未破裂脳動静脈奇形に対する定位手術的照射(SRS)後の年間出血率は1.2%と低い:1,620例のメタアナリシス

公開日:

2022年11月21日  

最終更新日:

2022年11月22日

Stereotactic Radiosurgery for A Randomized Trial of Unruptured Brain Arteriovenous Malformations-Eligible Patients: A Meta-Analysis

Author:

Ilyas A  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Alabama at Birmingham, Birmingham, Alabama, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:36001787]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2022 Nov
巻数:91(5)
開始ページ:684

【背景】

未破裂の脳動静脈奇形(AVM)に対する至適治療方針は何か? 2014年に発表されたARUBA研究の結果は侵襲的治療を否定するものであったが,この研究に対する批判も多い.アラバマ大学脳外科などのチームは未破裂AVMに対する定位手術的照射(SRS)の効果に関するメタアナリシスを行った.対象はARUBA研究と同様の18歳以上,mRS<2,未破裂のAVMに対するSRS治療の8報告1,620例.平均年齢は40歳で,症状は頭痛25%,けいれん30%,局所神経症状10%で,無症候性が36%であった.AVM平均径は2.8 cm,SMグレードI 18%,II 38%,III 35%,IV 9%で,深部静脈還流52%であった.

【結論】

SRSは平均辺縁線量20 Gyで照射された.平均追跡期間80ヵ月で,照射による画像上の変化は45%,症候性変化は11%,恒久的な神経症状出現は2%で認められた.最終追跡時のAVM閉塞は68%で認められた.全期間で,照射後の出血率は8%(年間1.2%),死亡率は2%であった.低いSMグレード,低いSRS-AVMスコア,高い辺縁線量は最終追跡時のAVM閉塞と相関した.年間1.2%というSRS後の出血率はARUBA研究の侵襲的治療群や,過去に報告された自然史における出血率を下回っていた.本研究は,ARUBA研究の報告がAVMに対するSRSの実臨床上の安全性と効果を反映していない可能性を示唆している.

【評価】

一旦破裂したAVMの年間破裂率は4.5%であるのに対して未破裂のAVMの破裂率は2.2%と約半分である(文献1).
未破裂の脳動静脈奇形(AVM)に対する内科的治療単独(てんかん,頭痛,その他全身併発症に対する薬物治療など)と侵襲的治療(内科治療+摘出手術,塞栓術,定位放射線治療,あるいはその組み合わせ)を比較したRCT(ARUBA)は,研究開始後平均追跡期間33ヵ月時点での中間解析で,内科群の優位性が確立したために,新規リクルートが中止となった(文献2,2014年).さらにARUBA研究最終追跡段階(追跡期間平均50.4ヵ月間)での結果が2020年に発表されているが,これでも一次エンドポイントである死亡か症候性脳卒中は内科治療群の方が有意に少なかった(3.9/100人年 vs 12.32/100人年,ハザード比:0.31,95%CI 0.17~0.56)(文献3).
このARUBA研究に対しては,様々な角度からの批判がなされている(文献4,5,6).特に一次エンドポイントの一つである症候性脳卒中には軽微な症状を伴う画像上の変化のすべてが含まれるため,治療の経過で出現する梗塞や出血などによる一過性の症状も登録されなければならず,侵襲的治療群にとって不利な設定となっている.
本稿の研究は,過去に報告された未破裂AVMに対するガンマナイフなどのSRSによる治療結果のメタアナリシスであるが,対象は1,620例と多く,重症度もSMグレード1-4を網羅しており,深部静脈還流ありが52%,AVM関連動脈瘤ありが13%であった.解析の結果,全経過を通しての症候性変化は11%,恒久的な神経症状出現は2%で認められた.照射後の出血率は年間1.2%であり,ARUBAの侵襲的治療群(8.32%),ARUBAの内科的治療群(2.29%),自然史観察研究の過去の2報(1.3%と2.2%)(文献1,7)のいずれよりも小さかった.また,最終追跡時のAVM閉塞は68%で認められ,AVM閉塞と相関したのは,低いSMグレード,低いSRS-AVMスコア,低いバージニアSRS-AVMスケール,高い辺縁照射線量であった.
著者らはこの結果を受けて,ARUBA研究の対象となるようなAVMのうちで特にナイダスの小さなものでは,SRSが良好なリスク・ベネフィット相関を示すと結論している.
現在,ランダム化後10年目での機能的自立(mRS<3)を主要評価項目として,内科的治療と侵襲的治療を比較する実用的RCT(TOBAS)が北米・仏の25センターで進行中である(文献8).この研究には内科的治療と侵襲的治療の比較と侵襲的治療群での血管内治療の有・無の比較という二つのRCTが含まれており,追跡期間は10年間と長い(研究終了は2035年).
しかし,少なくとも現段階では,結果が判明している未破裂AVMに関するRCTはARUBA研究だけである.その後発表された観察研究やメタアナリシスの結果を根拠に,若い患者,SMグレードI~IIの病変,非エロクエント領域の病変にはSRSを考慮しても良いかも知れないが,高いレベルのエビデンスではないことは肝に銘じておかなければならない.
一方で,未破裂動脈瘤と同様に未破裂のAVMの出血率には人種差が報告されており(文献9),適切な治療戦略の樹立には日本を含む東アジア圏でのRCTも欠かせない.

<コメント>
ARUBA研究発表後,未破裂AVMに対する積極的治療が行ないづらくなっている,というより,わずか1個のエビデンスを盾にして本来であれば治療すべき症例が平然と見放されてしまってきているように感じられる.ごく短期に脳内血流が変化させられてしまう外科的摘出や血管内治療と異なり,SRSは約3年間かけてナイダス内血流に変化をもたらす極めてslow reactiveな治療であり,かつ世界的に照射技術がほぼ均てん化された(術者間での治療技術に差がほぼない)低侵襲性治療であるため,本研究対象1,620例における臨床成績はまさにわれわれ定位放射線治療医にとって,common senseに相違ない数値として示されており,安全性の観点でARUBA研究結果を十分に凌駕するものであることは明白である.さらに著者らは本研究結果を受けて,ARUBA研究の対象となるようなAVMのうちで特にナイダスの小さなものでは,SRSが良好なリスク・ベネフィット相関を示すと結論している.
一方で,実臨床上の問題として挙げられるのは,18歳以下のAVM,とくにhigh grade AVMに対する治療指針である.我々の施設のポリシーとして,小児AVM,とくに女児症例に関してはいかなる状態であっても長い将来(仕事・結婚・妊娠・出産など)を見据えて何らかの治療を優先すべきであると考えている.中でも,他の侵襲的治療が困難とされているhigh grade AVM治療については,実際に均てん化された治療方法が実在しておらず,その管理・治療は各施設の判断に委ねられている.当施設では一貫して,priority targetをdrainer side nidusとして照射体積4 ccを上限とする単独(血管内治療を併用しない)staged SRSにて安全かつ効果的に治療を行い,予想以上に良好な結果を得ている(間もなくpublish予定).最近当施設では,治療機器やソフトウエアの革新的進歩も積極的に採用して,小児AVM症例であっても日帰り治療(アンギオレス・フレームレス・全身麻酔不要)が可能なレベルまで発展させてきた.未破裂AVMであっても症候性症例や小児症例に対しては,各施設で治療方針をしかと固め,患者さんそしてご家族の想いや完治へのこだわりが強い場合には,われわれ医療者が逃げず,治し切る医療を目指すべきと考えている.(東京女子医科大学ガンマナイフ室長 林 基弘)

執筆者: 

有田和徳

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