何が特発性脳内出血のトリガーになるのか:オランダにおけるケース・クロスオーバー研究

公開日:

2022年5月27日  

Trigger Factors for Spontaneous Intracerebral Hemorrhage: A Case-Crossover Study

Author:

van Etten ES  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Leiden University Medical Center, Leiden, the Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:34911344]

ジャーナル名:Stroke.
発行年月:2022 May
巻数:53(5)
開始ページ:1692

【背景】

何が特発性脳出血のトリガーとなるのか.オランダ・ライデン大学など3大学のチームは2013年から6年余の期間に治療した1,101例の脳内出血患者のうち,発症早期に会話が可能な149例(平均64歳,男性66%)を対象にインタビューを行った.出血部位は脳葉45%,深部40%,小脳13%などであった.既往症は高血圧60%,高コレステロール30%,糖尿病15%などで,20%が抗凝固薬を服用していた.質問項目は発症前1時間以内の行動,環境変化,情動変化(カフェイン,喫煙,急な気温変化,咳などのバルサルバ行為,激しい運動,性行為など),発症前1~6時間の飲酒,24時間以内の風邪様症状か発熱であった.

【結論】

ケース・クロスオーバー法で,脳内出血の相対リスク(RR)を算出した.
発症前1時間以内のカフェイン摂取,重量物(>25 kg)の挙上,軽度の頭部外傷,性行為,排便時のいきみ,激しい運動が脳内出血全体の有意のリスク増加因子であった(RR2.5~37.6).24時間以内の風邪様症状か発熱も有意のリスク増加因子であった.
発症前1時間以内のバルサルバ行為は深部型脳出血の有意のリスク因子であった(RR3.5).発症前1時間以内のカフェイン摂取は深部と脳葉型脳出血の有意のリスク因子であった(RR2.5,2.8).
これらのリスク因子で一番人口寄与割合(PAF)が高かったのはコーヒーで,34%であった.

【評価】

本研究では,1時間以内のコーヒー(カフェイン)摂取,軽度の頭部打撲,性行為,2つのバルサルバ行為(排便時いきみと重量物の挙上),激しい運動,24時間以内の風邪様症状か発熱が脳出血のトリガーとなるリスク因子であることを明らかにした.これらの因子の多くは血圧上昇のリスク因子でもある.カフェイン(コーヒー)摂取は脳動脈瘤破裂のトリガー因子であることも知られている(RR=1.7[CI=1.2~2.4],文献1).また,カフェインは血圧を上昇させるとともに,コーヒー摂取者では抗炎症作用によって凝固第8因子が低下していることが知られている(文献2).風邪様症状や発熱を訴える患者では炎症による内皮障害,凝固能異常,血栓形成傾向が脳内出血のトリガーとなっている可能性がある.また,SARS-CoV-2感染患者では,脳梗塞のリスクが高くなることは良く知られているが,脳内出血との相関を指摘する報告も増えている(文献3).
高血圧が特発性脳内出血の最も重要な背景因子であることは良く知られているが,著者らは,出血直前の上記リスク因子への曝露が,短期間の血圧上昇をもたらし,脳出血巣形成にいたるカスケードの最初のステップになるものと想定している.
なお,本研究では年齢,性,慢性疾患など交絡因子の影響は,普段の行動(発症前1年間における曝露回数)と比較するケース・クロスオーバー法を用いているので,排除出来ていると考えて良い.
一方,本研究の問題点としては,想定されたリスク因子への直近の曝露の有無は患者へのインタビューによって判断されているので,当然,会話が不可能であったり失語症を示す重症患者は排除されている.また,データ取得がインタビューへの回答に基づいているため,recall biasや事実の隠避による不正確さが含まれる可能性がある.
本研究の結果をどのように公衆衛生や医療に反映させるべきか見当はつかないが,少なくとも高血圧患者ではコーヒーの飲み過ぎや便秘は避けた方が良いのかも知れない.しかし,コーヒーに関しては,一日3杯までの摂取は脳卒中を含めた心血管疾患による死亡リスクを減少させるとの最近の報告もあり(文献4),簡単にはやめられそうにない.

執筆者: 

有田和徳