小児のtectal glioma(中脳視蓋神経膠腫)の臨床像と治療:335例のメタアナリシス

公開日:

2023年1月17日  

最終更新日:

2023年1月19日

Management strategies for pediatric patients with tectal gliomas: a systematic review

Author:

Bauman MMJ  et al.

Affiliation:

Department of Neurologic Surgery, Mayo Clinic, Rochester, MN, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:34609665]

ジャーナル名:Neurosurg Rev.
発行年月:2022 Apr
巻数:45(2)
開始ページ:1031

【背景】

Tectal gliomaは主として小児の中脳蓋に発生する稀な腫瘍であり,その適切な治療法に関しては高いレベルのエビデンスはない.本稿は小児のtectal gliomaの臨床像,治療,転帰についての過去最大のシステマティックレビューである.対象は2000年以降に発表された14報告355例(0~20歳).報告毎の症例数は6~44例.臨床症状としての眼に関する異常(注視麻痺,乳頭浮腫,複視,視野障害)は,報告毎で13.6~88.9%とばらつき,全体としては129例(36.3%)で認められた.MRIにおける造影効果は,報告毎で0~77.8%とばらつき,全体としては78例(22.0%)で認められた.

【結論】

治療・管理に関しては,髄液路変更317例(89.3%),画像による経過観察232例(65.4%),摘出術69例(19.4%),放射線療法30例(8.4%),化学療法19例(5.4%)が実施されていた.摘出術あるいはバイオプシーで組織診断が得られたのは117例で,内訳は毛様細胞性(pilocytic)星細胞腫44例(37.6%),びまん性星細胞腫(Grade 2)30例(25.6%),低悪性度グリオーマ(non-pilocytic)15例(12.8%)であった.画像上の進行は,報告毎で9.7~85.7%とばらつき,全体としては104例(29.3%)で認められた.死亡の報告は9例であった.

【評価】

Tectal glioma(中脳視蓋神経膠腫)は小児の中脳蓋や中脳水道周囲に発生する稀な良性(indolent)のグリオーマで,periaqueductal tumor(中脳水道周囲腫瘍)とも呼ばれる(文献1).組織学的には毛様細胞性星細胞腫(pilocytic astrocytoma)あるいはびまん性グリオーマである(文献2,3).その多くは増大スピードが遅いindolentな腫瘍であり,MRIによるフォローが管理の第一選択で,閉塞性水頭症を来した時に髄液路変更手術が行われる(文献4,5).しかし,最近の報告によれば,真のperiaqueductal tumorはtectal gliomaよりはアグレッシブな臨床像を示すので,両者を画像上で鑑別することが重要であるという(文献6).
本稿は,14報告355例を基にした,小児のtectal gliomaの臨床像,治療,転帰についての過去最大の包括的なレビューである.しかし,その何れの事項に関しても,報告毎にばらつきが大きく,本疾患の臨床的評価法,治療選択において,臨床家の間でかなりの差があることをうかがわせる.
腫瘍による閉塞性水頭症に対する髄液路変更手術は,本シリーズの約9割の症例で実施されている.その多くは内視鏡下第三脳室底開窓術(ETV)であり,7割以上で成功を収めている.初回ETVが無効な時には,再度のETVかVPシャントが選択されることが多い(文献7).
腫瘍そのものに対する手術療法については,その実施率は報告毎で2.3~100%と大きくばらついている.中には摘出術を治療の第一選択とし,ほとんどの症例に摘出手術を行っているという報告もあるが(文献1,8),当然ながら,合併症の発生率は高いので,摘出術の適応は急速増大例や大きな腫瘍に限られるかも知れない.ただし,毛様細胞性星細胞腫の一部のように,もっぱら脳実質より外向きに成長するものであれば,安全な全摘が可能かも知れない.
放射線照射の方法としては,最近はガンマナイフを用いた定位手術的照射が導入されており,強い腫瘍抑制効果が報告されている(文献9).ただし,髄液路変更術ではなく,この定位手術的照射を治療の第一選択とするべきかどうかに関しては,まだエビデンスに乏しい.化学療法は,増大例や再発に対して,カルボプラチン/ビンクリスチンの併用(文献10),テモゾロミドが使用されているが,その使用頻度は5.4%に過ぎない.発達期の脳への放射線照射を避けるために,若年者では化学療法を選択する施設もある.
著者らは,本レビューの結果を受けて,①小児のtectal gliomaは基本的には経過観察と髄液路変更術で管理可能である ②定位手術的照射を含めた補助療法は期待できるかも知れない ③摘出手術の安全性,有効性,適応に関しては未だ検討を要する とまとめている.
本稿を読むと,小児のtectal gliomaは稀な疾患であるために,未だ十分なエビデンスが蓄積されていないように思われる.今後,多施設での前向き研究が必須である.また,将来は分子生物学的な解析とその臨床的な意義づけも必要であろう.

<コメント>
通常tectal gliomaと呼ばれている腫瘍群にはかなりheterogenousな症例が含まれていると考えられ,meta-analysisの論文を読み解く場合にはこの点に注意する必要がある.典型的なtectal gliomaは,tectal plateから発生したもので,画像上造影効果はなく,増大スピードが遅いindolentな腫瘍である.したがって水頭症を伴う場合は,CSF diversionのみを行い,経過観察を行うのが一般的と考えられ,放射線治療や化学療法まで行う症例は稀である.上記14報告の解析では,造影効果を伴う腫瘍の割合が0~35%とばらつきがあることから,tectal glioma以外の腫瘍も含まれている可能性を考える.tectal plateから中脳,脳幹や視床に進展している腫瘍はtectal gliomaではなく,腫瘍によっては松果体腫瘍(PPTID)などとの鑑別も必要である.このような非典型的な腫瘍に関しては,exophyticに進展している場合や,生検や切除が可能な部位にあれば,手術を行い,組織診断を行う必要がある.摘出された組織に関しては,現在は分子解析が必須であり,NGSゲノムプロファイリング検査を行うのが望ましい.BRAFV600E変異を伴うpilocytic astrocytomaなどに関しては,ゲノム医療としてBRAF阻害薬による標的療法も可能な時代になっている.(九州大学脳神経外科 吉本幸司)

執筆者: 

松田大樹