グリオーマ摘出手術後の隣接虚血は65%に発生する:そのリスク因子と臨床的意義

公開日:

2022年10月27日  

最終更新日:

2022年10月28日

Occurrence, Risk Factors, and Consequences of Postoperative Ischemia After Glioma Resection: A Retrospective Study

Author:

van der Boog ATJ  et al.

Affiliation:

Department of Neurology and Neurosurgery, UMC Utrecht Brain Center, Utrecht University, Utrecht, The Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:36135366]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2022 Sep
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

グリオーマの手術後に腫瘍に隣接する脳組織に梗塞巣が出現することがあり,その結果,日常生活動作(KPS)の低下をもたらすことがある.ユトレヒト大学脳外科などのチームは,2012年1月から2014年9月まで摘出手術を行ったWHOグレード2~4のびまん性グリオーマ(グレード2:15%,3:15%,4:70%)の139例(144手術)を対象に,その頻度,リスク因子,臨床的意義をまとめた.手術後72時間までのMRI上で認められた腫瘍に隣接する新規の拡散抑制領域をconfluent ischemia(隣接脳虚血)と定義した.

【結論】

隣接脳虚血は64.6%に発生した.多変量解析では,隣接脳虚血は島回への腫瘍局在と術中昇圧剤の使用が相関した(p=.042とp=.024).側頭葉への腫瘍局在は隣接脳虚血の不在と相関した(p=.01).新規の神経症状の出現あるいは神経症状の悪化は,退院時に30.6%,最初の外来フォローアップ時に20.9%の症例で認められた.隣接脳虚血の発生は,退院時と術後3ヵ月目の新規の神経症状出現と相関した(p=.013とp=.024).手術による隣接脳虚血は新規の神経症状出現と強く相関するので,特に島回に腫瘍が局在する症例や術中昇圧剤使用症例では注意が必要である.

【評価】

本稿は,グリオーマの手術後の隣接脳虚血の出現率は約65%で,新規の神経症状あるいは神経症状の悪化は,退院時で約30%であることを示しているが,この値は,従来の報告にほぼ一致しているとのことである(文献1~4).こうした事実は,グリオーマの手術にあたっての術前の「説明と同意」に,必ず含めておくべき重要情報であろう.
従来,この虚血性合併症のリスク因子としては,再発腫瘍,先行放射線照射,腫瘍の存在部位(弁蓋,島回,側頭葉),周術期循環動態,周術期水分バランスなどが報告されている(文献1,5).本稿では,多変量解析の結果,手術後の隣接脳虚血の発生は島回への腫瘍局在と術中の昇圧剤の使用と相関していた.島回は中大脳動脈の主要な分枝に隣接しているので,腫瘍摘出率を上げようとすれば,これらの血管の閉塞や潅流不全が起こり易いのは当然のことと思われる.周術期の低血圧は,本シリーズではリスク因子ではなかったが,昇圧剤の使用は多変量解析で有意のリスク因子であった.著者らは,この後方視的な解析では,術中低血圧(ベースライン血圧の70%以下)と判定されないような軽度の一次的な血圧低下が,既に潅流障害を受けているグリオーマ周囲の脳組織に梗塞をもたらすのに充分な虚血イベントとなり得ると推測している.また,昇圧剤が腫瘍周囲の小動脈のれん縮をもたらす可能性にも言及している.
本稿から,グリオーマの手術に携わる者が引き出すべき教訓としては,主要な動脈とその分枝に隣接するグリオーマではこれらの血管を損傷しないように細心の注意を払うことと術中低血圧や過剰な脱水を避けるという当然の配慮になろうか.

執筆者: 

有田和徳