脳底動脈急性閉塞に対する血管内治療の初めてのRCT:BASICSの300例

公開日:

2022年5月18日  

最終更新日:

2022年5月19日

Endovascular Therapy for Stroke Due to Basilar-Artery Occlusion

Author:

Langezaal LCM  et al.

Affiliation:

Antonius Hospital, Nieuwegein, the Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:34010530]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2021 May
巻数:384(20)
開始ページ:1910

【背景】

後方循環の急性閉塞に対する血管内治療(EVT)の有効性は確立していない.本BASICS研究は,2011年から2019年にオランダを中心とする世界7ヵ国23施設で実施された発症6時間以内の脳底動脈閉塞に対するEVTに関するRCTである.154例がEVTに,146例が標準薬物治療に割り当てられた.効果に関する一次アウトカムは90日目の機能予後良好(mRS≦3),安全性アウトカムは治療開始3日以内の症候性頭蓋内出血と90日以内の死亡とあらかじめ決定された.経静脈的血栓溶解療法はEVT群で78.6%,標準薬物治療群で79.5%で実施された.EVTは発症後中央値4.4時間で開始された.

【結論】

90日目のmRS≦3はEVT群で44.2%,標準薬物治療群で37.7%,リスク比は1.18(CI:0.92~1.50)であった.症候性頭蓋内出血はそれぞれ4.5%と0.7%,リスク比は6.9(CI:0.9~53.0)であった.90日までの死亡率はそれぞれ38.3%と43.2%,リスク比は0.87(CI:0.68~1.12)であった.
脳底動脈急性閉塞患者の90日目の機能予後良好(mRS≦3)に関しては,EVTと標準薬物治療の間で統計学的な差がなかった.ただし,リスク比における95%信頼区間(0.92~1.50)を見るとEVTがかなりの効果を有する可能性を排除出来ない.

【評価】

脳底動脈閉塞は脳主幹動脈急性閉塞による脳梗塞の10%を占めており,その予後は極めて悪く,死亡率は50%に達する(文献1,2).既に,前方循環閉塞に対する血管内治療(EVT)の有効性は確立しており(文献3),世界中で普及している.かたや椎骨脳底動脈系の閉塞に対しては,EVTの有用性が示唆されてきたものの,その根拠となっているのは前向き登録試験や症例シリーズのメタ解析であり,エビデンスレベルは低かった(文献4,5,6).
BASILAR研究は中国で実施された発症後24時間以内の急性脳底動脈閉塞症例の前向き登録研究であるが(文献5),これによれば90日後のmRSは標準薬物治療群に比較してEVT群で有意に良好であった(調整共通オッズ比3.08,p<.001).90日後の機能予後良好(mRS≦3)の割合もEVT群で有意に高かった(32.0 vs 9.3%,調整オッズ比4.70,p<.001).
一方,本BASICS RCTの前身であるBASICSレジストリー研究は,2002年から2007年に実施された急性脳底動脈閉塞症例の前向き登録研究であるが,EVTの有効性を示すことは出来ていない.NIHSS 20を超える重症例については,EVT群は抗凝固療法のみの群に比較して,転帰不良(mRS 4~6)が減少する可能性を示しているが(調整RR 0.94,CI:0.86~1.02),有意差には達していない(文献6).
このBASICS RCTは,BASICSレジストリー研究の結果を受けて実施されたRCTで,脳底動脈急性閉塞に対するEVTに関しては,結果が公表された初めてのRCTとなる.これによれば,一次アウトカムである90日目のmRS≦3の頻度はEVT群で44.2%,薬物療法群で37.7%とわずかにEVT群で高かったが有意差はなかった.ただし,95%信頼区間は0.92~1.50であり,統計パワー次第では有意差が出るのかも知れない.またサブ解析では,NIHSS<10の軽症例を除いた239例(NIHSS≧10)に限れば,一次アウトカムの頻度はEVT群で有意に高かった(リスク比1.45,CI:1.03~2.04).著者らは,この結果を受けて,脳底動脈急性閉塞に対するEVTはかなりの効果を有する可能性があり,それを証明するためには,今後より大きなRCTが必要であると述べている.
本試験の問題点としては,試験期間内に試験参加施設を受診しスクリーニングされた脳底動脈閉塞患者のうち,29%が本RCTに登録されずに治療され,そのうち79%はEVTを受けている.また,薬物療法群に割り当てられた患者の5%がEVTにクロスオーバーしている.前方循環急性閉塞に対するEVTのエビデンスの積み重ねが第一線の脳卒中医療担当者の判断に影響を与えた可能性がある.
また,本研究ではCT灌流画像などの先進画像診断法を用いてはいない.側副血行の発達の程度がEVTの結果にどのような影響を与えるかは,知りたいところである.
脳底動脈急性閉塞に対するEVTに関するその他のRCTとしては,2020年2月に経過が公開された中国におけるRCT(BEST,発症8時間以内の患者が対象)があるが,登録の遅れとクロスオーバー症例の過剰によって中止されている(文献7).一方,発症6~24時間の患者を対象としたRCTであるThe Basilar Artery Occlusion Chinese Endovascular Trial(BAOCHE研究,NCT02737189,2022年末に登録終了予定)が中国で進行中である(文献8).その結果に注目したい.

<コメント>
本BASICS研究は脳底動脈閉塞症(BAO)に対する血栓回収術に関する最初のRCTであったが,発症6時間以内のBAOに対する血栓回収術の有効性は示されなかった.
また発症8時間以内のBAOに対する血管内治療と薬物治療を比較したRCT(BEST試験)も,治療のクロスオーバーが多く(薬物治療割り当ての22%に血管内治療が施行された),また登録が遅れたことで中止されている.
本邦の「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第4版」(2020年3月)によれば,発症6時間以内の脳底動脈閉塞に血栓回収術を施行することは,十分な科学的根拠は示されていないが,症例ごとに適応を慎重に検討し,有効性が安全性を上回ると判断した場合には本療法の施行を考慮しても良い(グレードC1)となっており,あまり推奨度は高くない.
実臨床においては,BAOに血栓回収術を行うことで,劇的な症状改善をきたす症例があることは知られている.しかしながら,これまでの報告を見ると,BAO全体という括りでは思ったよりも血栓回収の有効性は高くないようである.BAOは,症例が比較的少ない,症状が重症,動脈硬化性狭窄症例が多い,血栓回収に際してのアクセスの問題,誤嚥などの合併症が多いなどの前方循環との違いが多い事などが,高いエビデンスが出ない背景にあると思われる.脳血管内治療医としては,今後の研究(BAOCHE試験など)により,血栓回収が有効であるBAO患者群が明らかになる事を期待したい.(鹿児島市立病院 脳神経外科 脳卒中センター 西牟田洋介)

執筆者: 

有田和徳