ガンマナイフによるAVM消失後に生じる慢性被膜化拡張性血腫(CEEH)とは何か:15例の解析

公開日:

2023年1月18日  

最終更新日:

2023年1月19日

Chronic Encapsulated Expanding Hematomas After Stereotactic Radiosurgery for Intracranial Arteriovenous Malformations: An International Multicenter Case Series

Author:

Abou-Al-Shaar H  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Pittsburgh Medical Center, Pittsburgh, Pennsylvania, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:36519863]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Jan
巻数:92(1)
開始ページ:195

【背景】

比較的小型のAVMはガンマナイフによる定位手術的放射線照射(SRS)によって高率に消失するが,稀に,AVM消失後に照射野に慢性被膜化拡張性血腫(CEEH)が出現することがある(文献1,2,3).ピッツバーグ大学などのガンマナイフ4施設は1987年以降にSRSが実施された5,430例のAVMを対象にCEEHの頻度と病態を解析した.
全体の0.28%にあたる15例(女性9例)が,最終SRS後中央値106ヵ月(56-336)でCEEHと診断された.初回SRS時の年齢中央値は45歳.5例はSRS以前に出血があり,3例はSRS前に塞栓術が施行されていた.11例は1回のみの照射,4例は追加照射が行われた.

【結論】

AVMの平均体積は12 mL,SMグレードI:2例,II:6例,III:2例,IV:4例,V:1例であった.平均辺縁線量は20.9 Gy,平均辺縁アイソドーズは53.1%であった.14例ではSRS後中央値37ヵ月で血管撮影によってAVMの閉塞が確認されている.
症状は5例が頭痛,4例がけいれん,2例が失語,1例が視力喪失で,5例は術後経過観察画像検査によって偶然に発見された.
9例で摘出術が行われ,6例は保存的(抗けいれん剤やステロイドが主体)に治療された.CEEH診断後の追跡期間は中央値32ヵ月で,9例は臨床的改善が得られ,6例は不変であった.

【評価】

本稿によれば,慢性被膜化拡張性血腫(CEEH)はAVMに対するSRS後に数年の経過で極めてまれ(0.28%)に生じ,その多くは血管撮影上でAVMは消失している.一方,本論文の著者らは,自施設で経験した950例のAVMに対するSRSでは6例(0.63%)にCEEHが認められた事を報告しており(文献4),本病態に対する注目やSRS後の追跡の密度によっては0.28%という頻度より高い可能性がある.また,過去にAVMに対するSRS後の出血を伴った遅発性壊死(文献5)や海綿状血管腫(文献6)として報告されている症例の中にもCEEHに一致する病理像を呈するものが有りそうである.
CEEHの摘出術は多くの場合,合併症なく症状の改善や安定化をもたらす.抗けいれん剤やステロイドによる保存的治療も症状の改善をもたらしている.この結果を受けて著者らは,SRS照射野内に生じたCEEHは比較的予後良好な病態で,脳葉に発生したものでは手術が推奨され,小型,無症候性,深部などの病変では保存的管理も可能であると結論している.
それでは,CEEHの本質は何なのか.著者らは6例の病理所見を示している.これによれば,CEEH内にはAVMはもはや存在しておらず,血腫壁は,新旧の出血の中に多数の壁の厚い不整形の拡張した血管,リンパ球/形質細胞の集蔟,ヒアリン化部分,ヘモジデリン沈着マクロファージ,線維化組織からなる肉芽組織からなっていた.全例で肉芽組織内の血管内皮にVEGF mRNAが高発現していた.ラット脳に対するガンマナイフ照射後の脳にVEGFが過剰発現することや(文献7),先行するガンマナイフ後CEEHの症例報告でも血腫内壁の内皮細胞が免疫組織学的に強いVEGF陽性を示すことが報告されている(文献3,8).著者らは血腫壁内の血管内皮におけるこの豊富なVEGF発現がさらなる血管新生を,その結果として慢性的な血腫の拡張をもたらしている可能性を推測している.
CEEHの真の頻度と病態については,SRS後の出血を伴う遅発性放射線壊死や海綿状血管腫との相違点などを明確にした上で,より大規模なコホートで解析すべきであると思う.

<コメント>
AVMに対するガンマナイフ治療後の経過中に起こる慢性被膜化拡張性血腫(CEEH)の出現率が0.28~0.63%ということであれば,AVMを年間15例程度治療するガンマナイフ施設だと,1例遭遇するのに11~24年となる.CEEHの発症中央値は106か月と8年以上経過している症例が多く,場合によってはAVMに対するルーチンのフォローアップ期間が終了してしまっている可能性もあり,無症候性も含めればCEEHの発症率はもう少し高いとも考えられる.
一方,CEEHと画像所見ならびに臨床経過が類似している遅発性嚢胞形成や海綿状血管腫は,AVMに対するガンマナイフ治療後の経過中に良く遭遇する病態である.遅発性嚢胞形成は放射線壊死であり,治療後5年間に最大23%に発症すると言われている(文献9).このために,従来出血を伴う遅発性放射線壊死と診断された症例の中にかなりの数のCEEHが含まれている可能性がある.
病理学的にCEEH内にはAVMはもはや存在していないこと,ラット脳に対するガンマナイフ照射後の照射野にVEGFが過剰発現すること,本態性振戦に対するgammathalamotomyでもCEEHが起こることを考えれば,CEEHは脳実質に対し高線量が照射されたことによる遅発性副作用と考えられる.本稿の症例15ではAVM体積が0.1 ccであるが2回のSRSがなされており,周囲脳に高線量が照射された可能性が高い.症例1,3ではAVM体積も大きく複数回のSRSが行われている.また,AVMのナイダスがびまん性である場合や形状が複雑なものでは,脳実質に照射される線量は高くなる.近年,ガンマナイフ治療装置,プランニングソフトの進歩により高精度の照射が可能となってきたが,初期の治療装置,プランニングソフトでは周囲脳実質への照射線量が高かった可能性がある.AVMは,大きさによってはSRSでの根治が可能であり,SRSがAVMの有力な治療手段であることは事実である.今後,CEEH,出血性遅発性嚢胞形成,海綿状血管腫の臨床像の違いや画像による鑑別点が明らかになること,またそれらの発生を防ぐための治療手技の改善が進むことに期待したい.(たかの橋中央病院ガンマナイフセンター 秋光知英,岡村朗健)

<コメント>
AVMに対し,SRSを受けた症例の33%は組織学的に遅発性放射線壊死が見られ,実際に症候化するのは1.7〜7.6%とされる(文献10).どのような症例,あるいはどのようなSRS実施方法が照射野内の繰り返す遅発性出血の原因となるかは不明であるが,以前,我々はガンマナイフのcollimator helmetの大きさとconformity indexの違いが原因の一つではないかと考察した(文献5).つまり小さなcollimatorを使用し,ターゲットに対する細かく正確な照射によって遅発性放射線壊死が回避出来ると考えらたが,これらの因子が今回のシリーズではどうであったのか興味深い.(鹿児島大学脳神経外科 大吉達樹)

執筆者: 

有田和徳

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