脳梗塞のある高齢者は特殊詐欺や悪徳商法被害に遭いやすい:ラッシュ大学メディカルセンター(シカゴ)

公開日:

2022年11月21日  

最終更新日:

2022年11月22日

Association of Stroke and Cerebrovascular Pathologies With Scam Susceptibility in Older Adults

Author:

Kapasi A  et al.

Affiliation:

Alzheimer's Disease Center, Rush University Medical Center, Chicago, Illinois, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:36315115]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2022 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

Scam(特殊詐欺,悪徳商法)被害の受けやすさと脳血管障害との関係が示唆されている.ラッシュ大学アルツハイマー病センターなどのチームは,加齢に関する病理学的研究の二つの前向きコホート研究参加者で,死後剖検された被験者を対象に,剖検脳所見とscam被害の受けやすさの関係を検討した.対象は408例で,死亡時平均年齢は91歳(±6.1),女性73%,白人97%であった.Scam被害の受けやすさの指標には,生前にアンケート調査した5アイテムのリッカート・スケール(1~7)を用いた.例えば,“知らない番号の電話に出る” や “電話勧誘の話を聞く” は,同スケールが高値すなわち被害を受けやすいと評価された.

【結論】

剖検脳上の頻度は,肉眼的梗塞38%,顕微鏡的梗塞40%,アテローム性動脈硬化20%,細動脈硬化25%,脳アミロイド血管症35%,アルツハイマー病の病理所見63%,レビー小体25%などであった.人口統計的背景と神経変性病理所見の調整後の線形回帰モデル解析では,肉眼的梗塞の存在のみがscam被害の受けやすさと相関した(推定値0.18,p=.009).この相関は,心疾患リスクと包括的認知機能を調整しても維持された.部位的には前頭葉,側頭葉,後頭葉,視床の梗塞ではscam被害の受けやすさが大きかった.アテローム性動脈硬化や細動脈硬化などとscam被害の受けやすさとは相関しなかった.

【評価】

高齢者のscam(特殊詐欺,悪徳商法)被害は米国においても重要な社会問題で,scam被害は高齢者の経済的自立,精神的・肉体的幸福感,自己評価,他者との関係に深刻な障害をもたらす.この問題はCOVID-19パンデミックでさらに拍車がかかり,2020年1年間の高齢者の詐欺被害額は,COVID-19関連だけでも1億ドルに達すると報告されている.
従来,高齢者のscam被害の受けやすさに関しては,認知機能,社会心理学的因子,コンテクスト的因子,個性などが示唆されている(文献1,2,3).
本研究では,Spearmanあるいはt検定を用いて解析した結果,相対的に高齢であること,認知機能障害,神経症傾向(Neuroticism),低い幸福感,喫煙がscam被害の受けやすさと相関した.一方,剖検で発見された種々の脳血管病変の中では肉眼的梗塞の存在だけがscam被害の受けやすさと相関した(線形回帰モデル解析).重要なことは,この相関は,他の脳血管障害や認知機能障害で調整しても維持されたことである.
著者らは先行研究で,β-アミロイドなどの神経変性因子の蓄積やMRIにおける白質の統合性,灰白質の体積がscam被害の受けやすさと相関していることも報告している(文献4,5,6).
今回の研究では肉眼的梗塞の存在が,これらの神経変性因子の蓄積とは独立した相関因子であることを示している.
これは何を意味しているのか.本研究によれば,剖検で肉眼的梗塞が見つかる被験者は同時に顕微鏡的梗塞,アテローム性動脈硬化,大血管病変を有することが多かった.著者らは,これらの複合的な脳血管性ストレスが多数の白質ネットワークとその統合性を傷害し,炎症回路を始動させ,結果として脳の構造的障害を引き起こす結果,行動障害や意思決定障害を引き起こす可能性を示唆している.この中で,どの白質ネットワークあるいはどの炎症性因子が犯人であるかの探索は今後の課題であろう.
日本でも,振り込め詐欺やオレオレ詐欺などの特殊詐欺の被害額は毎年300億円前後で推移しており,被害者の約7割が65歳以上である(ウィキペディア『特殊詐欺』,2022年11月5日アクセス).このように社会の注目を浴びている状況を利用して,「特殊詐欺や悪徳商法に遭わないためにも脳卒中から身を守ろう」というフレーズは高齢者の心には響くかも知れない.

執筆者: 

有田和徳