空飛ぶ血栓回収チームは役に立つのか:南東バイエルン地区での前向きコントロール研究

公開日:

2022年6月21日  

最終更新日:

2022年6月27日

Association Between Use of a Flying Intervention Team vs Patient Interhospital Transfer and Time to Endovascular Thrombectomy Among Patients With Acute Ischemic Stroke in Nonurban Germany

Author:

Hubert GJ  et al.

Affiliation:

TEMPiS telestroke center, Department of Neurology, München Klinik gGmbH, Munich, Germany, Munich, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:35510389]

ジャーナル名:JAMA.
発行年月:2022 May
巻数:327(18)
開始ページ:1795

【背景】

地域内に血栓回収が出来る施設が存在しない非都市部では,急性脳主幹動脈閉塞患者を遠方の血栓回収施設に送ったり,一次脳卒中センターから血栓回収施設に転送しなければならず,血栓回収の開始が遅れる可能性が高い.本稿は,ドイツの南東バイエルン地域において実施された,ミュンヘンに本拠を置く血栓回収チームを13ヵ所の一次脳卒中センターへヘリ空輸するケースと,患者を一次脳卒中センターから4ヵ所の血栓回収施設に救急車で転送するケースを比較した前向きコントロール研究である.血栓回収術適応の患者を受け入れた一次脳卒中センターは,週毎のローテーションに従って,空輸チームを受け入れるか,血栓回収施設への患者搬送を行った.

【結論】

対象患者は157例(年齢中央値75歳)で,72例が血栓回収空輸チームを受け入れ,85例が病院間搬送に割り当てられた.血栓回収はそれぞれ60例(83%)と57例(67%)実施された.血栓回収の必要性を判断した時から鼠径部穿刺までの時間中央値は58分と148分で有意差があった(差90分,p<.001).血栓回収実施例の発症3ヵ月後のmRS中央値(IQR)は3(2~6)と3(2~5)で差はなく,調整共通オッズ比は1.91(p=.07)であった.
血栓回収チームの一次脳卒中センターへの空輸は,血栓回収までの時間の短縮という観点からは考慮すべき選択肢であるが,長期予後についてはさらなる検討が必要である.

【評価】

血栓回収センターから離れた場所で発生した急性脳主幹動脈閉塞患者に対して,早急な血栓回収治療を開始するための方策として,最も一般的に行われているのは,一次脳卒中センターに搬入した患者を,tPAを投与しながら救急車両で血栓回収センターに転送する方法(drip and ship)である.しかし,この方法は,tPA開始,移送の準備,移送,血栓回収センターでの再評価に時間が費やされ,脳卒中発生から鼠径部穿刺までの時間は239~350分を要する(文献1).移動式ストロークユニット(MSU)は患者を収容後に車内に搭載されたCTスキャンで基本的評価を済ませた上でtPA投与を開始しながら搬送する方法で,血栓回収までの時間短縮に力を発揮しているが(文献2,3),遠隔地ではMSUといえども時間がかかりすぎる.
また,ドクターヘリでの患者搬送という方法もある.本研究で実施された方法は患者を搬送するのではなく,血栓回収チームを一次脳卒中センターに空輸する “flying intervention team” という方法である(文献4,5).この方法では,血栓回収チームが到着するまでの間に,一次脳卒中センターでは血管撮影室の準備,全身麻酔導入,ドレーピング,穿刺部の準備が完了していることになる.この研究の背景にあるのは,CT,MRI,DSA装置が設置され,血栓回収のハードウェアはあるが,常勤の血栓回収実施者がいない病院が多いという世界共通の悩みである.
本研究の結果,一次脳卒中センターへの血栓回収チームの空輸は,患者の一次脳卒中センターから血栓回収可能施設への転送(drip and ship)と比較して,血栓回収治療開始までの時間を大幅に短縮し,その差は90分[95% CI,75~103]であった.本研究は,2018年2月に開始されたが,中間解析で,血栓回収チームの空輸の方が,血栓回収までの時間が有意に短いことがわかったので,2019年10月に新規登録が中止されている.しかしながら,血栓回収症例における機能予後を見てみると,3ヵ月後mRSの調整共通オッズ比は1.91(p=.07)で,血栓回収チーム空輸群が数値上は良かったが,統計学的には差はなかった.
一方,事後解析では,血栓回収治療を受けなかった患者も含めた3ヵ月後mRS中央値(IQR)は3[1~6]と3[2~5],調整共通オッズ比は1.91[95% CI,1.05~3.50]であり,血栓回収チームの空輸の方が有意に良かった(p=.04).年齢,性,NIHSS,閉塞部位を含めた3ヵ月後mRSに関わる因子の多変量解析では,血栓回収施行例での調整共通オッズ比は2.27(p=.03),全症例での調整共通オッズ比は2.21(p=.01)であり,血栓回収チームの空輸は有意の改善因子であった.
日本では血栓回収センターに準じた一次脳卒中センター・コア施設約230医療機関が認定されたが,血栓回収専門医が常時スタンバイ出来ている訳ではない.一方,数万人規模の背景人口を有する地域の拠点病院の大部分にはMRI,DSA装置が設置され,スペシャリストさえいれば血栓回収が実施出来る.僻地や離島が多い日本でこそ,この血栓回収チーム空輸の有効性が検証されるべきであろう.本研究ではわずかに有意差に至らなかった血栓回収実施例の機能予後(3ヵ月後のmRS)についても引き続いて検討されるべきであろう.もちろん,ヘリコプターの運用にかかる費用効果の評価も必要である.

<コメント>
本邦からは,首都圏の基幹施設の血栓回収医チームが,郊外の血栓回収医のいない一次脳卒中センターに,地下鉄に乗車して血栓回収に行くという報告がある(文献6).本論文と同様に治療開始までの時間短縮が得られている.地下鉄の定時制を利用した日本ならではのシステムと思われる.
また,血栓回収空輸チームの場合もそうだが,血栓回収医チームが到着までに,鼠径部ルートの確保までを一次脳卒中センターの医師が完了しておけば,再開通までの時間はさらに短縮出来る可能性がある.(県立広島病院 脳神経外科・脳血管内治療科 岐浦禎展)

執筆者: 

有田和徳