機械的血栓回収術単独はブリッジ治療に対して非劣性を示さず:オセアニア・中国等におけるDIRECT-SAFE試験の295例

公開日:

2022年7月23日  

最終更新日:

2022年7月24日

Endovascular thrombectomy versus standard bridging thrombolytic with endovascular thrombectomy within 4·5 h of stroke onset: an open-label, blinded-endpoint, randomised non-inferiority trial

Author:

Mitchell PJ  et al.

Affiliation:

Department of Radiology, The Royal Melbourne Hospital, University of Melbourne, VIC, Australia

⇒ PubMedで読む[PMID:35810757]

ジャーナル名:Lancet.
発行年月:2022 Jul
巻数:400(10346)
開始ページ:116

【背景】

現在,急性期脳主幹動脈閉塞に対しては,血栓溶解剤静注に続いて機械的血栓回収治療(MT)を行うブリッジ治療が勧められている.血栓溶解剤静注をスキップしたMT単独治療がブリッジ治療に対して非劣性であるか否かを検討した過去の4つのRCTは結果の一致を見ていない.本試験はオーストラリア,ニュージーランド,中国,ベトナムの25のセンターで2018年から3年間で実施された非劣性検定のRCTである.148例がMT単独,147例がブリッジ治療に割り当てられた.血栓溶解剤としてはアルテプラーゼが83%,テネクテプラーゼが17%で用いられた.MTには主としてステントリトリーバーが用いられた.

【結論】

一次エンドポイントを発症90日目のmRS≤2(機能的自立),非劣性マージンを–0.1と事前設定した.
一次エンドポイントはMT単独群で80例(55%),ブリッジ治療群で89例(61%)で到達した.リスク差はITT解析では–0.051(両側95% CI:–0.160~0.059)で,パー・プロトコール解析では–0.062(両側95% CI:–0.173~0.049)であり,いずれも信頼区間の下限値が非劣性マージンの-0.1を下回っており,MT単独の非劣性は証明出来なかった.症候性頭蓋内出血は両群とも1%で発生し,全死亡はMT群15%,ブリッジ治療群16%で有意差はなかった.

【評価】

世界中で急性期脳主幹動脈閉塞に対する機械的血栓回収治療(MT)が普及しつつある.現在のガイドライン上は,血栓溶解剤静注に追加して,発症6時間以内に機械的血栓回収を開始することが勧められている(文献1,2).MistryらのメタアナリシスでもtPA+MT(ブリッジ治療)がMT単独に比較して良好な結果と相関していることが報告されている(文献3).
しかし,MTに先立つ経静脈的血栓溶解療法は,治療の早期開始とクロットの溶解によって機械的血栓回収の成功率を高める可能性がある一方,クロットの断片化と末梢血管への遊走を引き起こし,血栓回収を困難にする可能性もある.また,血栓溶解剤静注は再開通後の症候性頭蓋内出血のリスクを高める可能性がある.2016年のGoyalらのメタアナリシスによれば,tPA投与の有無で血栓回収治療の結果に差はなかった(文献4).これまで報告されている標準的なtPA+MT治療とMT単独治療を比較した4つのRCTのうち,中国での2つの試験(DIRECT-MTとDEVT)はMT単独治療の非劣性を証明しているが(文献5,6),日本からのSKIP試験とヨーロッパのMR CLEAN-NO IVは非劣性を証明出来てはいない(文献7,8).
本研究(DIRECT-SAFE試験)はオーストラリア,ニュージーランド,中国,ベトナムの25のセンターで実施されたRCTである.血栓溶解剤としてはアルテプラーゼが83%,テネクテプラーゼが17%(オーストラリアかニュージーランドのみ)で使用されている.一次エンドポイントと定めた機能予後良好(mRS≤2すなわち機能的自立)の割合はMT単独群では55%と,tPA+MT群の61%より数値上で低かった.さらにリスク差の信頼区間の下限値(-0.16)が事前設定のマージン(-0.1)を下回ったためMT単独の非劣性を証明出来なかった.一方,再開通率(mTICI:2b–3)は,両群とも89%と高く,症候性頭蓋内出血の頻度(両群とも1%)と全死亡の頻度(15 vs 16%)にも差はなかった.
本論文と同時に発表されたヨーロッパのRCT(SWIFT DIRECT試験)でも,MT単独がtPA+MTに対して非劣性であることを証明出来てはいない.ヨーロッパのSWIFT DIRECT試験の対象が前方循環でほぼICAとM1に限定されていた(ICA閉塞29%,M1閉塞66%,M2閉塞5%)のに対して,本稿のDIRECT-SAFE試験では後方循環も含んだ全ての脳主幹動脈急性閉塞を対象としており,実際はICA閉塞22%,M1閉塞56%,M2閉塞15%,BA閉塞7%となっていた.
本研究結果を受けて,著者らは,ブリッジ治療が急性期脳主幹動脈閉塞に対する標準的な治療としてガイドラインに組み込まれるべきであると結論している.一方,患者が発症から遅れて搬入されたり,比較的大きな梗塞巣を有する場合や,血栓回収が即座に実施出来る施設に直接搬入された場合など,特別なケースではMT単独治療を考慮することが出来ると述べている.
本稿のDIRECT-SAFE試験で興味深いのは,対象症例全体の46%を占めたアジア人136例を対象とした事前設定サブグループ解析では,一次エンドポイントはMT単独67例で34%,ブリッジ治療69例(全例がアルテプラーゼを使用)で57%であり,ブリッジ治療群で有意に高かった(調整オッズ比0.42,95% CI:0.21–0.86,p=.017)ことである.このことは,何を意味しているのか.両群間で再開率に差はなかった(MT群:79% vs ブリッジ治療群:81%)とのことであるので,より末梢の微小血栓に対するアルテプラーゼの効果がアジア人で高いのかも知れない.
本論文が掲載されたLANCET同一号(400 [10346])にはヨーロッパからのRCTの結果も報告されている(文献9).それを含めれば,MT単独 vs ブリッジ治療に関しては過去に6つのRCTが出版されたことになる.今後それらのメタアナリシスが登場するであろうが,人種による効果の違いも再確認されるかも知れない.

<コメント>
急性期脳主幹動脈閉塞に対してはtPA静注療法と血管内血栓回収術の併用(bridge治療)がよいのか,血栓回収術単独療法がよいのか?今回のDIRECT-SAFE試験,SWIFT-DIRECT試験では血栓回収術単独療法の非劣性を示すことができず,これらを合わせた6つのRCTでは中国からの2試験のみ非劣性を示している(DIRECT-MT,DEVT).さて冠動脈閉塞に対するPCIでは再開通後にno reflow現象が生じることが知られている.これは閉塞部は再開通したにも関わらず心筋レベルでの微小循環障害が生じていることが原因とされており,末梢血管のスパズム,浮腫,微小塞栓に起因している.このような再開通療法においては閉塞部だけでなく末梢レベルも含めた “再灌流治療の質” が問われるようになっており,脳領域においても同様の現象が起きている可能性が考えられる.その点ではtPA静注療法による末梢循環の改善には期待したいところである.そもそも血栓回収療法自体の再開通率が上がっている現在では,マクロな視点ではなく画像に反映されない微小脳循環に目を向けるべきかもしれない.これは脳神経外科医にとっては脳血管攣縮に対する治療に通じるものがあると考える.(広島大学脳神経外科 堀江信貴)

執筆者: 

有田和徳

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