慢性硬膜下血腫に対するNBCA+5%デキストロース液プッシュ法を用いた中硬膜動脈塞栓術

公開日:

2022年5月30日  

Middle Meningeal Artery Embolization for Chronic Subdural Hematoma Using N-Butyl Cyanoacrylate With D5W Push Technique

Author:

Majidi S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York, New York, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:35225245]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2022 May
巻数:90(5)
開始ページ:533

【背景】

慢性硬膜下血腫の多くは穿頭洗浄術あるいは穿頭ドレナージでコントロール出来るが,再発率は約10~33%と高い.最近,特に再発性の慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈(MMA)塞栓術が有望な治療法として注目されつつある(文献1,2,3).塞栓材料としては,従来の報告ではPVA顆粒を用いたものが多く,液体塞栓材料としてはOnyxの使用が報告されている(文献4).本稿は,マウントサイナイ医科大学のチームによるn-BCAを用いた塞栓術の報告である.対象は再発性慢性硬膜下血腫61例(平均62.5歳).22例(36%)は両側性で,30例(49%)は開頭手術11例を含む血腫除去術も受けた.

【結論】

2.1Frマイクロカテーテルを選択的にMMAの前枝と後枝に挿入し,希釈したn-BCAを注入すると同時に,MMA起始部に置いた5Frのカテーテルから5%デキストロース液(D5W)を60 mL注入した.6例(10%)では,MMAの蛇行のためにマイクロカテーテルをMMA前枝あるいは後枝の末梢に誘導出来ず,安全なnBCA注入ができないので,前枝/後枝の近位部をコイルで塞栓した.全例で,MMA前枝ならびに後枝の完全閉塞が達成出来た.治療後3~6ヵ月のCTでは,再発は3例(5%)のみに認められた.1例で治療後数時間の意識の変容と構音障害が認められたが,その他の患者では脳神経症状や虚血症状の出現はなかった.

【評価】

慢性硬膜下血腫に対するMMA塞栓術の材料としては従来PVA顆粒を用いたものが多かったが,最近はOnyxやn-BCAといった液体塞栓材料も用いられるようになっている.これらの液体塞栓材料の利点としては,第1にターゲットとした血管の恒久的閉塞が可能なことが挙げられる.第2には,塞栓材料がX線不透過性であるため,塞栓作業中に塞栓物質の到達範囲や拡がりをコントロール出来,このことによって,危険な吻合血管への塞栓物質の迷入を防止出来る.第3に圧力をかけながら注入すれば,塞栓物質をより末梢まで到達させることが出来る.
本研究では,頭・頚部血管領域で安全性と有効性が確立しているn-BCAを用いている.MMAの末梢まで塞栓するためにエチオドールによるn-BCAの希釈率を20%以下とし,さらに,n-BCA注入中にMMA起始部に置いた5Frの中間径カテーテルから大量(60 mL)の5%デキストロース液(D5W)をフラッシュすることによって圧力をかけながら,同時にn-BCAをさらに希釈して,より末梢分枝へのn-BCAの到達を可能としている.この手技は,既に硬膜動静脈瘻や頭頚部腫瘍で用いられている(文献5,6).本研究シリーズでは,この手技によって,n-BCAは84%の症例で硬膜下の血腫被膜に到達し,55%で正中(大脳鎌),26%で反対側頭蓋硬膜に到達していた.
一方,中硬膜動脈塞栓術には頭蓋内血管の塞栓性合併症や危険な側副路の閉塞(眼動脈との交通枝など)等,重篤な副作用の発生が憂慮される.本シリーズでは,一過性神経症状を呈した1例を除いて,血栓塞栓症や脳神経症状などの有害事象は起こっていない.これはやはり,大量(60 mL)の5%デキストロース液注入によってn-BCAのMMA近位側への逆流が防止されていたことを反映しているものと思われる.彼らはこの方法を“sugar rush”法と呼んでいるようである.“sugar rush”は砂糖を多く含む食物を摂取した後に発生する短時間のエネルギーの増加,興奮状態をさすスラングである.
今後慢性硬膜下血腫に対するMMA塞栓における至適な塞栓材料の検討,すなわちPVA顆粒,Onyx,そしてこのn-BCAの安全性と有効性の比較が必要である.
慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術を初めて報告したのは香川県立中央病院のMandaiで,2000年のことである(文献7).それ以降,日本以外ではあまり関心の対象ではなかったが,最近,世界では急速に注目を集めており,多数のケースシリーズやメタアナリシスが発表されているが,その過半は2020年以降である.
さらに現在,米国でRCT(目標50症例)と大規模前向き登録研究(目標600症例)が進行している(文献8,9).いずれも症例登録は終了しており,まもなく,その結果が発表されるはずである.注目したい.

<コメント>
脳血管内手術における中硬膜動脈の閉塞は慢性硬膜下血腫のみならず,脳腫瘍栄養血管塞栓,硬膜動静脈瘻,急性硬膜外血腫など幅広い疾患に対して実施されている.手技はn-BCAなどの液体塞栓物質の他に,Embosphere,コイルなどを用いた方法など様々である.いわゆるdangerous anastomosisに注意すれば比較的安全に実施が可能であり,再発難治例に対して広く行われているものと思われる.どの塞栓物質を使うのが良いか? 決定的なエビデンスはないが,血腫被膜の血管が十分に血栓化することが大事であり,個人的には塞栓粒子ではなくn-BCAなどの液体塞栓物質を末梢まで流して血栓化を促す手法が理想的であると考える.D5Wテクニックはn-BCAを用いる腫瘍などの塞栓術においてもよく使う手法である.
近年になって慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術の有効性を検証する臨床試験が行われている背景として,DOACをはじめとした抗凝固剤内服患者や透析患者数の増加に伴い,慢性硬膜下血腫の再発難治例が増えている可能性が考えられる.
(広島大学脳神経外科 堀江信貴)

執筆者: 

有田和徳

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