活性化第X因子阻害薬服用者は慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術後の再発が多い

公開日:

2023年1月18日  

最終更新日:

2023年1月19日

Predictors of Subsequent Intervention After Middle Meningeal Artery Embolization for Treatment of Subdural Hematoma: A Nationwide Analysis

Author:

Fuentes AM  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, University of Illinois at Chicago, Chicago, Illinois, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:36129273]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2023 Jan
巻数:92(1)
開始ページ:144

【背景】

慢性硬膜下血腫では,血腫被膜の新生血管からの微小出血が血腫増大の原因である.最近,再発を繰り返す慢性硬膜下血腫に対して,あるいは初発の慢性硬膜下血腫に対して,新生血管の栄養動脈である中硬膜動脈の塞栓術が行われている.その有効性は,多施設登録研究,システマティックレビューなどを通して徐々に明らかになっている(文献1-4).しかし,中硬膜動脈塞栓術後に再手術を必要とする症例も稀ではない.本研究は,米国の全支払者医療費データベースであるMarinerを用いて,慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術後5年以内の再発に対する手術を要した頻度とその要因をロジスティック回帰モデルを用いて解析したものである.

【結論】

2010年以降,322例が慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術を受けた.55例(17.1%)がその後5年以内に再発に対する手術療法を受けた.内訳は穿頭血腫除去術が36例(11.2%)で,開頭手術が19例(5.9%)であった.活性化第X因子阻害薬を塞栓術90日以内に服用していたのは19例(5.9%)で,このうち5例がその後に再発に対する手術を受けた.多変量解析では,活性化第X因子阻害薬の服用は,塞栓術後の再発に対する手術療法の必要性と独立して相関していた.その他の因子(年齢,性,併存症,ビタミンK拮抗剤内服,抗血小板剤内服)はいずれも再発に対する手術療法の必要性とは相関しなかった.

【評価】

本研究で用いられたMariner(PearlDiver社)は医療費請求情報のデータベースで,個人支払いから私的保険,Medicaid,Medicareまで,全ての支払い側の医療費情報が登録されており,米国では1.2億人をカバーしている.最近は,同データベースを用いたリアルワールドでの住民ベース研究も増えている.
本稿は,最近徐々に普及しつつある慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術後の再発に対する手術(穿頭血腫除去か開頭手術)の頻度と,それと関係する因子について,Marinerデータベースを用いて医療現場での実態を検討したものである.その結果,慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術後の再発-手術の頻度は5年間で17.1%で,DOACの活性化第X因子阻害薬(リバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン)の使用が再発-手術と相関していた.年齢,併存症などその他の因子については相関はなかった.
従来,抗凝固薬や抗血小板薬の使用が,慢性硬膜下血腫に対する穿頭血腫ドレナージ後の再発と相関していることが示唆されているが(文献5,6),それを否定する報告もある(文献7,8).本研究では,ビタミンK拮抗剤(ワーファリン),抗血小板剤の服用は慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術後の再発-手術のリスク因子ではなく,活性化第X因子阻害薬の服用のみがリスク因子であることを明らかにした.今後,他のコホートで検証されるべき発見である.

<コメント>
慢性硬膜下血腫に対する中硬膜動脈塞栓術は,私の岡山大学脳神経外科血管グループの先輩であるMandai Sによって,2000年にJournal of Neurosurgeryに世界で初めて報告された(文献9).過去の国内での先行研究から,慢性硬膜下血腫において中硬膜動脈から血腫に向けて “tumor stain” のような微小新生血管が認められ,これが血腫増大の一因であると推察されたことから,であればこの “tumor stain” を血管内手技で閉塞させれば,治癒に向かうのではないかとの慧眼から本治療がスタートしている.一方で,慢性硬膜下血腫は低侵襲な局所麻酔による穿頭洗浄術で高率に治癒が得られる「良性な」疾患として認知されており,また塞栓術では特に圧迫症状のある例での即効性・有効性に疑問が残る.このことから我々も,再発する,難治性で,強い神経圧迫症状のない症例に限って本法を適応して,一定の効果を上げてきた.
最近本邦でも,慢性硬膜下血腫は従来考えられてきたような「良性な」疾患ではないことがわかってきた.つまり,慢性硬膜下血腫が全身合併症を伴う(抗血栓療法中を含む)高齢者に多く,手術によっても以前ほど転帰は良くないことがデータとして示されている.塞栓術(穿頭術の併用を含む)により,再発の減少,転帰の向上が得られるのかどうか,知りたいところである.
既報のように,すでに欧米ではRCTが組まれるほど,本治療法は拡がりを見せ,発展してきている.本報告では抗血栓薬のうち抗凝固系の薬剤使用のみが,中硬膜動脈塞栓術後再発の危険因子と指摘された.抗血栓療法下の患者こそ塞栓術による効果が期待される症例であり,さらなる検討が望まれる.また,中硬膜動脈をどの部位から閉塞するのか? 塞栓材料としては何(液体か粒子か)が望ましいのか? 等々塞栓方法に関しても未解決の課題が残されている.
本治療法を開発した,世界一の超高齢社会を迎えた本邦においても,何らかのアクションが必要と感じた次第である.(岡山大学脳神経外科 杉生憲志)

執筆者: 

有田和徳

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