小児の側頭部くも膜のう胞に対する手術療法の意義:パリ大学における連続100症例の前向き研究,パート2

公開日:

2022年7月8日  

最終更新日:

2022年7月9日

Temporosylvian arachnoid cysts in children. Part 2: Postoperative neuropsychological and clinical improvement

Author:

Cuny M  et al.

Affiliation:

Service de Neurochirurgie, Hôpital universitaire Necker, Paris, France

⇒ PubMedで読む[PMID:35594879]

ジャーナル名:J Neurosurg Pediatr.
発行年月:2022 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

パリ大学小児脳神経外科などのチームは2010年以降に診断した小児の側頭部くも膜のう胞の連続100例を解析して,その臨床像,予後,外科治療の意義を検討した.平均年齢は9.7歳(3~16歳).本稿は,手術療法の長期効果に関する記述である.
34例(男児:30人,88%)が,頭蓋内圧亢進(74%)あるいは神経心理学的症状(学習障害65%,認知障害56%,気分・行動障害47%)を理由に手術を受けた.手術症例のうち85%が脳側に凸の形状のconvex型のう胞であった.85%は顕微鏡下で開窓術(脳底槽との交通路形成)を受けた.のう胞体積が50%以上縮小したのは59%であった.

【結論】

患者は術前と術後平均14ヵ月後に同一の神経心理学的評価と実行機能評価を受けた.76%の患者では何らかの項目で1SD以上の改善が認められた.FSIQ,言語指標,知覚性非言語指標で手術前に比較して有意の改善を示した.47%の患児では少なくとも1つのIQインデクスで,26%は少なくとも2つのIQインデクスで15点以上の改善を示した.手術4年後の親への聞き取りでは,不安,攻撃性,社交障害,日常生活実行障害の改善が示された.6歳以上の25人の認知機能を23人の健常対照と比較したところ,患者群では手術前に多くの領域で低かったが,手術後に改善が得られたため,言語流暢性,視覚記憶,作業記憶の領域では両群間の差は消失した.

【評価】

著者らは本研究のパート1において,側頭部くも膜のう胞を有する小児患者の50%に何らかの神経心理学的な障害が認められ,QOLに長期的な影響を及ぼしていることを明らかにした(文献1).本稿は,側頭部くも膜のう胞に対する手術療法の意義を示したものである.手術の効果は,WPPSI-III,WISC-IV,BEM,BRI,NEPSY,CMS,TMT-A,TMT-B,CDI,CBCL,BRIEFなどの文字通りの包括的・網羅的な神経心理学的検査を手術前と手術後に行い,かつ健常児との比較を行う事で評価した.対象は頭蓋内圧亢進(74%)あるいは神経心理学的症状を呈した患者で,その多くが脳側に凸の形状のconvex型ののう胞であった.76%の患者では何らかの項目で改善を示し,4年後の日常生活実行機能も改善が認められた.

本稿は,小児期に,くも膜のう胞による脳の局所圧迫によって神経心理学的な障害があっても,開窓術で脳への圧迫が改善すれば,脳機能や日常生活実行機能上の多くの指標が,年齢に関わりなく改善することを丁寧な追跡と膨大なテスト・バッテリーを用いて明らかにしている.小児の脳機能の可塑性を明瞭に示していることになる.こうした効果は,のう胞のサイズの縮小が明瞭でなくとも,MRI上脳底槽とのう胞の交通性が維持されていれば発揮される 事も重要である(文献2,3).
著者らの手術適応判断のアルゴリズムによれば(文献1),頭蓋内圧亢進の有無と関係なく,認知機能評価や行動評価で不均等な遅れや障害がある場合,特にconvex型ののう胞では,手術適応が考慮されるべきであるという.逆にこれらの評価で全般的で均等な遅れがある場合,特に非convex型ののう胞では手術を控えて経過観察すべきであろうと述べている.
明快な指針であり,今後,多施設前向き試験で検証されるべきである.

<コメント>
側頭部くも膜嚢胞の手術適応は定まったものはない.頭蓋内圧亢進症例に手術を行うことに異論はないが,神経心理学的検査異常で適応を決めることは検査バッテリー間の違いもあり,一定の見解が得られていなかった.著者らが言うようにMRI上Convex型のう胞であり,さまざまな神経心理学的テスト・バッテリーで異常を認める症例を手術適応とするかどうかは前向き多施設研究で検討すべきであろう.(鹿児島市立病院脳神経外科 大吉達樹)

執筆者: 

有田和徳