組織学的膠芽腫と分子学的膠芽腫(IDHワイルドタイプの星細胞腫)の臨床的違い

公開日:

2022年5月30日  

The survival outcomes of molecular glioblastoma IDH-wildtype: a multicenter study

Author:

Ramos-Fresnedo A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Mayo Clinic, Jacksonville, FL, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:35175545]

ジャーナル名:J Neurooncol.
発行年月:2022 Mar
巻数:157(1)
開始ページ:177

【背景】

WHO2021脳腫瘍分類では,組織診断が低悪性度びまん性星細胞腫(従来のグレード2,3)でも,IDHワイルドタイプでかつTERTプロモーター変異,EGFR遺伝子増幅,+7/–10コピー数変化のどれか一つが有れば,分子学的膠芽腫(molGBM,グレード4)と定義している.Mayoクリニックの3施設のチームは自験の231例をもとに,組織学的に診断された膠芽腫histGBMとの対比を行い,molGBMの臨床像を求めた.166例(71.9%)がhistGBM,65例(39.16%)がmolGBMであった.2群間で性・年齢・人種・KPSに差は無かったが,molGBMの方が側脳室壁への接触は少なかった(p=.002).

【結論】

PFSはmolGBMがhistGBMに比較して有意に長かった(中央値:13 vs 8ヵ月,p=.0237).OSもやや長かったが有意ではなかった(中央値:26 vs 21ヵ月,p=.435).
molGBM群内での多変量解析では,MRIで造影される腫瘍はPFSが有意に短く(HR 6.224,p<.001),MGMTプロモーターメチル化を有するものではPFSが有意に長かった(HR 0.026,p=.007).

【評価】

歴史的にはWHOグレード4の膠芽腫GBMは,壊死巣を取り囲む腫瘍細胞核の偽柵状配列と微小血管増殖によって組織学的に診断されてきた(組織学的膠芽腫:histGBM).しかし,組織像学的にはより良性の腫瘍像(星細胞腫グレード2,3)を示しながら,組織学的膠芽腫と同様にアグレッシブな増殖や転移を示し予後不良の腫瘍が観察されてきた.これらの腫瘍は,IDH変異を伴わず,かつTERTプロモーター変異,EGFR遺伝子増幅,染色体+7/–10コピー変化のどれか一つを伴っている.cIMPACT-NOWは,これらの腫瘍をmolecular GBM(molGBM)と称することを提唱した(文献1).これを受けて,WHO2021脳腫瘍の分類ではIDHワイルドタイプGBMと称することになった(文献2).従来の報告では,OSに関してはmolGBMはhistGBMと大差がないことが示唆されているが(文献3,4),PFSに関する検討は少なかった.
本稿はMayoクリニックの3病院(フロリダ,ミネソタ,アリゾナ)で治療した231例を解析して,molGBMの臨床像を求めたものである.再発例や放射線化学療法を受けなかった症例は除外されている.
その結果,histGBMと比較して,molGBMのOSには有意差はなかったが,PFSは有意に長いことを明らかにした.また,molGBM症例の多変量解析では,MRIでの腫瘍の造影はPFSの短縮因子で,MGMTプロモーターメチル化はPFSの延長因子であった.この他の因子に関しては,全摘出(GTR)はp=.133で有意のPFS延長因子ではなく,腫瘍の側脳室壁への接触もp=.096で有意のPFS短縮因子ではなかった.MRIで造影される腫瘍のPFSが短いというのは,造影されない腫瘍に比較して再発を捉えやすいという事だけなのかも知れないので,注意して読む必要性がある.また,GTRがPFS延長因子にならなかったのも予想外であるが(文献5,6),対象のmolGBM65例中でGTR症例が11例と少なかったことが影響している可能性がある.
本シリーズのmolGBM65例ではTERTプロモーター変異,EGFR遺伝子増幅,染色体+7/–10コピー変化はそれぞれ,57例,20例,12例で認められた.histGBM166例ではTERTプロモーター変異,EGFR遺伝子増幅,染色体+7/–10コピー変化はそれぞれ,130例,61例,38例で認められた.従来,GBMの中ではTERTプロモーター変異を有するものがOSが短いとの報告があるが(文献7,8),本シリーズでは全症例,histGBM,molGBM,いずれの群でも3種類の分子学的異常とOS,PFSに相関はなかった.
molGBMの臨床像をより明瞭にするためには,今後前向き登録研究を通じて,より大きな患者集団を対象とした解析が必要である.

<コメント>
本研究は,molGBMはhistGBMと比べてPFSが長かったが,OSには有意差がなかったことを示している.また,molGBMにおけるTERTプロモーター変異,EGFR遺伝子増幅,染色体+7/–10については,これらの予後への影響が同程度であることを示している.これはTERTプロモーター変異が予後不良であるとするいくつかの過去の報告と異なる点である.本論文のabstractでは643例のhistGBMで検討したように記載されているが,実際にはhistGBMとしては166例しか検討していない.このあたりは誠実ではないデータの提示である.また,molGBMとhistGBMのPFSとOSについての比較では摘出度別の解析がないことや,molGBMとされた症例におけるbiopsyの多さ(49.23%)を考慮すると,この解析結果は注意して解釈する必要がある.さらに,molGBMの画像所見については,MRIにおける造影効果が58.46%で,典型的なGBMの画像所見は20%であったと記載されている.摘出度の定義は非造影と造影病変では異なり,PDの定義(RANO criteria)でも非造影と造影では異なっているはずであるが,これについてはどのように判定したかが言及されていない.さらに,この論文ではmolGBMと診断された症例の実際の組織学的gradeが記載されていない.化学放射線療法を行った症例に限定していることから,おそらくgrade 3に絞られたデータであると想定される.
本研究は,なぜmolGBMでbiopsyにとどまる症例が多かったのか,molGBMの発生部位はどこであったのか,再発部位/再発形式,放射線量やTMZの投与状況など重要な臨床データが欠落しており,molGBMの臨床像の包括的な把握にはほど遠い.さらなる検討が待たれる.(広島大学脳神経外科 山崎文之)

執筆者: 

有田和徳

関連文献