小児に対する1回の頭部CT検査はその後10年の間に1人/1万人の頻度で悪性脳腫瘍を誘発する:EPI-CT study

公開日:

2022年12月30日  

最終更新日:

2023年1月17日

Brain cancer after radiation exposure from CT examinations of children and young adults: results from the EPI-CT cohort study

Author:

Hauptmann M  et al.

Affiliation:

Institute of Biostatistics and Registry Research, Faculty of Health Sciences Brandenburg, Brandenburg Medical School, Neuruppin, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:36493793]

ジャーナル名:Lancet Oncol.
発行年月:2022 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

CT検査は重要な診断ツールであるが,放射線被曝によるリスクが伴い,特に小児では大きな問題となる.ドイツのブランデンブルク医科大学などの国際研究チームは,1977年から2014年に欧州9ヵ国276施設において,22歳未満で初回CT検査を受けた患者のうちそれまでに癌や良性脳腫瘍がなく,かつ 初回CT後最低5年間生存し癌を発症しなかった 658,752例(男性56%)をコホートとして,その後の悪性脳腫瘍発生のリスクを推定した.全体の73%が,最低1回の頭頚部のCT検査を受けていた.初回CT検査5年目以降の追跡期間は中央値5.6年(2.4~10.1年),82%は最終追跡時に30歳未満であった.

【結論】

追跡期間中に165件の悪性脳腫瘍が発生し,うち121件(73%)はグリオーマであった.累積脳線量はコホート全体で平均47.4 mGy,悪性脳腫瘍の診断を受けた集団では76.0 mGyであった.累積脳線量100 mGy増あたりの過剰相対リスクは悪性脳腫瘍全体で1.27(95% CI:0.51~2.69),悪性神経膠腫で1.11(95% CI:0.36~2.59)で,共に有意な用量反応関係が認められた.脳線量0 mGyに対する38 mGy(平均的な頭頚部CTの1回分)を受けた患者における悪性脳腫瘍発生の相対リスクは1.5で,10万人・年あたりの過剰絶対リスクは1.1(95% CI 0.6~1.6)であった.

【評価】

近年,小児期の頭頚部CTによる脳腫瘍発生のリスクを指摘する研究結果が発表されている(文献1,2,3,4).それに伴って,小児の頭頚部CTの頻度はそれまでの増加から安定・減少に転じている(文献5,6).しかし,これらの研究の中には対象症例数が少ないものや症例ごとの脳被爆線量の評価がないものがある.
本EPI-CT研究は,累積脳線量が推定できる約66万例のコホートの追跡によって,小児の頭頚部CT検査後の悪性脳腫瘍発生リスクが用量依存的に増大することを明瞭に示した.この相関関係は,リスク予測にバイアスを生じさせるおそれがある交絡因子に関する感度解析を行っても崩れることはなかった.また,単回のCT検査でも,累積脳線量が50 mGy以下でも,悪性脳腫瘍発生リスクはなくならず,放射線照射による悪性脳腫瘍発生に閾値がないこと(no-thresholdモデル)を改めて示した(文献7).
本研究は,初回CT検査までに癌や良性脳腫瘍の既往がなく,初回CT後最低5年間生存し癌を発症しなかった患者のみを対象とすることによって,脳腫瘍があるためにCTをとっていたというバイアスが排除できるように設計されている.
この解析では追跡10万人・年あたりの過剰絶対リスクが1.1であることを明らかにしている.これは,小児1万人に対して1回ずつ頭頚部CT検査をすると,その後約5~15年間の追跡期間内で,頭頚部CT検査を受けなかった1万人に対して,1人過剰に悪性脳腫瘍が発生すると推定されることを意味している.この推定値を,臨床現場としてどのように捉えるべきかは,判断に迷うところである.本稿が不要なCTの削減,線量最適化の重要性を改めて提起しているのは間違いないが,CT検査を受けなかったことによって重篤な転帰を招くリスクを考慮すれば,ハイそうですねと言うのはなかなか難しいように思う.ただし少なくとも,この研究結果は,小児に対して頭部CTを撮る際に,そのリスクに関する明瞭な根拠を医療者そして患者・家族に示しているのは事実である.
なお,本稿に対しては,電力中央研究所/広島大学原医研のHamada Nが,同一誌上でコメントを発表している(文献8).これによれば,1)本稿の研究では最終追跡時点での対象者の平均年齢は22歳に過ぎず,神経膠腫を含めた悪性脳腫瘍の発生はむしろ30歳以降に多いことを考慮すれば,より長期の追跡が必要である,2)用量依存的リスクの増大は,参加9ヵ国のうち,解析対象の41%を占めるUKでの登録症例に大きく影響されている.スウェーデンやオランダではそのような関係性は認められておらず,こうした国家間の差の理由についての解析が必要である,3)施設間の累積脳線量推定におけるエラーの幅について検討していないので,本当は95% CI区間がより広かった可能性がある,が指摘されている.
このEPI-CTコホートは,現在も追跡が続けられているとのことであり,さらに5年後,10年後の追跡結果に期待したい.
なお,小児の頭部CTの適応疾患で最も多い頭部外傷における頭部CTの適応基準については,米国のPECARN,カナダのCATCH,イギリスのCHALICE(NICE2014)などが有名であるが,それらの解説を含めた軽症頭部外傷における頭部CTの適応基準については下川の総説に詳しいので(文献9),一読をお勧めする.

<コメント>
同じ雑誌に載っているコメントが放射線影響と放射線生物を専門とする非医師の浜田信行氏によって書かれていることからも分かるように,一介の臨床の放射線科医にはこの論文の内容を科学的に検証するのは不可能ですが,臨床の放射線科医として気になることは以下の点です.既に各医療機関では「診療用放射線の安全利用のための指針」が策定されて施行されているはずです.これは国の定める「診療用放射線の安全利用のための指針策定に関するガイドライン」に沿って策定されているはずです.主にこれに,また諸々の通知に従えば,日本の日常臨床の毎回のCTでは既に,主治医が当該検査により想定される被ばく線量とその影響を説明したうえでそれを正当化し同意を得た上でそれをカルテに記載し,それでようやくCTが施行されているはずです.そしてその「影響」の中には確率的影響も明記されています.「はず」ばかり書いているのは現実から乖離していることは承知の上という事です.その上でこのようなエビデンスが出てしまったからには,今後は小児や若い人に頭部CTを撮る時は脳腫瘍になる可能性が多少なりとも高くなることを何らかの形で伝えておかないといけないことになります.国のガイドラインの記載からは,医療被曝を少なくしたいだけでなく,医師が患者から訴えられる事態も考えた上でのこのようなガイドラインだと思います.医療者側にとっても全くばかげた無視してよい制度でもないと思います.簡便な説明用紙を作る,小児用のCTの承諾書を作るなど何かしらの落としどころを探る必要があると思います.(東邦大学佐倉病院放射線科 寺田一志)

執筆者: 

有田和徳

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