IDH野生型膠芽腫におけるEGFR遺伝子変化が予後に及ぼす影響:遺伝子パネルを用いた138例の検討

公開日:

2022年7月23日  

最終更新日:

2022年7月24日

Distribution and favorable prognostic implication of genomic EGFR alterations in IDH-wildtype glioblastoma

Author:

Higa N  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Kagoshima University, Kagoshima, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:35695190]

ジャーナル名:Cancer Med.
発行年月:2022 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

EGFR遺伝子は,膠芽腫において最も一般的に増幅・過剰発現しているチロシンキナーゼ受容体である.EGFR遺伝子増幅は,膠芽腫の約40-50%に,EGFR遺伝子変異は約20%に認められる(文献1,2,3).WHO2021年脳腫瘍分類では,EGFR遺伝子増幅は,膠芽腫診断の重要なバイオマーカーとなっている(文献4).それにも関わらず,EGFR遺伝子変化が予後に及ぼす影響については議論の余地がある.鹿児島大学のHigaらは,自験の138例のIDH野生型膠芽腫を,独自の遺伝子パネルを用いて次世代シーケンサーで解析し(文献5),EGFR遺伝子変化が予後に及ぼす影響とEGFR遺伝子バリアントの解析を行った.

【結論】

膠芽腫の10%にEGFR遺伝子変異が,23.9%にEGFR遺伝子増幅が認められた.さらに,EGFR遺伝子変異をもつ症例の25%はEGFR遺伝子のキナーゼドメインに変異を認めた.また,肺癌でよく認められ,EGFR阻害剤であるオシメルチニブの治療標的であるEGFR T790M変異を持つ症例を2例認めた.
全生存期間はEGFR遺伝子変化群29.5ヵ月,非変化群18.7ヵ月で,EGFR遺伝子変化は有意の予後良好因子であった(p=.035).EGFR遺伝子変化群は,非変化群よりもKPSスコアが高く(p=.014),Ki-67スコアが低値であった(p=.005).
EGFRvIIIは,EGFR遺伝子増幅型膠芽腫の21%に検出された.その中の1例では,初発時に検出されたEGFRvIIIが,再発時にはEGFR Δe 2-14バリアントに変化していた.

【評価】

膠芽腫ではEGFR遺伝子変化が高率に認められるが,これらのEGFR遺伝子変化の予後に及ぼす影響については見解の一致がなかった.本研究で,HigaらはEGFR遺伝子変化が有意の予後良好のバイオマーカーであることを発見した.また,欧米の報告と比較して,日本人ではEGFR遺伝子変化の割合が低いことを明らかにした(自験の138例で29%,メモリアルスローンケタリング癌センターMSKCC症例208例で46%).
残念ながら,現在までのところ膠芽腫に対するEGFR阻害剤の有効性は報告されていない.この一因として,既存のEGFR阻害剤はEGFR遺伝子のチロシンキナーゼを標的としており,膠芽腫ではチロシンキナーゼに変異を持つことが少ないので,効果が限定的なことが考えられる.一方,本研究対象のうち,EGFR遺伝子変異を持つ症例では,EGFR遺伝子のキナーゼドメインに変異をもつ症例がMSKCC症例よりも多いことがわかった(25 vs 2.1%,p<.001).今後,そのような症例を選んで既存のEGFR阻害剤を用いれば,高い効果が得られる可能性は残されている.
これまで,膠芽腫にはいくつかのEGFR遺伝子バリアントが報告されており,中でもEGFRvIIIはEGFR増幅を有する膠芽腫の50〜60%で認められている(文献6,7).しかしEGFRvIIIを標的とした免疫療法3相試験は失敗に終っている(文8).この原因の一つとしては,初発時に認められたEGFRvIIIが再発時には消失する症例が存在することが挙げられている(文献6,7).本研究では,EGFRvIII以外にエクソン6-7(Δe 6-7)およびエクソン2-14(Δe 2-14)の欠失を有する膠芽腫症例が同定された.その中の1例では,初発時に検出されたEGFRvIIIが,再発時にはEGFR Δe 2-14バリアントに変化していた.再発時にEGFRvIIIが消失するのではなく,他のバリアントに変化している可能性を示唆している.
本論文は膠芽腫におけるEGFR遺伝子変化の人種差,EGFR遺伝子変化が予後に及ぼす影響,EGFR遺伝子バリアントについての重要な報告である.今後,個別化医療を実現するためにも,膠芽腫1例1例の遺伝子プロファイルを正確に把握することが重要になってきていると思われる.

<コメント>
EGFR遺伝子異常の膠芽腫診療への応用を探る研究は少なからず行われてきた.IDH野生型のびまん性星細胞腫において,EGFR遺伝子異常が臨床的に膠芽腫と診断すべき一群を性格づけるマーカーとなることは2021年版のWHO脳腫瘍分類でも示されているとおりである.本研究ではEGFR異常のある症例の方が長い全生存期間(OS)を示した点で注目されるが,無病生存期間(DFS)との関係は興味がもたれるところである.また,EGFR遺伝子変異と遺伝子増幅とを区別して検証することも望まれる.前者はEGFRキナーゼの活性亢進を示唆するのに対し,後者は単なるコピー数増加でしかなく,生物学的な意義は異なると思われる.おそらく本論文の中でも試みられているように複数の遺伝子異常の相関を本邦のより多くの症例で詳細に検討することが必要ではないか.
なお著者らがEGFR異常のtransformationと呼んでいる症例については,腫瘍進行に伴うclonal evolutionの中で説明できることであり,腫瘍のheterogeneityとして説明できる点には留意すべきである.EGFR異常は膠芽腫においては根本的な遺伝子異常ではなく,より重要な遺伝子異常を探求することが必要であるが,本論文はその端緒となる情報を提供している.
(藤田医科大学脳神経外科 廣瀬 雄一)

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

比嘉那優大