救急隊は急性脳主幹動脈閉塞患者を遠くの血栓回収センターに送るべきか,最寄りの一次脳卒中センターに送るべきか:スペイン・カタルーニア州の非都市部におけるランダム化比較試験(RACECAT)

公開日:

2022年6月8日  

最終更新日:

2022年6月9日

Effect of Direct Transportation to Thrombectomy-Capable Center vs Local Stroke Center on Neurological Outcomes in Patients With Suspected Large-Vessel Occlusion Stroke in Nonurban Areas: The RACECAT Randomized Clinical Trial

Author:

Pérez de la Ossa N  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Stroke Unit, Hospital Universitari Germans Trias i Pujol, Badalona, Spain

⇒ PubMedで読む[PMID:35510397]

ジャーナル名:JAMA.
発行年月:2022 May
巻数:327(18)
開始ページ:1782

【背景】

近隣に血栓回収が出来る包括的脳卒中センターがない地域の救急隊は,脳主幹動脈閉塞患者を遠方の血栓回収センターに搬送すべきなのか,あるいは最寄りの一次脳卒中センターに搬送すべきなのか.本稿はスペイン・カタルーニア州の非都市部における多施設クラスター・ランダム化試験である.この地域から都市部の血栓回収センターまでの搬送時間は20~180分である.救急隊は急性脳主幹動脈閉塞と判断された1,401例の患者を,ランダム割り当てに従って,688例は血栓回収センターに,713例は最寄りの一次脳卒中センターに搬送した.発症-着院時間の中央値は血栓回収センター搬送群140分,一次脳卒中センター搬送群91分であった.

【結論】

一次アウトカムである虚血性脳卒中患者における90日目のmRSは,血栓回収センター搬送群(482例),一次脳卒中センター搬送群(467例)とも中央値3(IQR:2~5)で,差はなかった(調整共通オッズ比1.03;CI,0.82~1.29).
虚血性脳卒中患者においては,血栓回収センター搬送群では,一次脳卒中センター搬送群に比較して,tPA投与率は有意に低く(47.5 vs 60.4%;オッズ比0.59),血栓回収施行率は有意に高かった(48.8 vs 39.4%;オッズ比1.46).90日目までの死亡は2群間で差はなかった(27.3 vs 27.2%;調整ハザード比0.97).

【評価】

以前は,救急隊は急性期脳卒中患者を最寄りの一次脳卒中センターに搬送していた.しかし,急性脳主幹動脈閉塞の患者では血栓回収治療が経静脈的血栓溶解(tPA)単独よりも良好な治療効果をもたらし,その効果は時間依存性であることが明らかになってきた(文献1).既報の非ランダム化試験では,血栓回収センターに直接搬入された患者では,地域の一次脳卒中センターから転送された患者よりも転帰が良好なことが示されている(文献2,3).このため,いくつかの国や地域では,急性脳主幹動脈閉塞患者を地域の一次脳卒中センターに搬送するよりも,搬送時間が30分から60分以内であれば,血栓回収が出来るセンターへ送るように搬送システムを再編成している(文献4,5,6).
しかし,この搬送システムではtPA投与開始時間が遅れたり,tPA投与の制限時間を超えてしまう患者が出てくることも起こり得る.逆に,最寄りの一次脳卒中センターに搬送すれば,tPA投与開始は早いが,血栓回収センターへの転送に時間が費やされることになる.大きなジレンマである.
本研究は,人口751万人を擁するスペイン・カタルーニア州のうち,域内に血栓回収センターがない人口385万人の非都市部におけるクラスター・ランダム化比較試験である.救急隊は,RACEスケール・スコアが5-9点で急性脳主幹動脈閉塞と想定された患者1,401例を,12時間毎にランダムに割り付けられたスケジュールに従って,都市部の血栓回収センター(688例)か域内最寄りの一次脳卒中センター(713例)に搬送した.血栓回収センターへの搬送は発症から7時間以内に当該病院への着院が可能な患者とした.実際には,発症から着院までの時間中央値は血栓回収センター搬送群140分,一次脳卒中センター搬送群91分であった.また,一次脳卒中センターに到着した虚血性脳卒中患者467例のうち64.6%が血栓回収センターに転送され,これらの患者では一次脳卒中センターへの到着から血栓回収センターに向けて出発するまでの時間は中央値78分であった.この結果,発症から血栓回収手技の開始(そけい部穿刺)までの時間中央値は,血栓回収センター搬送群214分,一次脳卒中センター搬送群270分となった.
この結果,最寄りの一次脳卒中センターへの搬送に比較して,時間をかけて都市部の血栓回収センターに搬送することによって,虚血性脳卒中患者における血栓回収施行率は有意に高くなったが,tPA投与率は有意に低く,全患者の90日目のmRSには差がなかった.
この研究は,血栓回収センターがない地域を対象とした初めてのランダム化比較試験である.その結果は,急性脳主幹動脈閉塞患者を,地域の一次脳卒中センターをバイパスして,遠方の血栓回収センターに送るという最近提案されている指針(文献4,5,6)に対する反証となっている.従来の報告が,非ランダム化試験であったことがこの違いの背景となっているのかも知れない.また,本研究は,血栓回収を受けた患者のみを対象とするものではなく,救急隊員が急性脳主幹動脈閉塞と推定した患者全体を対象としている.すなわち,救急隊員が今、現場で見ている患者をどこに搬送すべきかという,より実践的な問いに答えるための試験デザインとなっていることも,この違いの原因かも知れない.
実際に,本試験の血栓回収センター搬送群では医療施設への搬入の遅れとtPA投与非実施割合の増加が認められており,これらの不利益が,血栓回収率の増加という利益を相殺し,mRSの改善につながらなかった可能性がある.
急性脳主幹動脈閉塞患者をどこに運ぶべきかという問題は,搬送距離/時間の問題のみならず,一次脳卒中センター,血栓回収センター双方の脳卒中即応体制と大きく関わっているし,救急隊の覚知・現着時間も関わっているので,その答えは単純ではない.地域医療圏毎に様々な因子、様々なシナリオを総合して,予め細かく決めておくべきであろう.

<コメント>
本試験は,血栓除去術が実施可能な施設がない地方において,救急隊の現場で登録された患者を対象に,搬送方法を比較した最初の無作為化試験である.より実臨床に即した試験であり,地方での脳主幹動脈閉塞(LVO)疑い患者をどこに運ぶべきか,すなわちmother ship(M群)対drip and ship(DS群)の問題に直接取り組んだものである.
まずは,救急隊(EMS),一次脳卒中センター(tPA可能な施設),血栓回収センターを巻き込んだこれだけ大規模な試験を実施したことに敬意を表したい.しかしながら,結果として,M群とDS群の予後に差はなかった.発症してから病院搬入までの時間(DS群91分,M群140分),搬送施設でのLVO診断(DS群43.1%,M群69.1%)に差があり,tPA投与や血栓回収の実施率は2群間に有意差があったが,それでも搬送された虚血性脳卒中患者の治療転帰には差がなかった.脳出血例を含むランダマイズされた患者全体においても治療転帰には差がなかった.
血栓回収による予後改善の力は大きく,より早期に脳主幹動脈を再開通させることで予後がさらに向上することは自明であるが,現実的には全てのLVO疑い症例を血栓回収センターに搬送することは不可能である.
本邦においては,血栓回収センターに準じた一次脳卒中センター・コア施設約230医療機関が認定されたが,mother ship対drip and shipの優劣については未だ結論は出ていない.しかしながら血栓回収可能な医師や血栓回収症例の集約の必要性を考えると,今回のように,病院前スケール(RACEスコア)を確実に取れる救急隊,必要な症例に対してtPA投与を投与しながらLVO疑い患者を迅速に転院搬送出来る一次脳卒中センター(本研究では一次脳卒中センターでの滞在時間の中央値ははわずか78分である),それらの連携をマネジメントできる血栓回収センターの配置が理想と思われる.
ただし,この試験ではヘリの活用はほぼなされておらず,血栓回収までの時間を短縮できるドクターヘリ、あるいは血栓回収チームのヘリ空輸が普及すれば,治療転帰をさらに改善させられる可能性がある(文献7).(鹿児島市立病院脳神経外科 西牟田洋介)

執筆者: 

有田和徳