クラゾセンタン(clazosentan)はくも膜下出血後の脳血管れん縮関連障害と全死亡を抑制する:日本発のピボタルRCT

公開日:

2022年5月27日  

最終更新日:

2022年5月28日

Effects of clazosentan on cerebral vasospasm-related morbidity and all-cause mortality after aneurysmal subarachnoid hemorrhage: two randomized phase 3 trials in Japanese patients

Author:

Endo H  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Tohoku University Graduate School of Medicine, Miyagi, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:35364589]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

エンドセリン-1はくも膜下出血後血管れん縮の主要な原因物質である.エンドセリン受容体であるETA拮抗薬のクラゾセンタンには,血管れん縮の抑制効果が期待されている.先行する国際2b相試験(CONSCIOUS-1)ではクラゾセンタンが用量依存的にかつ有意に血管れん縮を減少させ,血管れん縮関連の障害と死亡を減少させる傾向を示した.本治験は日本人を対象とした第3相二重盲検RCTで,クリッピング例およびコイリング例とも220例が解析された(両群ともクラゾセンタン109例,偽薬111例).クラゾセンタン(10 mg/hr)および偽薬は,くも膜下出血後48時間以内に開始し,15日まで持続した.

【結論】

クラゾセンタンは偽薬に比較して,一次エンドポイントである発症6週間以内の血管れん縮関連障害+全死亡を有意に減少させた(コイリング症例:28.8 vs 13.6%,クリッピング症例:39.6 vs 16.2%,ともにp<.01).クリッピング症例とコイリング症例を併せた事前指定プール解析でも同様の結果であった(p<.0001).同じく事前指定プール解析では,発症6週間以内の全障害+全死亡ならびに発症12週目の機能予後不良(mRS≧3)はクラゾセンタン投与によって有意に減少した(ともにp<.05).治験関連有害事象の頻度はクラゾセンタンと偽薬で同様であった(共に約95%).

【評価】

くも膜下出血患者では,脳血管れん縮は17~40%の頻度で遅発性虚血性脳障害(DIND)をもたらし,その半数は脳梗塞に陥る(文献1).
従来,くも膜下出血術後の脳血管れん縮に対する薬剤として,本邦では蛋白リン酸化酵素阻害薬のファスジル塩酸塩水和物(エリル),トロンボキサン合成酵素阻害薬のオザグレルナトリウムが使用されていたが,症候性血管れん縮を防ぎ得ない症例も多く,出血性合併症のリスクも存在した.
エンドセリンは,柳沢正史氏によって発見された強力かつ持続的な血管平滑筋収縮作用を有する血管内皮細胞由来のペプチドである.エンドセリンはエンドセリン-1,-2,-3の3種類が同定されており,その受容体にはETAおよびETBの2種類がある.
エンドセリン-1はくも膜下出血後に酸化ヘモグロビン誘発性の産生亢進と赤血球からの放出によって髄液中濃度が高くなる事が知られており,脳血管れん縮の主要な原因物質と考えられている.
エンドセリン-1の受容体であるETA受容体に対する拮抗薬クラゾセンタンによる脳血管れん縮の発症抑制に関する国際2b相RCT(CONSCIOUS-1)では,クラゾセンタンが脳血管撮影上のれん縮を減少したが,有意の予後改善効果は認められなかった(文献2).これに続いたCONSCIOUS-2とCONSCIOUS-3の2つの第3相試験でも5 mg/hrの投与量では統計学的に有意な治療効果を認めることは出来なかった(文献3,4).
しかし,CONSCIOUS-3のデータの探索的解析では,15 mg/hrの投与量では脳血管れん縮関連障害+全死亡の発生を有意に低下させることが明らかになった(相対リスク減少率44%,p=0.0074)(文献4).一方,日本と韓国で行われた2相試験では,クラゾセンタン10 mg/hrの投与によって,血管れん縮関連障害+全死亡が偽薬群に比較して有意に減少することが明らかになった(文献5).
本治験は日本人のくも膜下出血患者に対するコイル治療220例とクリッピング治療220例を対象とした,クラゾセンタン10 mg/hrでの脳血管れん縮の発症抑制に関する2重盲検RCTである(JapicCTI-163368とJapicCTI-163369).その結果,クラゾセンタン投与は一次エンドポイントである発症6週間以内の血管れん縮関連障害+全死亡を有意に低下させた.また事前指定プール解析においても原因を問わない全障害+全死亡に対するクラゾセンタンの効果は統計学的に有意であった(p<.05).
本治験の結果を受けて本薬を開発したイドルシアジャパン社は2021年3月にPMDAに対して新医薬品承認を申請しており,2022年1月にはクラゾセンタンナトリウム(商品名ピヴラッツ点滴静注液150 mg)の製造販売が承認されている(文献6).適応は「脳動脈瘤によるくも膜下出血術後の脳血管攣縮,及びこれに伴う脳梗塞及び脳虚血症状の発症抑制」である.投与方法は,「くも膜下出血術後早期に投与を開始し,くも膜下出血発症15日目まで,持続注入ポンプを用いて持続投与する(10 mg/hr)」となっている.
治験関連の有害事象全体の頻度はクラゾセンタンと偽薬で差はなかったとのことであるが,具体的にクラゾセンタン群で5%以上の頻度で,かつ偽薬群より2%以上多かった有害事象をみると,嘔吐(7.3 vs 3.6%),低ナトリウム血症(26.1 vs 22.5%),低アルブミン血症(17.4 vs 12.6%),貧血(16.5 vs 9.5%),胸水(16.5 vs 3.6%),肺浮腫(11.9 vs 4.5%),脳浮腫(6.0 vs 2.7%)であった.今後,臨床現場での使用にあたって注意すべき事項と思われる.
現在,イドルシア社は,2019年2月から15ヵ国約95施設でREACT試験(NCT03585270)を進めているが,この試験ではクラゾセンタンの認知機能(MoCA test)や長期の健康関連QOLに対する効果も検討する予定である(文献7).
なお,エンドセリン受容体拮抗薬としては,このクラゾセンタンの他,ボセンタン,アンブリセンタン,マシテンタンがあり,本邦でも肺動脈性肺高血圧症に対して2005年から使用されている.

<コメント>
イドルシアファーマシューティカルズ株式会社は,1997年より選択的エンドセリンA受容体拮抗薬クラゾセンタンによる脳血管れん縮の予防効果を期待して開発に着手した.第1相試験では海外で11試験を実施し,健康成人や重度腎機能障害患者,軽度〜重度肝機能障害患者を対象に,安全性,忍容性,薬物動態および薬力学が検討された.第2相では脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血患者を対象とし,日韓共同で1試験,海外で4試験が実施され,脳血管れん縮の発現を減少させることが確認された.本論文の国内第3相試験では,主要評価項目としての脳血管れん縮に関連した新規脳梗塞やDINDの発現および原因を問わない死亡が,プラセボと比較して有意に減少することが確認された.過去30年間でくも膜下出血の再出血予防に関しては進歩が著しいが,脳血管れん縮の制御に関してはあまり変化がない状況が続いていた.今回,クラゾセンタンが世界に先駆けて日本で承認され,臨床現場での使用が可能になった.くも膜下出血患者の治療転帰改善に寄与することが期待される.今後は実臨床のデータを収集し,既存の脳血管れん縮治療薬との使い分けもしくは併用などを含めた新たな治療プロトコルの構築を行う必要がある.(広島大学脳神経外科 岡崎貴仁)

執筆者: 

松田大樹   

監修者: 

有田和徳