膠芽腫では,カルシウム律動性ネットワークが腫瘍を攻撃から守り成長を促進するが,ネットワーク・ハブの喪失には弱い:Natureより

公開日:

2022年12月30日  

最終更新日:

2022年12月31日

Autonomous rhythmic activity in glioma networks drives brain tumour growth

Author:

Hausmann D  et al.

Affiliation:

Neurology Clinic and National Center for Tumor Diseases, University Hospital Heidelberg, Heidelberg, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:36517594]

ジャーナル名:Nature.
発行年月:2022 Dec
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

ハイデルベルグ大学腫瘍センターなどのチームは,人由来膠芽腫マウス移植モデルを用いて,カルシウム律動による腫瘍内ネットワークの構造,コミュニケーション戦略,腫瘍成長への影響について解析した.
これによると,全腫瘍細胞の1~5%を占める高活動性の細胞集団からなる細胞間ネットワークは,カルシウム活性化カリウム チャネル(KCa3.1)依存的な律動性カルシウム振動を示し,その他の腫瘍細胞とマイクロチューブで結合していた.ネットワーク細胞集団内のカルシウム・トランジェントは,ネットワークと結合している他の腫瘍細胞内のカルシウム・トランジェントを作り出し,MAPK/NF-κB経路を介して腫瘍の成長を促進していた.

【結論】

このネットワークは腫瘍細胞をランダムな攻撃から守るようにデザインされているが,キ-となるハブの喪失には弱かった.ネットワークに特有の律動性カルシウム振動を作り出す細胞をターゲットとした物理的除去(レーザーアブレーション),遺伝子的介入(KCa3.1のノックアウトあるいはノックダウン),KCa3.1阻害薬(TRAM-34やSenicapoc)の投与は,ネットワークを強く抑制し,ネットワーク内にある腫瘍細胞の活動性を低下させ,腫瘍成長を抑制し,移植マウスの生存を延長した.
この律動性カルシウム振動に基づく膠芽腫細胞ネットワークの解析は,これをターゲットとした新規治療への路を開くかも知れない.

【評価】

カルシウム・トランジェントとは活動電位に従って細胞質内全体のカルシウムイオン濃度が一気に上昇する動きのことで,心筋の場合は,洞房結節がペースメーカーとなっており,これが心筋収縮を生み出す(文献1).本稿では,膠芽腫全体の1~5%の細胞からなるネットワークが自らのカルシウム・トランジェント律動によって,このネットワークに結合する他の腫瘍細胞のカルシウム・トランジェントを惹起し,成長を促進していると推測している.さらに,このネットワークの律動性カルシウム活動を作り出すカルシウム活性化カリウム チャネル(KCa3.1)をターゲットとした薬物(TRAM-34やSenicapoc)は腫瘍増殖を抑制し,宿主の生存を延長することを明らかにしている.
著者らはまた,RNAシークエンシングの手法によって,膠芽腫細胞中の2.4%でKCa3.1発現が認められ,これらの細胞は分子生物学的に間葉タイプ(mesenchymal type)に属していることを示している(文献2).また,膠芽腫患者データでもKCa3.1発現が高い腫瘍を有する患者では生命予後が不良なことを明らかにしている.さらに膠芽腫のTCGAデータベースを利用した探索でも,KCa3.1発現が低い患者では,膠芽腫全体でも,間葉タイプ膠芽腫群の中でも生命予後が良好な事を示している.
他の癌腫においてもカルシウム活性化カリウム チャネル(KCa1.1,KCa3.1,KCa2.1-2.3)が腫瘍の成長や移動に重要な役割を果たしていることが明らかになっている(文献3).このうちKCa3.1はグリオーマの他に乳癌,大腸癌,腎癌,肝細胞癌などで高発現している.これをターゲットとした治療方法として,ヒストン脱アセチル化酵素HDACによるKCa3.1の発現・転写制御,KCa3.1阻害剤などを利用する研究が続けられている.今後,膠芽腫においても,KCa3.1高発現細胞を含んだカルシウム律動ネットワークが新しい治療法開発のターゲットとなるかも知れない.
ただし著者らも言うように,KCa3.1が高発現している間葉タイプ膠芽腫細胞をハブとしたネットワークは既に定着した大多数の腫瘍細胞を制御しているかも知れないが,膠芽腫の浸潤先端で新たな領土を拡大しつつあるのは神経細胞としての特徴をより豊富に示す腫瘍細胞群である(文献4).これらの浸潤先端細胞群では周囲の神経細胞とのクロストークが腫瘍増殖に寄与していることも示唆されている(文献5).両者に対する治療戦略は異なるべきものかも知れない.

執筆者: 

有田和徳