小脳性無言症の責任病巣とその転帰

公開日:

2022年5月26日  

最終更新日:

2022年5月27日

Structural damage burden and hypertrophic olivary degeneration in pediatric postoperative cerebellar mutism syndrome

Author:

Beez T  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Medical Faculty, Heinrich-Heine-University, Düsseldorf, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:35441993]

ジャーナル名:Neurosurg Rev.
発行年月:2022 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

髄芽腫などの小児の小脳虫部腫瘍の術後,約25%の頻度で,無言(小脳性無言,cerebellar mutism)と情動障害,構音障害,小脳失調などの症状が出現することがあり,小脳性無言症候群(CMS)と呼ばれる(文献1,2).本研究はCMSの発生とその重症度が解剖学的構造の障害とどのように相関するのか,CMSの経時的変化が肥大型下オリーブ核変性(HOD)とどう相関するかを求めたものである.対象はデュッセルドルフ市・ハインリヒ・ハイネ大学で2010~2017年にtelovelarアプローチで摘出術が行われた小児後頭蓋窩腫瘍の78例.CMSは10例(13%,年齢中央値8歳)で発生した.

【結論】

non-CMSの68例からCMS例と年齢・性・組織型などをマッチさせた10例を抽出して比較した.CMSの出現は術後1日目6例,1~2日2例,2~4日2例で,主症状は無言80%,失調80%,筋低緊張60%,易刺激性50%であった.
CMSは歯状核障害と有意に相関し(p=.0031),上小脳脚障害と相関する傾向であった.HODはCMSの5例で両側に,1例で片側に,non-CMSの1例で片側に出現した.CMS症例のHODは術後平均5ヵ月で初めて観察され,平均13.8ヵ月で消退し始めた.HODの存在はCMSならびに赤核障害と有意に相関した.HODが出現した症例ではCMSは早期に現れ,長期間続いた.

【評価】

最近の研究ではCMSは歯状核-上小脳脚-視床-皮質経路と歯状核-上小脳脚-赤核-オリーブ核経路(Guillain-Mollaret三角)への障害が関係していると考えられている(文献1,2).本研究では,CMS患者では,non-CMS患者より術後MRIにおける歯状核と上小脳脚障害が多い事,さらにCMS患者では肥大型下オリーブ核変性(HOD)が多い事を明らかにしており,上記仮説の信憑性を改めて確認したことになる.また,HODが認められた患者ではCMSが早期に出現し,長期間続いたこともGuillain-Mollaret三角の障害との強い関係を示している.
かつては,CMSの原因として小脳虫部の切開(splitting)も有力視されていたが(文献3,4),その後,直接の因果関係については疑問も呈されている(文献5,6).本シリーズでも,小脳虫部を切開することなしに,すべてtelovelarアプローチを用いているが,13%でCMSが起こっており,小脳虫部のsplittingはCMSの直接的な原因ではなさそうである.
この他,CMSのリスク因子としては,腫瘍の脳幹への浸潤,第四脳室への浸潤,上小脳脚への浸潤,髄芽腫,5 cm以上の腫瘍,左利きなどが上がっている(文献4).
また2020年,オランダ・エラスムス/ソフィア小児病院のチームは小児小脳腫瘍術後のCMS発生を予測するスコア(ロッテルダム・スコア)を開発している(文献7).これは,MRIにおける脳幹圧迫の程度やエバンス・インデックスをスコア化したものである.本シリーズでもCMS群ではnon-CMS群と比較して,ロッテルダム・スコアは有意に高かった(中央値120 vs 72.5,p=.0019).
大きな小脳虫部腫瘍が脳幹や歯状核を強く圧迫している場合は,歯状核の直前方に位置する上小脳脚への圧迫も強いと考えるべきで,摘出手術では,少なくとも両側性の歯状核-上小脳脚障害を起こさないように細心の注意をはらう必要がある.
将来,歯状核-上小脳脚-視床-皮質経路の術中電気生理学的モニタリングが可能になれば,より安全な手術が可能になるかも知れない.
一方,髄芽腫のうちWNT,SHH,グループ3の全摘出は亜全摘に比較して生存上のメリットをもたらさないことも示されている(文献8).今後,髄芽腫の分子グループの術前予測や術中診断が可能になれば,手術戦略の使い分けが可能になるかも知れない.

執筆者: 

有田和徳