選択的海馬扁桃体切除と術中脳波所見に基づいた前部側頭葉切除の比較:順天堂大学から

公開日:

2022年9月22日  

最終更新日:

2022年9月21日

Can intraoperative electrocorticography be used to minimize the extent of resection in patients with temporal lobe epilepsy associated with hippocampal sclerosis?

Author:

Sugano H  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Juntendo University, Tokyo, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:34861650]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2021 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

側頭葉てんかんの手術において,術中脳波所見に基づいて,切除を追加して行けば,てんかん消失率は高まることが予想されるが,摘出範囲が拡がると,術後の記憶機能障害が強くなる可能性がある.順天堂大学のSuganoらは,術中脳波による切除範囲の決定が術後記憶機能とてんかんコントロールに与える影響を検討した.対象は,海馬硬化による側頭葉てんかんの82例.第一段階として,全例で経シルビウス裂的な選択的海馬扁桃体切除が行われた(SA群40例).続いて脳表電極で側頭葉外側面から視覚的なてんかん性放電が認められた場合は,前部側頭葉切除を行った(ATL群42例).術後の記憶機能は中央値1年後に評価した.

【結論】

手術2年目のけいれんコントロールは,SA群ではATL群より悪かった(p=.045).手術後7年目のILAEクラス1はSA群63%,ATL群81%であった.カプラン・マイヤー解析では,SA群がATL群より早期にけいれんの再発を示した(p=.031).てんかん焦点の側方性,発症年齢,てんかん発作の頻度,両側性強直間代けいれんの有無,頭蓋内感染の既往,手術方法を対象としたCox回帰分析では,再発と有意に相関したのは,感染の既往と手術法(SA)であった.
二元配置分散分析(ANOVA)では,WMS-Rの各記憶カテゴリーにおいて,手術後の変化は,手術方法あるいは焦点の側方性に影響されなかった.

【評価】

側頭葉てんかんの手術において,てんかん焦点を余すこと無く摘出することは重要であるが,特に優位半球の前部側頭葉切除では術後の記憶機能障害が危惧される.しかし,摘出範囲を海馬扁桃体に限局することが,前部側頭葉切除に匹敵する良好なてんかんコントロールと記憶機能の温存をもたらすのかについては議論が続いている(文献1,2).
本稿の著者らは,海馬硬化を伴う側頭葉てんかんの手術において,てんかん焦点の切除が達成出来るのであれば,記憶機能温存の為に,切除範囲は最小限の方が良いであろうという前提に基づいて,彼らの手術戦略を設定した.
これは,経シルビウス裂アプローチで,まず選択的海馬扁桃体切除を行い,その後,術中の皮質脳波で,外側側頭葉からのてんかん性放電がなければ,そこで手術を終了し(SA群),もし,視覚的に外側側頭葉からのてんかん性放電があれば通常の前部側頭葉切除を行う(ATL群)という,二段階手術戦略,あるいは術中テイラーリングとも言うべき手術方法である.この手術戦略に基づいて側頭葉てんかんの手術を行った結果,SA群は40例,ATL群は42例となった.平均年齢はともに34.5歳で,側方性に関しては2群とも左が多かったが(26:14と22:20),2群間での差はなかった(p=.246).
その結果,術後てんかんコントロールはSA群で有意に悪かった(p=.045,Kruskal-Wallisテスト).既に,SAと比較してATLの方が,術後てんかんコントロールが良いことについては,いくつかの報告がなされている(文献1,3,4).これは海馬硬化による側頭葉てんかんの中には,海馬扁桃体を超えた広いてんかん性ネットワークを形成しているものがあることを示唆している.
本研究で,術中の皮質脳波で,外側側頭葉からのてんかん性放電が検出されないために,そこで手術を終了したSA群で,手術後のてんかんコントロールが悪かったという事実は,術中皮質脳波の視覚的評価では側頭葉内に潜むてんかん原性の全てを検出出来ない可能性を示唆している.
一方,手術後の記憶機能に関しては2群間で差がなかった.これまでにも,SAとATLで手術後の記憶機能の変化に差がないとの報告がある(文献5).本研究では,WMS-Rの各記憶カテゴリーにおいて,SAとATLともに手術後の悪化は認められず,むしろいくつかのカテゴリーでは有意に改善していた.本シリーズで,SA後に外側側頭葉からてんかん性放電が出現したためにATLが必要になった患者では,側頭葉内の広いてんかん性ネットワークによって術前から記憶機能が障害されていた可能性を示唆させる.言い換えれば,既に機能障害を受けている側頭葉を切除しても,術後に新規の記憶機能は起こりにくいことを示しているのかも知れない.
さて,この結果を受けて,著者らは,今後どのような手術戦略を採用するのであろうか.今後も術中脳波所見に基づいた手術戦略を採用するのであれば,著者らも示唆するように,その精度を高めるために,最近登場してきた高周波振動解析,位相振幅結合,エントロピーなどの脳波コンピュータ解析手法をオンサイトで利用することが必要かも知れない(文献6,7,8).

<著者コメント>
我々は術中脳波の所見を元に摘出範囲を決定する方針を採用してきた.我々のこのストラテジーが妥当なのかについて検証を行ったのが今回の研究になる.てんかん手術においてはてんかん焦点そのものとてんかん性ネットワークの関連を考えなくてはならない.この点を検証する最も適切な対象として海馬硬化症による側頭葉てんかんを選択した.結果は,てんかん性ネットワークは目視による定性的な術中脳波解析では検出できないというものであった.したがって,他の手法の検討が必要である.考えられる次の手法として,頭蓋内電極を留置しての脳波解析や術中脳波解析を定量的方法で行うことが挙げられる.我々は侵襲を軽減するためには後者が望ましいと考えている.本論文の追加解析として,術中脳波を高周波振動解析および位相振幅結合解析により行った研究の結果をSeizure誌(文献9)に報告した.結果は,術中脳波の高周波解析と位相振幅結合解析を行う事で外側側頭葉に拡がるてんかん性ネットワークを推定することが出来るというものである.是非,参照していただきたい.(順天堂大学脳神経外科 菅野秀宣)

執筆者: 

有田和徳

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