頭蓋骨由来の間葉系幹細胞は脊髄損傷モデルラットの機能回復をより促進する

公開日:

2022年7月8日  

最終更新日:

2022年7月9日

Transplantation of rat cranial bone-derived mesenchymal stem cells promotes functional recovery in rats with spinal cord injury

Author:

Maeda Y  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Biomedical and Health Sciences, Hiroshima University, Hiroshima, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:34754046]

ジャーナル名:Sci Rep.
発行年月:2021 Nov
巻数:11(1)
開始ページ:21907

【背景】

脊髄損傷に対する間葉系幹細胞を利用した治療は現在注目を集めている(文献1).間葉系幹細胞は骨髄,脂肪組織などから樹立されるが,その元となる組織によって,細胞の性質が異なっていることが解ってきた.広島大学脳外科などのチームはラット頭蓋骨から樹立した間葉系幹細胞(rcMSC)が脳梗塞モデルにおいて豊富な神経栄養因子を分泌することを報告した(文献2,3).今回このrcMSCが,重錘落下法で作成したラット脊髄損傷モデル(Th10レベル)に与える影響を,彼らが開発した頭蓋骨菲薄化技術(文献4)を用いた経頭蓋運動誘発電位(tcMEP)を含む複数の手法で評価した.

【結論】

ラット33匹に脊髄損傷モデルを作成し,24時間後に,11匹毎にrcMSC,rbMSC(大腿骨/頚骨から分離樹立した骨髄由来間葉系幹細胞),リン酸緩衝液を尾静脈から注入した.rcMSC群では,BBBスケールと傾斜板試験スコアで評価した後肢運動機能の回復が,他の2群より有意に良好であった.rcMSC群では電気生理学的機能(tcMEP)の回復も良好で,局所の空洞形成も少なかった.rcMSC群では炎症誘発性サイトカイン(IL-1b,TNFa)のmRNA発現が抑制されていた.さらにマウス神経芽細胞腫株を用いた炎症/酸化ストレスモデルでも,rcMSC条件培地では細胞生存率が高かった.

【評価】

本研究の結果を受けて著者らは,rcMSC(頭蓋骨から樹立した間葉系幹細胞)が脊髄損傷に対する新規治療の候補となる可能性を示唆している.
本研究のポイントは,rcMSCがrbMSC(大腿骨/頚骨から分離樹立した骨髄由来間葉系幹細胞)よりも,抗炎症作用,抗細胞死作用,神経保護作用,機能回復促進作用が強いことを示したことである.頭蓋骨は神経堤由来であり,中胚葉由来の身体他部位の骨とは発生原基が異なっていることが,この違いの背景にあると思われる.
彼らは,rcMSCの大きな特徴として,他部位由来のMSCよりも神経栄養因子の発現が高いという性質を持ち(文献2,5),この特徴が,急性期細胞移植において,抗炎症作用,抗細胞死作用,神経保護作用の差となり,最終的な機能回復の差に寄与したと述べている."
現在,この研究チームは重症脳梗塞に対する開頭外減圧手術の際に除去した頭蓋骨から自家頭蓋骨由来間葉系幹細胞を作成し,脳梗塞患者に静脈内投与し,機能回復を促進するという治療法の樹立に向けた第I/IIa相臨床試験を開始している(文献6).その結果に注目したい.

<著者コメント>
近年,間葉系幹細胞は再生医療の重要なソースとして注目されている.間葉系幹細胞はその由来により生物学的性質が異なる事が知られている.我々は神経堤由来間葉系幹細胞に注目し,脳神経外科の手術で得られる頭蓋骨片(神経堤由来)より間葉系幹細胞の樹立を行うことに成功した.この頭蓋骨由来間葉系幹細胞については,既に非臨床試験で,従来の骨髄由来間葉系幹細胞に比べて脳梗塞や脊髄損傷への移植効果が優れていることを確認した.現在は脳梗塞患者に対して,主要評価項目を安全性とする探索的研究(Phase I/IIa)である再生医療臨床研究「開頭外減圧手術を必要とする中等症以上の脳梗塞患者に対する自家頭蓋骨由来間葉系幹細胞の静脈内投与試験」を行っている.近年,脳梗塞患者に対して再生治療が国内外で盛んに実施されているが,頭蓋骨は我々脳外科医が最も触れ得る臓器であり,採取可能な組織量も多い.これは,間葉系幹細胞による細胞療法に向けた製剤化を目指すうえでも大きな強みとなる.今後,脳梗塞・脊髄損傷に対する頭蓋骨由来間葉系幹細胞の臨床応用を目指しながら,他の中枢神経疾患での治療効果も探索していくつもりである.
(広島大学脳神経外科 前田雄洋)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

光原崇文