一期的な脳梁全離断後の離断症候群からの回復過程は早く,年齢による差は少ない:東北大学における41例

公開日:

2022年6月7日  

最終更新日:

2022年6月8日

Age-Related Recovery of Daily Living Activity After 1-Stage Complete Corpus Callosotomy: A Retrospective Analysis of 41 Cases

Author:

Ukishiro K  et al.

Affiliation:

Department of Epileptology, Tohoku University Graduate School of Medicine, Sendai, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:35129138]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2022 May
巻数:90(5)
開始ページ:547

【背景】

脳梁離断は難治性てんかんに対する緩和的ではあるが効果的な手術療法であり,けいれん寛解効果は部分離断より一期的全離断が高い.しかし,脳梁離断は一過性の無言,無関心,下肢筋力低下などの(脳梁)離断症候群をもたらすことがある.この離断症候群からの回復は年長の患者では低年齢の患者より遅延することが報告されている.東北大学のUkishiroらは,過去10年間に実施した一期的脳梁全離断の41例(女性22例)を対象に,5つのADLカテゴリーが手術後何日目で再開したかを観察し,術後離断症候群からの回復に与える年齢の影響を検討した.年齢中央値は7歳(13ヵ月~34歳)で,15歳未満29例,15歳以上12例であった.

【結論】

会話は平均2.2 ± 1.3(SD)日(range,1~5日)に再開し,問いに応えて自分の名前を言えるようになったのは5.5 ± 8.6(2~33)日で,経口摂取は1.6 ± 1.7(1~11)日に再開し,経静脈栄養は6.0 ± 3.0(2~16)日で中止し,離床は5.8 ± 3.4(2~10)日で可能になった.低年齢の患者では年長患者に比較して,離床が有意に早かったが(p=.0223),他の4つのカテゴリーでは年齢による回復の差は認められなかった.脳梁全離断によるけいれんの完全消失は5例,80%以上減少は11例,50~80%減少は5例,50%以下の減少は20例であった.

【評価】

脳梁離断は難治性てんかんに対する有効な手術療法であるが,一期的な脳梁全離断では,脳梁離断症候群発生のリスクが高いとの危惧から部分離断(前方離断)が勧められることがある(文献1,2).また,成人では脳梁離断症候群の持続期間が長いとの報告もある(文献2,3,4).
しかし,一期的な脳梁全離断にしても部分離断にしても,脳梁離断症候群の出現頻度は,報告によって0~1.8%から100%と幅広く,またその期間も数日から50日と幅広い.本論文の著者らによれば,脳梁離断症候群に関するこうしたばらつきは,評価法の違いによる可能性が高いという.過去の研究で用いられていた神経心理学的な検査は,既に精神心理学的障害が多い脳梁離断の対象者では評価が困難な場合もあるし,家族による評価では客観性が乏しいかもしれない.
本研究は,転倒発作,乳児スパズム,両側同期性放電を呈した41例の難治性てんかん患者を対象にした後方視研究である.評価の対象を,出来るか出来ないかで明瞭に判定出来るADL上の5つのカテゴリーのみとし,回復までの日数を解析することで,客観性を高めている.本研究で採用されたADLカテゴリーは会話,問いかけに対して自分の名前が言える,経口摂取,経静脈栄養の中止,離床(歩行か車椅子での移動)の5個であるが,これは離断症候群の主症状である一過性の無言,無関心,下肢筋力低下を反映するものとして選択されている.
脳梁全離断の結果,対象患者の半分以上で50~100%のけいれん減少が得られた.一方,手術後の会話は平均2日(1~5日)で回復し,その他の4個のカテゴリーでも,回復までの平均値は6日以内であった.1例(24歳男性)のみで、手術後数ヵ月間、他人の手徴候(Alien hand syndrome)が認められた.年齢と回復までの期間の関係に関しては,離床は年齢が低いほど早いという相関が認められたが,決定係数r2は0.199であり高くはない.他の4個のカテゴリーでは年齢と回復までの期間に相関はなかった.
最近の報告でも,一期的脳梁全離断と部分離断で離断症候群の発生に差がないとするものがある(文献6,7).本研究は,一期的脳梁全離断と部分離断を比較したものではないが,一期的脳梁全離断症例においても全例で術後早期に離断症状が改善し,ADL回復が期待出来ることを示している.
部分離断に比較して一期的脳梁全離断が良好なけいれんコントロールを招くことは既に報告されており(文献3,4,5),今回の結果を併せて考えると,年齢にかかわらず適応があれば一期的脳梁全離断を積極的に考慮すべきであると,著者らは結論している.
今後,長期的なQOLや神経心理学的な面でも,一期的脳梁全離断と部分離断に差はないのか,また年齢による影響はないのかが明らかになることを期待したい.

<コメント>
本研究は,5つのADLカテゴリーの回復過程を評価することを通して,脳梁全離断後の患者でも年齢にかかわらず早期にADL回復が得られるという結果を示している.離断症候群への懸念から全離断を控えていたてんかん外科医にとって朗報となる報告と考えられる.
一方,術式選択(全離断か部分離断か)は,年齢の他に,術前の患者の認知機能や精神機能に左右されることも多い.QOL自体をあまり考慮せずに発作抑制効果のみを追及しうる患者もいるが,高次脳機能が保たれており全離断は回避したい患者もいる.この境界が不明瞭であることがてんかん外科医にとって悩ましい点である.本研究でもhigh IQ(>40),high ADLの患者は脳梁全離断の対象から除外され,前方3/4離断が実施されている.今後は,特にhigh ADLの年長患者に対する脳梁全離断がADLやQOLにどのような影響を及ぼすかの検討に期待したい.(広島大学脳神経外科 広島大学病院てんかんセンター 飯田幸治)

執筆者: 

有田和徳