脳動脈瘤症例における多発性脳動脈瘤症例の割合は20%前後で,最近の報告では増加しつつある(文献1).一方,UCAS Japanでは,未破裂動脈瘤患者のうち13.9%が多発性脳動脈瘤を有していた(文献2).
従来,単発動脈瘤と比較した多発性脳動脈瘤の特徴や背景因子の解明は不十分であった.ドイツ・エッセン大学のチームは2003年から2016年に入院させ,DSAで診断した動脈瘤症例連続2,446例を対象にこれらの因子を解析した.対象症例の48%はくも膜下出血で入院していた.多発性脳動脈瘤症例は853例(34.9%)であった.

【結論】

多変量解析では,多発性脳動脈瘤(症例)の発生は,女性,高血圧,喫煙,血液型AB,入院時CRP高値,平均赤血球容積(MCV)高値,血清総蛋白(TP)高値と独立して相関していた(全てp<.05).診断方法(2Dか3D[半数で実施]か)は関係なかった.
動脈瘤の絶対数は女性,高血圧,動脈瘤の家族歴,喫煙,MCV高値,血小板数高値と独立して相関していた(全てp<.05).
脳動脈瘤発生の一般的なリスクファクターは多発性脳動脈瘤でも当てはまったが,多発性脳動脈瘤ではそれら以外に血液レオロジー的な因子や血球学的な因子もその発生に関与している可能性がある.

【評価】

先ず本研究では,脳動脈瘤を有する患者中の多発性脳動脈瘤を有する患者の割合が約35%と,従来の報告より高い.著者らはこの理由について言及していないが,全ての患者が入院してDSA検査(2D,3Dが半数ずつ)で診断されていることが関係しているのかも知れない.
2018年にPittsburgh大学からは,自験の1,277症例を基にした,単発例を基本ケースとした多発性脳動脈瘤(30%)の発生に関する多項回帰分析の結果が報告されている(文献3).これによれば,脳動脈瘤が2個の群では女性,BMI高値,長い喫煙歴,黒人,3個以上の群では女性,BMI高値,椎骨脳底動脈系の動脈瘤,黒人が,それぞれ多発性脳動脈瘤のリスク因子であった.調整後多変量多項モデル解析では,女性,長い喫煙歴,BMI高値,椎骨脳底動脈系の動脈瘤,黒人が多発性脳動脈瘤の独立した危険因子であった.
一方,本論文の著者らは2018年に,134研究86,989症例のメタ解析の結果を発表している(文献1).これによれば,女性,高齢(>40),高血圧,動脈瘤の家族歴,喫煙,新生動脈瘤,最初の動脈瘤の成長が多発性脳動脈瘤の発生と関係していた.
また,これらの報告以前にも,多発性脳動脈瘤の危険因子としては女性,高齢者,喫煙者,高血圧などが指摘されてきた(文献4,5).
本研究結果の際だった特徴は,従来あまり注視されていなかった血液型AB,入院時CRP高値,平均赤血球容積(MCV)高値,血清総蛋白(TP)高値,血小板数高値が脳動脈瘤多発と相関していたという点である.本シリーズではくも膜下出血例が約半数含まれており,これらの因子のいくつかは急性期の全身反応を反映している可能性を考慮する必要性はある.一方,これらの因子の中で,CRPや血小板数高値は動脈瘤の発生に関係する動脈壁での炎症プロセスの促進を反映している可能性がある(文献6,7,8).またMCV高値や血清蛋白高値は血液の粘稠度,さらには動脈壁でのずり応力と関係している可能性がある.では血液型AB型は何故か.著者らは,一つの仮説としてAB型患者では可溶性細胞間接着分子-1(sICAM-1)の濃度が高く,このことが血管壁の炎症過程と関わっている可能性を挙げている.
しかし,では単発の動脈瘤の発生にこれらの因子が関わっていないのは何故か.これらの疑問は脳動脈瘤の発生機序の解明につながる重要な問いかも知れない.
さらに本シリーズでは,動脈瘤の発生部位も単発と多発瘤では異なっていた.多発性脳動脈瘤では単発瘤に比較して,動脈瘤が後方循環や前大脳動脈近位部に発生する頻度は少なく,内頚動脈と中大脳動脈に発生する頻度は高かった(全てp<.001).この理由もまた謎である.

<コメント>
多発性脳動脈瘤に関連する因子を,従来の生活習慣のみならず動脈壁でのずり応力等に着目し,ラボデータの因子も加えた研究である.血液の粘稠度が炎症を惹起し,動脈瘤の発生と関与する可能性を示唆した論文で,単発動脈瘤とは異なる発生機序を提起しているのかもしれない.また多発性脳動脈瘤は,より遺伝的因子が強く,血管壁の炎症やずり応力が関与していることを窺わせる.
最近の報告では多発性脳動脈瘤の頻度は増加しつつあるが(文献1),くも膜下出血の頻度は減少傾向であるので,動脈瘤1個当たりの年間破裂率は低下しているのかもしれない.本稿序文では,3D-DSAが小さな動脈瘤を描出しやすいかも知れないと述べているが,実際は2D-DSAより3D-DSAが小さな動脈瘤を描出しやすいというわけではなかったという.
本稿に対する最も重要な批判は,本研究はderivation cohort(解析群)のみの研究であり,当然必要なvalidation cohort(検証群)での検証が行われていないことである.追加の報告が待たれる.(島根県立中央病院脳神経外科 井川房夫)

執筆者: 

有田和徳