公開日:
2022年6月8日最終更新日:
2022年6月12日Incidence of Ischemic Stroke in Patients With Asymptomatic Severe Carotid Stenosis Without Surgical Intervention
Author:
Chang RW et al.Affiliation:
The Permanente Medical Group, Kaiser Permanente Northern California, South San Francisco, CA, USAジャーナル名: | JAMA. |
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発行年月: | 2022 May |
巻数: | 327(20) |
開始ページ: | 1974 |
【背景】
過去のいくつかのRCTによって,無症候性内頚動脈狭窄のうちでセレクトされた症例に対する手術(CEA,CAS)が発達してきた(文献1,2).しかし,薬物療法もまた進化しており,無症候性内頚動脈狭窄の現段階でのリスクの検証が必要となってきている.本稿は米国の450万人に保険・医療を提供しているKPNCヘルス・システムによる後方視的研究である.対象は過去に当該血管の手術を受けておらず,過去6ヵ月間に同側の神経学的イベントがない,NASCET狭窄率70~99%の高度で無症候性の内頚動脈狭窄を有する3,737症例(4,230動脈).平均追跡期間は4.1年.2,314例は追跡期間中に狭窄動脈に対する手術を受けなかった.
【結論】
3,737症例全体の追跡期間(手術を受けた症例では手術までの期間)の狭窄動脈と同側の虚血性脳卒中の発生は133件で,発生率0.9%/年であった.カプラン・マイヤー法では5年間の虚血性脳卒中の発生率は4.7%(CI:3.9~5.7%)であった.虚血性脳卒中が発生した133件のうち,35例(27.1%)が手術を受け,86例(66.7%)が1年以内に死亡した.多変量解析では虚血性脳卒中の発生と相関したのは,高年齢(p=.03),ハイグレード狭窄(p=.03),同側の虚血性脳卒中の既往(p<.001)であった.スタチン使用は虚血性脳卒中発生リスクの低減と相関した(p=.003).
【評価】
本研究は,米国で21のメディカルセンターと病院群を介して約450万人に保険・医療を提供しているKaiser Permanente Northern California(KPNC)の医療費償還請求などの電子医療記録に基づいた臨床研究である.本研究では2008年から2012年に診断されたNASCET狭窄率70~99%の無症候性内頚動脈狭窄を有する3,737症例(4,230動脈)を2019年まで追跡しており,過去最大でまた最新のコホートを対象に,実臨床に即したデータを提供している.その結果,70~99%の狭窄率を示す無症候性内頚動脈狭窄患者における虚血性脳卒中の発生率は0.9%/年で,5年間(カプラン・マイヤー法)で4.7%であることを明らかにしている.
2009年に発表されたAbbott ALらの既報11論文のシステマティック・レビューによれば(文献3),50%以上の無症候性内頚動脈狭窄症例の虚血性脳卒中の発生率は0.6~3.3%で,多くは1.2%以上である.本稿で示されている70%以上の無症候性内頚動脈狭窄症例の0.9%/年という虚血性脳卒中発生率は,これらの歴史的対照に比較してかなり低い.本研究では,この患者群における虚血性脳卒中発生のリスク因子は高齢,ハイグレード狭窄(PSV>350cm/sec以上かNASCET狭窄度90~99%),同側の虚血性脳卒中の既往であり,一方,スタチンの使用は虚血性脳卒中発生リスクの低減と相関することも明らかにしている.この観察研究の結果は,今後の無症候性内頚動脈狭窄症例に対する管理・治療上の意思決定や臨床研究に有用な基本データを提供している.また,先のAbbott ALのレビューでも経年的に無症候性内頚動脈狭窄患者の脳梗塞発生率は低下しているが(文献3),これが何によるのかは興味深い.スタチンの使用,高血圧のコントロール,抗血小板剤の使用,生活習慣の改善等が複合的に影響しているのかも知れない.
なお,本研究は電子医療記録データに基づいた後方視的研究であるため,プラークの性状や,側副血行,米国ではOTC薬であるアスピリンの使用の有無は検討対象となっていないことには注意する必要性がある.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Endarterectomy for asymptomatic carotid artery stenosis: Executive Committee for the Asymptomatic Carotid Atherosclerosis Study. JAMA 273(18):1421-1428, 1995.
- 2) Halliday A, et al. Asymptomatic Carotid Surgery Trial (ACST) Collaborative Group. 10-Year stroke prevention after successful carotid endarterectomy for asymptomatic stenosis (ACST-1): a multicentre randomised trial. Lancet. 376(9746):1074-1084, 2010.
- 3) Abbott AL. Medical (nonsurgical) intervention alone is now best for prevention of stroke associated with asymptomatic severe carotid stenosis: results of a systematic review and analysis. Stroke. 40(10): e573-e583, 2009.
参考サマリー
- 1) ポストCREST時代におけるCEAとCASの米国での動向
- 2) 頚動脈ステントの周術期合併症の頻度は低い:CREST-2レジストリー(C2R)
- 3) 内頸動脈系タンデム病変には,抗血栓薬+頚動脈ステント留置術+血栓回収がベスト
- 4) スタンプ圧40 mmHg以下は内シャントの適応か:頸動脈内膜剥離術における選択
- 5) 臨床現場でのCASとCEAの比較:米国の手術症例前向き登録データベース(NSQIP)の84,191例から
- 6) 症候性内頸動脈狭窄に対する発症後24時間以内の早期血行再建治療(CEAあるいはCAS)は有効か:PIRATES試験
- 7) 頸動脈ステント後の中等度以上再狭窄の頻度はCEAより高いが,脳梗塞再発リスクは高まらない:ICSS長期フォローより
- 8) CASにおける塞栓防止デバイス(EPD)の使用は本当に有効なのか:米国外科症例前向き登録データ(ACS-NSQIP)から
- 9) その脳主幹動脈閉塞は塞栓性か動脈硬化性か?:血栓回収の前にABC2Dスコアで予測出来る