グレード3髄膜腫と将来悪性転化するグレード1髄膜腫における神経炎症関連遺伝子発現の特徴:コペンハーゲン大学の51例

公開日:

2022年11月21日  

最終更新日:

2022年11月22日

Gene expression analysis during progression of malignant meningioma compared to benign meningioma

Author:

Maier AD  et al.

Affiliation:

Departments of Neurosurgery and Pathology, Rigshospitalet, Copenhagen University Hospital, Copenhagen, Denmark

⇒ PubMedで読む[PMID:36115056]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2022 Sep
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

良性の髄膜腫(WHOグレード1)とは異なった悪性髄膜腫(WHOグレード3)の分子生物学的な特徴が明らかになりつつあるが,神経炎症関連遺伝子発現の違いは明らかになっていない.コペンハーゲン大学脳外科は,2000年以降20年間で手術されたグレード3髄膜腫51例を対象に,転写や神経炎症などに関係する遺伝子発現の特徴を,787個の遺伝子パネル(NanoString社)を用いて解析した.対照は再発のないグレード1髄膜腫51例とした.さらに時間軸での変化を求めるためにグレード3に悪性転化する前のグレード1髄膜腫24例と同症例の悪性転化後の髄膜腫を比較した.

【結論】

再発のないグレード1髄膜腫に比較してグレード3髄膜腫では,FOXM1,TOP2A,BIRC5,MYBL2遺伝子とHOTAIR調節回路の遺伝子発現が上昇していた.また,グレード3髄膜腫とグレード1髄膜腫では神経炎症関連遺伝子の発現に違いが認められた.特にマイクログリア調節遺伝子の発現の程度だけで,グレード1髄膜腫とグレード3髄膜腫の分離が可能で,グレード3髄膜腫に比較してグレード1髄膜腫ではマイクログリア受容体P2RY12遺伝子の発現が上昇していた.
FOXM1はグレード1髄膜腫がグレード3髄膜腫に悪性転化する数年前から発現上昇していた.

【評価】

WHO2021では,H3K27me3欠失,TERTプロモーター遺伝子変異,CDKN2A/B遺伝子欠失が独立したグレード3髄膜腫の診断基準とされている(文献1,2,3).一方,グレード1髄膜腫の1~3%は再発時に悪性転化することが知られている(文献4).こうした悪性転化を予測する分子生物学的なマーカーとしては,1p欠失,TERTプロモーター変異,DNAメチル化プロファイル,CDKN2A共欠失,Ki-67高値などが報告されている.また,ターゲット遺伝子解析では髄膜腫の再発と相関する36個の遺伝子が指摘されている(文献5).さらに最近,髄膜腫の悪性転化に神経炎症関連因子や腫瘍関連マクロファージ(TAM)が関係していることが示唆されている(文献6,7).
本研究は,787個の巨大な遺伝子パネルを用いて髄膜腫の悪性化における転写やセルサイクル関連遺伝子,神経炎症関連遺伝子発現の特徴について検討したものである.
本研究では,再発時にグレード3に悪性転化するグレード1髄膜腫では,組織学的に未だグレード1髄膜腫である段階でもFOXM1(フォークヘッドボックスM1)などの転写関連あるいはセルサイクル関連遺伝子の発現が上昇していることを明らかにした.この結果は,髄膜腫の中でアグレッシブなものでは,セルサイクル調節と細胞分裂に関連する遺伝子の発現が豊富であるという従来の報告と一致している.
さらに,本研究では,グレード3髄膜腫とグレード1髄膜腫では神経炎症関連遺伝子の発現にも違いがあることを示した.特にマイクログリア受容体のP2RY12遺伝子やCX3CR1遺伝子は,グレード3髄膜腫では発現が低かった.こうした事実は,髄膜腫の悪性化における腫瘍免疫応答の役割を示唆しているのかも知れない.
本研究の結果は,髄膜腫の悪性化に関わる分子生物学的特徴の一側面に光をあてているが,この領域の研究のさらなる発展によって,特にグレード1髄膜腫手術後のフォローアップのスケジュールや追加治療のタイミングがより個別化,精緻化されることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳