脳底動脈閉塞による昏睡状態(GCS≦8)の患者でも血管内治療は機能予後を改善する:中国BASILAR研究のサブ解析

公開日:

2022年4月13日  

最終更新日:

2022年4月16日

Endovascular treatment in patients with coma that developed secondary to acute basilar artery occlusion

Author:

Yue C  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Xinqiao Hospital and The Second Affiliated Hospital, Army Medical University, Chongqing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:35303706]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Mar
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳底動脈閉塞に対する血管内治療(EVT)の有用性は確立していない.本稿は,中国47ヵ所の包括的脳卒中センターで実施された発症24時間以内の脳底動脈閉塞に対する治療の前向き連続登録研究である(文献1).2014~2019年に829例の急性期脳底動脈閉塞症例が登録された.標準薬物療法が182例に(SMT群),標準薬物療法+血管内治療が647例に実施された(EVT群).既に全症例の解析の結果,EVT群の方が90日目のmRSが良好という報告がされている.本稿はGCS≦8の昏睡患者500例を対象としたサブ解析である.500例の中から傾向スコア法で交絡を調整後,SMT96例とEVT169例を抽出した.

【結論】

この2群間の比較では,症候性頭蓋内出血はEVT群で有意に多かったが(10.7 vs 1.0%),90日目のmRS≦3はEVT群で多く(16.0 vs 4.2%,p=.004),死亡は少なかった(62.7 vs 82.3%,p<.001).多変量解析では,EVTは90日目のmRS≦3ならびに死亡と独立して相関した(調整OR 8.92,p<.001ならびに調整OR 0.19,p<.001).EVT例において,mRS≦3と相関したのは受診時の相対的低体温,GCS 6~8,高い後方循環(pc)ASPECTS,高いASTIN/SIRグレード,鼠径部穿刺-再開通時間であった(いずれもp<.001).

【評価】

前方循環閉塞に対する血管内治療(EVT)の有効性は確立している(文献2).一方,椎骨脳底動脈系の閉塞に対しても,EVTの有用性が示唆されてきたが,エビデンスレベルは低かった(文献3).2020年2月に結果が公開された中国におけるRCT(BEST)は登録の遅れとクロスオーバー症例の過剰によって中止されている(文献4).
本BASILAR研究は,中国の47ヵ所の包括的脳卒中センターで実施された発症後24時間以内の急性脳底動脈閉塞症例の連続前向き登録研究で,全症例の解析結果は既に2020年に発表されている(文献1).それによれば90日後のmRSは標準的薬物療法群に比較してEVT群で有意に良好であった(調整共通オッズ比3.08,p<.001).90日後の機能予後良好(mRS≦3)の割合もEVT群で有意に高かった(32.0 vs 9.3%,調整オッズ比4.70,p<.001).症候性出血の頻度はEVT群で高かったが(7.1 vs 0.5%,p<.001),90日以内の死亡はEVT群で低かった(46.2 vs 71.4%,調整オッズ比2.93,p<.001).一方,標準的薬物療法群とEVT群間には年齢,後方循環(pc)ASPECTS,血圧,閉塞部位,閉塞の原因など多くの背景因子で差があったので,これらの因子を傾向スコア法でマッチさせた167例ずつを抽出して比較した.その結果でも,EVT群の方が,90日目のmRSが良好で,機能予後良好(mRS≦3)例が多く,死亡率が低かった(いずれもp<.001).
本論文は上述のBASILAR研究のサブ解析であるが,全体の6割を占める受診時GCS≦8の昏睡患者でもEVTは予後良好ならびに死亡率減少の独立した強い相関因子であった(調整OR 8.92と0.19).
なお,本研究ではEVT例において,相対的低体温も機能予後良好(mRS≦3)の独立した相関因子であった.興味深い発見であるが,これが何を意味しているのか本論文中には記載されていない.
現段階で,脳底動脈閉塞症例に対するEVTに関するRCTとして,唯一結果が出ているものとして,オランダなど7ヵ国23センターで実施された多施設試験(BASICS,NCT01717755,300症例)があり,その結果は2021年にNEJMで発表されている(文献5).これは発症後6時間以内の症例を対象としたものである.症候性頭蓋内出血の頻度はEVT群で高かったが,90日目mRS≦3の頻度,死亡率ともに標準的薬物療法群とEVT群間に差はなかったという.
一方,中国では現在,発症後6~24時間の脳底動脈閉塞症例に対するEVTに関するRCTであるThe Basilar Artery Occlusion Chinese Endovascular Trial(BAOCHE研究,NCT02737189,2022年末に登録終了予定)が進行中である(文献6).
現段階では脳底動脈閉塞に対するEVTのエビデンスは未だ乏しく,pcASPECTSや神経学的重症度なども勘案した慎重な適用判断が必要なように思われる.

<コメント>
脳底動脈の急性閉塞に対する血栓回収術の有効性はまだ確立されたとは言い難いが,リアルワールドでは多くの症例が血栓回収術を受けていると思われる.なかなかエビデンスが得られない理由として,神経症状が多彩であること,後頭蓋窩のtissue imagingが困難であること(CTでのpc-ASPECTS評価の一致率の問題)などがあげられる.予後良好規定因子としてNIHSS軽症例(15未満),pc-ASPECTS(6以上),BATMANスコア(6以上)などが報告されているが,これらの軽症例においては十分な側副血行があり,そもそも血栓回収術なしでも転帰良好であったのかもしれない.重症の脳底動脈閉塞に対してはどうであろうか?血栓回収術を行っても転帰不良の可能性はあるが,自然歴(保存的加療でmRS 0~3は20%程度,死亡率40%)を考えると治療に踏み切る臨床医が多いと考えられる.重症例においても血栓回収術の有効性を示すことができた本研究(BASILAR group subanalysis)は臨床医にとって勇気づけられる報告と思われる.BASICS sub解析でも血栓回収術はNIHSS 10以上のより重症例に効果的であるという結果であった(文献5).これまでnegativeな結果であったBEST,BASICS研究,さらには現在進行中のBAOCHE研究も含めたメタ解析の結果が待たれる.(広島大学脳神経外科 堀江信貴)

執筆者: 

有田和徳