その脳主幹動脈閉塞は塞栓性か動脈硬化性か?:血栓回収の前にABC2Dスコアで予測出来る

公開日:

2022年4月13日  

最終更新日:

2022年4月13日

A simple score to predict atherosclerotic or embolic intracranial large-vessel occlusion stroke before endovascular treatment

Author:

Liao G  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Maoming People's Hospital, Maoming, China

⇒ PubMedで読む[PMID:35303701]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Mar
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

血栓回収術の適応となる脳主幹動脈閉塞には塞栓関連のもの(EMB-O)と,頭蓋内動脈硬化性狭窄関連のもの(ICAS-O)がある.ICAS-Oは東アジア圏では脳主幹動脈急性閉塞全体の12~34%を占める(文献1,2).ICAS-OはEMB-Oに比較してADAPTによる再開通は困難で,再狭窄も起こりやすい.予めICAS-Oであることが予想されればステントリトリーバーの使用やバルーンによる血管形成を準備することも出来る.中国茂名市人民医院のチームは自験例を解析し,ICAS-Oを予測する因子を求めた.このため,過去6年半に実施した617例の血栓回収症例を,2:1の割合で,ランダムに解析群と検証群に分けた.

【結論】

解析群395例,検証群213例におけるICAS-Oの頻度は49%と52%であった.交絡因子調整後の多重ロジスティック回帰分析では心房細動の不在(A),高血圧(B),NIHSS<7(C),CT高吸収サインの不在(C),糖尿病(D)の5項目が有意にICAS-Oと相関していた.心房細動の不在に3点,他の4因子に1点を付与したABC2Dスコア(0~7点)はICAS-OとEMB-Oの鑑別に役立った.このスコアのROC解析におけるAUCは解析群で0.886,検証群で0.880であった.ABC2Dスコア4点は解析群において90.9%の感度,72.8%の特異度でICAS-Oを診断し得た.

【評価】

糖尿病と高血圧はいずれも動脈硬化のリスク因子であるので,これらが有れば頭蓋内動脈硬化性狭窄を来たしやすいであろう.一方,当然ながら心房細動は心原性塞栓を強く支持する(文献3,4).また高いNIHSSスコア(重篤な神経症状)も塞栓症を示唆し(文献5),単純CTにおける中大脳動脈内の高吸収は赤血球主体の塞栓子の存在を示唆する(文献6,7).これらの因子にその有無によってポイントを付与したものがABC2Dスコアである.わかりやすいスコアである.また,このスコアのAUCは0.88前後と高く,かなり高精度の診断基準であることが推定される.
問題は脳主幹動脈閉塞を塞栓性のものと(EMB-O),頭蓋内動脈硬化性狭窄が原因のもの(ICAS-O)にどうやって分けたかである.
著者らは,もし最初の血栓回収手技で完全に再開通が得られ,かつ頭蓋外動脈を含めた動脈硬化性変化がない場合,あるいは心臓などに明らかな塞栓源がある場合は塞栓性閉塞と診断している.逆に,最初の血栓回収手技後に50%以上の狭窄が残った場合や最初の血栓回収による再開通後に再狭窄の傾向が認められた場合は動脈硬化性狭窄関連の閉塞と診断したとのことである.病理所見に基づいてはいないし,かなり大づかみの鑑別であり,どこまで正確かは判らない.今後,MRIの動脈壁イメージングなど最新の画像診断所見と併せて,この鑑別方法の正確さを評価する必要性がある.
現在,TIA後の脳卒中発症リスクを予測するスコアであるABCD2スコアが世界中で使用されているが,これはA(age),B(blood pressure),C(clinical features),D(duration),およびD(diabetes)の5項目からなり,トータル0~7点である.
本稿のABC2Dスコアも5項目,合計0~7点のスケールであり,もしかするとABCD2にかなり意図的に類似させたスコアであることも推測される.このような覚えやすさも臨床現場での使用を促進すると思われるが,先ずは早急な外部検証が望まれる.
少し気になるのは,解析群,検証群とも,血栓回収の対象となった脳主幹動脈閉塞のうち約半数がICAS-O(頭蓋内動脈硬化性狭窄関連のもの)であった事である.欧米圏の1.9~5.5%より高いのはわかるが(文献8,9),従来の東アジア圏からの報告よりも高い(文献1,2).研究が実施された茂名市人民医院は,広東省の南部に位置する人口617万人を擁する茂名市にある中規模病院である.脳主幹動脈閉塞に占めるICAS-Oの頻度が世界の他地域と大きく異なるのは遺伝的素因によるのか,環境,食生活習慣などの背景因子の違いによるのか,興味深い.

<コメント>
脳の大血管閉塞に対する血管内治療において,大血管閉塞の原因が心原性かアテローム硬化性かでは再開通治療の方法と再開通率に大きな差が出る.本論文は大血管閉塞の原因が心原性かアテローム硬化性かの判定をスコア化した報告である.このスコアは心房細動の有無,高血圧,CT上の変化,NIHSS,糖尿病の有無といった救急外来でわかる5つの指標で判定でき,非常に簡便かつ有用なスコアと思われる.高血圧,糖尿病は以前から動脈硬化のリスクとしてあげられている.ただし,同じように高脂血症(脂質代謝異常症)も動脈硬化のリスクとされているが,本シリーズでは,その頻度は心原性閉塞とアテローム硬化性閉塞で同程度であり,スコアの指標に入らなかったのは少々意外ではある.いずれにしても,今後本邦での検証に期待したい.(県立広島病院脳神経外科・脳血管内治療科 岐浦禎展)

執筆者: 

有田和徳