小枝状中大脳動脈(twig-like MCA)ともやもや病との相違:本邦における多施設研究

公開日:

2022年5月26日  

Radiological and clinical features of twig-like middle cerebral artery in comparison with moyamoya angiopathy: a multicenter retrospective study

Author:

Goto Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Medical Science, Kyoto Prefectural University of Medicine, Kyoto, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:35426829]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

中大脳動脈の近位部が網状あるいは小枝状のネットワークとなり,その後1本に収束する変異が極めて稀に観察される.この変異は,rete MCA,unfused MCA, twig-like MCA(T-MCA,Liuら,文献1)などと称されている.この変異の画像所見や病態は充分に明らかにはなっていない.本研究は日本国内8施設で2010年以降に診断されたT-MCA 29例ともやもや病(MMA)57例を比較したものである.T-MCA患者群の方がMMA患者群より若い傾向であった(平均:47 vs 39歳,p=.108).

【結論】

T-MCAの69%は当初MMAと診断されていた.T-MCAは頭蓋内動脈瘤の合併が多く(35 vs 11%),その他の動脈変異(副MCA 8例,PTA 3例など)の合併も多かった(48 vs 12%).内頚動脈末梢部病変,後大脳動脈病変,経硬膜的吻合はT-MCAでは認められず,MMAに限って認められた(100,23,51%).T-MCAはMMAより脳卒中症状での発症は少なく(59 vs 86%),無症候性のものが多かった(28 vs 12%).脳卒中で発症した症例の中では,出血性脳卒中はT-MCAで多く(41 vs 29%),虚血性脳卒中はT-MCAで少なかった(59 vs 71%).

【評価】

多くの脳外科医にとってはT-MCAよりも,頚動脈怪網([Carotid] Rete mirabile)の方がなじみが深いであろう.頚動脈怪網は下等脊椎動物(ヒツジ,ブタ,キリンなど)の外頚動脈系(特に上顎動脈)の網状血管が頭蓋内内頚動脈に血流を送り込むネットワークである.まれに人でも見られることが報告されており,頚部内頚動脈が低・無形成で,代わって外頚動脈系の動脈叢が,頭蓋底硬膜を貫いて海綿静脈洞部の内頚動脈に血流を送り込む変異で,通常両側性である(文献2).
これに対して,rete MCA(中大脳動脈網)あるいはT-MCAは,異常な血管網が主として中大脳動脈M1部領域に認められること,頭蓋底硬膜を貫かないこと,片側性であることから,頚動脈怪網とは区別可能である.この変異の発生機序は明らかではないが,胎生期に前大脳動脈から分岐し,将来の中大脳動脈の原基となる網状(叢状)のlateral striate arteryが1本に癒合せずに残ったものと考えられている(文献3).その有病率は0.088-1.17%と報告されているが,本研究対象でもT-MCAの69%が当初もやもや病と診断されているように,その多くが正しく診断されていない可能性がある.
本稿は,京都府立医科大学などの8施設で経験したT-MCA29例をもやもや病57例と比較して,その画像の特徴と病態を明らかにしたものである.その結果,T-MCAでは内頚動脈の異常,後大脳動脈の異常,経硬膜的な吻合,患側半球の脳血流低下がいずれも認められないことが,もやもや病との決定的な違いであった.逆にT-MCAでは他の血管変異(副中大脳動脈,PTA,窓形成など)や動脈瘤を伴いやすかった.臨床像としては,T-MCAはMMAに比較すれば出血発症が多く,その多くは合併した動脈瘤の破裂,網状血管からの出血である.
一方,この研究期間中(2010~2018年)の虚血性脳卒中の発生は,T-MCA群では6.9%,MMA群では38.6%であったように,T-MCAは虚血症状が少ないことが特徴である.T-MCAにおける虚血症状は,網状血管内に生じた微小血栓による塞栓症や網状血管から分岐するレンズ核線条体動脈に生じたリポヒアリン変性などが想定されている.
先行するソウル大学のChoらの論文では,自験の13例を含むT-MCA(rete MCA)の報告60例をレビューしている.これによれば,T-MCAは出血発症が53%,虚血発症が18%であった.また半数に動脈瘤が認められ,その80%はrete MCAと同側に発生していた(文献4).
近年RNF213がもやもや病の原因遺伝子として注目されている(文献5,6).家族性のもやもや病患者の95%,孤発性でも79%の患者にRNF213の遺伝子多型がみられたとされる.また最近のMineharuらの報告では,片側型もやもや病の72%にRNF213変異が認められ,RNF213変異例では病変の反対側への進展の可能性が高いことも報告されている(文献7).
本稿ではT-MCA症例における遺伝子変異についての記載はないが,T-MCAの報告が,ほとんどアジア人に限定されていることを考慮すれば,もやもや病と同様に遺伝学的な背景が存在する可能性が高い.遺伝学的な情報は,他疾患との鑑別や予後の推定の観点からも重要と思われる.今後の重要な課題である.
また,T-MCAの正確な診断はDSAによらなければならないが,今後,脳ドックでのMRAの精度が上がり,一般人口におけるT-MCAの頻度が推定できるようになることも期待したい.

執筆者: 

有田和徳