側頭部くも膜のう胞を有する小児の50%で認知機能低下が認められる:パリ大学における連続100症例の前向き研究,パート1

公開日:

2022年7月8日  

最終更新日:

2022年7月9日

Temporosylvian arachnoid cysts in children. Part 1: Cognitive profile of children with a temporal cyst and impact of the cyst in daily life. A prospective study in 100 consecutive children

Author:

Cuny M  et al.

Affiliation:

Service de Neurochirurgie, Hôpital universitaire Necker, Paris, France

⇒ PubMedで読む[PMID:35594888]

ジャーナル名:J Neurosurg Pediatr.
発行年月:2022 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

パリ大学小児脳神経外科などのチームは2010年以降に診断した小児の側頭部くも膜のう胞の連続100例を解析して,その臨床像や外科治療の意義を検討した.本稿は臨床像と自然史に関する記述である.78%が男児.平均年齢9.7歳(3~16).受診理由は慢性頭痛42%,軽症頭部外傷20例,のう胞破裂15例などであった.FSIQ平均値は105と正常であったが,高度に不均等であり(59~150),29%は少なくとも1つのウェクスラー・インデックスが正常以下であった.言語障害は31%,言語性記憶障害は28%,視覚性記憶障害は23%,遂行機能障害は21%で認められた.50%は学習困難のため,リハビリを必要とした.

【結論】

実行機能評価(BRIEF)では22%が有意の遂行機能障害を示した.34%で不安や社交障害に対する心理療法を必要とし,その必要性は右側病変,年長児で高かった.全体の約5割を占める脳側に凸型(convex)ののう胞はそれ以外の形状に比較して,すべてのウェクスラー・インデックス,FSIQ,会話,言語記憶,注意,視空間作業能力において成績が悪かった.また, convex形状ののう胞患者では日常生活上の遂行と行為の障害が強かった.のう胞形状によるこうした脳機能障害の差は,Galassi分類やのう胞が左右どちらの脳に存在するかとは独立していた.
診断時これらの機能障害がない小児では4年追跡後も無症状であった.

【評価】

成人では,側頭部くも膜のう胞は健常者でも頻繁に発見され,その多くは中頭蓋窩先端部あるいはシルビウス裂内に存在し,かつ無症状であり,正常変異(破格)とも言うべき病態であると信じられている.しかし,本稿によれば,側頭部くも膜のう胞を有する小児患者の50%に何らかの神経心理学的な障害が認められ,QOLに長期的な影響を及ぼしていたという.特に,のう胞が右にある小児で,より障害が多くリハビリを要した.数多くの成人のくも膜のう胞を見てきた者としては少し驚くべき結果である.
従来の常識との違いは,本研究が小児例を対象とした前向き登録であり,4割が慢性頭痛(占拠性効果の可能性)を呈し,全例で神経心理学的検査や行動評価を行ったことによるものかも知れない.
本研究で特筆すべきは,のう胞の形状(convexか非convexか)が認知機能と有意に相関したことで,この相関はのう胞とシルビウス裂との交通性や大きさを基にしたGalassi分類(文献1)とは関係が無かったという.偶然に発見された小児の側頭部くも膜のう胞でも,のう胞が隣接する脳側に突出したconvexの形状であれば,脳への圧迫が強く(文献2),その結果認知機能障害を伴っていることを考慮して,詳細な神経心理学的な検査を行う必要性がありそうだ.
このように約半数の患児で何らかの認知機能障害を呈する側頭部くも膜のう胞に対する手術療法の意義と適応については,本論文パート2で示される.
一方,FSIQを見ると,平均値は105と正常で,70以下の軽度の遅れを示したのは4%であり,一般人口の2.2%と差はなかった.興味深いのはFSIQ130以上のギフテッド・チャイルドに相当する患児は11%もおり,一般人口2.2%より有意に高頻度であった(p=.01)ことである.出生後早期に起こる反対側脳による(過剰)代償を反映しているのかも知れない.ちなみに,本シリーズでは側頭部くも膜のう胞が左にある小児では20%が左効きであったという.これも出生後早期の局所脳機能障害に対する反対脳での代償を反映しているのかも知れない.

<コメント>
成人期に外来で診察する側頭部くも膜嚢胞症例はそのほとんどが無症候である.本稿は小児期の側頭部くも膜のう胞症例に対して前向きに網羅的かつ詳細な神経心理学的な評価を行った研究として評価できる.脳槽との交通を重視したGalassiの分類より,convexという形状の方が神経心理学な機能障害に関連するとの結果も興味深い.
しかし側頭部くも膜のう胞は偶発的に成人期に指摘されることも多く,この100例が疾患全体を代表しているかどうかは不詳である.(鹿児島市立病院脳神経外科 大吉達樹)

執筆者: 

有田和徳