三叉神経痛の手術において,三叉神経根を貫いている血管をどうすべきか:連続58例の解析

公開日:

2022年5月30日  

Treatment Strategies for Different Types of Intraneural Offending Vessels in Microvascular Decompression Surgery for Trigeminal Neuralgia: An Analytic Report of 58 Cases

Author:

Shen Z  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Shanghai Tenth People's Hospital of Tongji University, Shanghai, China

⇒ PubMedで読む[PMID:35175236]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2022 May
巻数:90(5)
開始ページ:562

【背景】

三叉神経痛に対する減圧手術(MVD)において,血管(オフェンダー)が三叉神経根を貫いている場合,一般に充分な除圧は困難である.このようなケースにどのように対処すべきであろうか.上海市第十人民医院のチームは2015年以降5年間で実施した三叉神経痛に対するMVD連続302例を後方視的に解析した.58例(19.2%)で,手術中に,動脈あるいは静脈が三叉神経根内に存在することが判明した.これらの三叉神経内血管は術前MRIでは診断できなかった.58例のうち9例は動脈で,49例は静脈であった.

【結論】

動脈例の9例では他に圧迫動脈はなかったので,動脈を末梢側に移動して,その両側でテフロン繊維塊を神経線維との間に挿入した.動脈が三叉神経運動枝と感覚枝の間にある場合は,テフロン繊維塊は主として感覚枝との間に置いた.
静脈例のうち9例では動脈性圧迫が全く無かったので,静脈を凝固切断した.
静脈例のうち29例では明かな動脈性圧迫が認められたので,圧迫動脈を移動して,静脈は温存した.
静脈例のうち11例では動脈性圧迫が疑われたので,その動脈を移動して,静脈は6例で凝固切断し,5例ではテフロン繊維塊を静脈と神経線維との間に挿入した.
術後全例で疼痛は消失して,5例(8.6%)で再発した.

【評価】

三叉神経痛に対するMVDにおいて稀に遭遇する,三叉神経を貫くように走行,あるいは三叉神経根内を併走する動脈や静脈をどのように扱うべきかという課題は,この手術を専門とする脳外科医にとっては切実である(文献1,2,3).著者らは,最近5年間で経験した58例を基に,この問題を検討している.
それによれば,三叉神経内血管が動脈の場合は,動脈周囲の神経周膜を充分に切離して,出来るだけREZから移動し,この動脈の両側と三叉神経の間にテフロン繊維塊を挿入(shredded Teflon wrapping interposition)した.彼らはこの方法を“hot dog decompression”と呼んでいる.三叉神経内血管が静脈の場合は3種類の方法を用いた.すなわち,①良く観察して,間違いなく動脈性の圧迫があった場合は,これを徐圧し,三叉神経内静脈は放置した.②動脈性の圧迫が疑われた場合はこれを徐圧したのち,三叉神経内静脈は“hot dog decompression”するか,凝固切断した.③よく観察しても,動脈性の圧迫がなかった場合は,三叉神経内静脈は凝固切断した,というものである.その結果,平均3.5年間の疼痛消失率は91.4%で,一次的な顔面の知覚低下が4例(6.9%)のみで認められたという.
すばらしい成績ではあるが,58例のうち,間違いなく三叉神経内血管が三叉神経痛の原因であったのは18例(動脈9例,静脈9例)のみで,他の40例は他の動脈による圧迫が明らかであったか,他の動脈による圧迫が疑われた症例であったということになる.1.5T以上のMRIであれば,このような責任動脈は術前MRIで描出出来るはずであり,そのような場合は責任動脈の徐圧が手術の目標になり,手術中に三叉神経内血管を発見したとしても放置するのが原則と思われる.
また,著者らは,術前MRIでは,三叉神経内血管の診断は出来なかったと述べているが,最近の高分解のMRIやCTのデータを基にした3次元再構成画像であれば,ある程度その存在を推測することは可能なはずである.その上でなお,三叉神経内血管しか圧迫要因が認められない三叉神経痛症例に対して,MVDを実施すべきかはよく検討すべきであろう.
更に気になるのは,58例中15例で行われた静脈の凝固切断である.三叉神経内の動脈の“hot dog decompression”で痛みが取れるのであれば,大きなリスクを伴う静脈の凝固切断ではなく(文献4,5,6),静脈の“hot dog decompression”でも良かったのではないかと思われる.

執筆者: 

有田和徳