鞍結節髄膜腫に対するアプローチは腫瘍の進展方向とは反対側からの前頭下アプローチが良い:連続74症例の結果

公開日:

2022年10月27日  

最終更新日:

2022年11月22日

Contralateral subfrontal approach for tuberculum sellae meningioma: techniques and clinical outcomes

Author:

Kim YJ  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Chonnam National University Research Institute of Medical Science, Hwasun, South Korea

⇒ PubMedで読む[PMID:35901684]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Jul
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

鞍結節髄膜腫に対しては,腫瘍が進展した側の前頭下アプローチによる摘出が行われることが多いが,腫瘍の手前に視神経,内頚動脈,前大脳動脈などの重要構造が位置するために,安全な摘出が困難な場合がある.韓国全南大学校脳外科は,2005年以降に反対側の前頭下アプローチで摘出術を行った鞍結節髄膜腫の連続74例(平均54.4歳,女性61.8%)を解析して,本アプローチの意義を検討した.平均腫瘍径は21.2(8~43)mmで,73例(99%)で腫瘍の視神経管内侵入が認められた.術前症状は,視機能障害61例(82%),頭痛5例(7%),めまい1例(1%)で,7例(9%)は無症状であった.

【結論】

アプローチサイドは右45例,左29例であった.腫瘍の肉眼的全摘出は70例(95%)で達成された.術前に視機能障害があった61例中41例(67%)で視機能が改善,13例(21%)で不変,7例(11%)では悪化した.術前に視機能障害がなかった症例では全例視機能は保たれた.8例(11%)では手術側(腫瘍進展が少ない側)の視機能の低下が認められた.手術死亡や髄液漏は認められなかった.
髄膜腫のWHOグレードはIが68例(92%),IIが6例(8%)であった.手術後のMRIによる追跡期間は63(2–185)ヵ月で,その間に4例(5%)が再発した.

【評価】

鞍結節髄膜腫に対しては,腫瘍が進展している側からの前頭下アプローチで摘出術が行われることが多い.しかし,この同側からのアプローチでは,腫瘍は,圧迫され既に脆弱となっている視神経,内頚動脈や前大脳動脈あるいはその分枝血管の下面に位置するため,これら重要構造への直接操作は避けられず,このため術後に思わぬ視力低下を招く可能性がある.また,充分な腫瘍摘出が達成出来ないこともある.これに対して,2012年以降,反対側の前頭下アプローチの有効性が17~36例の少数のシリーズで報告されている(文献1,2,3,4).腫瘍進展の反対側からのアプローチは,同側からのアプローチと比べて,視神経の内側下面に密着している腫瘍や視神経管内に侵入した腫瘍を直視しながら摘出が出来るという大きな利点を有している,また視神経管内に侵入した腫瘍部分であっても,視神経管を開放しなくても,falciform ligamentの切開だけで直視できる場合がある.
本稿の著者らは,過去15年間に74例の鞍結節髄膜に対して,反対側からの前頭下アプローチで摘出術を行ってきたが,その結果,全摘出率は95%であった.従来報告されている鞍結節髄膜の全摘出率は開頭手術でおよそ53%~96%,経蝶形骨洞手術でおよそ50%~95%とされているので,本稿のシリーズの摘出率は高い方であると言うべきであろう.また,従来報告されている腫瘍再発率は開頭手術でおよそ0%~33%,経蝶形骨洞手術でおよそ3%~18%とされているので,術後63ヵ月間での腫瘍再発率5%というのも低く抑えられている方であろう.本シリーズでは,術後の視機能が改善か不変の割合は91%と高く,これは過去に報告されている反対側前頭下アプローチのシリーズと同様であった(文献1,2,3,4).
問題は,このアプローチを用いると,アプローチサイド(健側)の視神経障害が11%に発生することで,腫瘍の進展側(患側)の視神経障害が強かった場合には,患者のADL・QOLにとっては大きな障害となり得る.したがって,このアプローチを用いる際には,健側の視神経を障害しないように頭位,術野の選択には細心の注意を払う必要がある.
本アプローチのメリット/デメリットに関しては,今後,同側からの前頭下アプローチや内視鏡下拡大経蝶形骨洞アプローチ(文献5,6,7,8)が実施された腫瘍の中から類似の大きさ,進展度,視機能障害を示す腫瘍を対照として抽出し,傾向スコアマッチングなどの手法でメタアナリシスが行われなければならない.

<コメント>
本論文の主要な論点は腫瘍進展の少ない側からの開頭によるアプローチでの鞍結節髄膜腫の手術成績と優位性である.その成績は,視機能改善・維持が91%,悪化9%,再発率5%であり,鞍結節髄膜腫の手術成績としては良好と判断できる結果である.多数例の中にはprefixed chiasmaや左右視神経管間距離が短い症例もあったはずなので,豊富な手術経験があってのこの成績であろう.同時に,著者らは本術式の最大の難点である侵入側の視神経損傷の回避についても,ポジショニングから,右利き術者の右手での道具の動かし方のポイントなどを詳細に述べており,著者らの技術の高さがうかがわれる.
他術式との比較に関しては,経鼻手術について,手術操作の正確性の問題,髄液漏の発生,鼻腔・副鼻腔の合併症などを欠点として挙げている.私の鞍結節髄膜腫の経鼻手術は未だ15例と限られた経験であるが,自験例では視機能障害を有する12例中9例(75%)が視機能改善,2例(17%)が不変であり,平均46.5ヵ月追跡期間で再発は認めていない.経鼻手術には①確実な硬膜縫合の技術,②十分な顕微鏡手術の経験,③経鼻手術専用の剥離機器が必須である.しかし,これらが揃えば,上下垂体動脈を直視下に置くことが出来る事,どちらの側も視神経管の減圧も可能である事など,開頭アプローチにはない大きな利点を前面に出すことが可能であり,今後期待し得る方法と考えている.ただし,上記の3点を獲得することはそれほど容易ではなく,現時点では基本的に施設限定手術と考えるべきであろう.(名古屋第二赤十字病院 脳神経外科 永谷 哲)

執筆者: 

有田和徳

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